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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2006年07月02日

感の時代 

ヒット商品応援団日記No77(毎週2回更新)  2006.7.2.

やはり「えんぴつで奥の細道」(ポプラ社)が週間ベストセラーNO1に躍り出た。(トーハン6月27日調べ)芭蕉の名文をお手本の上からなぞり書きするいわゆる教本である。全てPCまかせでスピードを競うデジタル世界ではほとんど書くという行為はない。ましてや、鉛筆など持つことがない日常である。たまに、申請書類など直筆で書く時、こんなに書くことが下手になってしまったのかと思うことが多々ある。ある意味で、便利さから一度はなれて、自分と向き合う入り口になっているのだと思う。「えんぴつで奥の細道」の書を担当された大迫閑歩さんは”紀行文を読む行為が闊歩することだとしたら、書くとは路傍の花を見ながら道草を食うようなもの”と話されている。けだし名言で、今までは道草など排除してビジネス、いや人生を歩んできたと思う。このベストセラーに対し、スローライフ、アナログ時代、大人の時代、文化の時代、といったキーワードでくくる人が多いと思う。それはそれで正解だと思うが、私は直筆を通した想像という感性の取り戻しの入り口のように思える。全てが瞬時に答えが得られてしまう時代、全てがスイッチ一つで行われる時代、1ヶ月前に起きた事件などはまるで数年前のように思えてしまう過剰な情報消費時代、そこには「想像」を働かせる余地などない。「道草」などしている余裕などありはしない。そうした時代にあって失ったものは何か、それは人間が本来もっている想像力である。自然を感じ取る力、野生とでもいうべき生命力、ある意味では危険などを予知する能力、人とのふれあいから生まれる情感、こうした五感力とでもいうような感性によって想像的世界が生まれてくる。既に3月にこのブログで「野生の思考」で私の考えの一端を述べているので是非参考にしていただきたい。(http://remodelnet.cocolog-nifty.com/remodelnet/2006/03/index.html
ところで江戸時代、俳句は最も贅沢な遊びであった。有限である人生そのものを俳句という道草をする訳であるから、これ以上の贅沢はない。私は俳句の専門家ではないのでその美的感性世界を読み解くことはできないが、マーケティングとして少し読み解いてみたいと思う。和食、和のインテリアや古民家、浴衣に代表されるファッション、漢字、般若心経、・・・・洋のライフスタイルからの反転、揺れ戻しによる、いわゆる和ブームの時代に入っているが、日本の精神世界その根底にあるのが、削ぎ落とし、「引き算の美学」である。「なにもなにも、ちいさきものはみなうつくし」と言ったのは清少納言であるが、引く、空ける、削ることによって生まれる美学である。俳句でいえば、言外、行間、間に美を感じとる世界である。空間でいえば、茶室のように空白、余白、ミニマムに美を感じ取る。そうした日本古来の美学に対し、反逆した世界も出てくる。その代表例が歌舞伎であり、戦国武将の婆娑羅的衣装であろう。さて、こうした「引き算の美学」は、わびさび、あはれ、いき、といったキーワードへとつながっている。「わびさび」はよく使われる言葉であるが、「侘しい、寂しい」といった物足らない様のことであり、「あはれ」とは自然や人へのしみじみとした情感・交感であり、「いき」とは、意気地、洗練としての我慢の意味、それで良しとする一種のあきらめを含んだ色気、こうした精緻な美意識こそ日本の美である。
こうした世界を今風にいうと「シンプル&ナチュラル」というのであろうが、そうした程度の表現では追いつけない奥行きのある世界である。「伝え方」も当然変わらなければならない。全てが過剰であった時代から、物語も削ぎ落とされなければならない。多くを言う時代から、たった一言、たった一幕、たった一つのアクション、によって顧客が動く時代へと向かう。その「たった一言」に感じる時代へと向かっているということである。別な視点からいうと、削ぎ落とし、引き算をし、空けてみて、それでも残るもの、それは本質であり、本物であると思う。今、言われている「質」の時代とはそうした削ぎ落とされた商品であり、流通であると思う。一度、これでもかと引き算をしてみてはいかがであろうか。対象とする市場を狭めてみる、品揃え商品を絞り込んでみる、売り場を半分にしてみる、販売スタッフを少なくしてみる、一個売りをクオーターカットしてみる、量り売りをしてみる、・・・・・そこに「何が」見えるかである。リストラをしてみるということではない。引き算をし、削ぎ落としてもなお残るもの、それがあなたのお店・商品を代表する「何か」である。顧客から見れば”いろいろあるけど、あそこはこれよね”とする「代表性」である。そして、それは「道草」に耐えられるだけの、「感じ」とることができる「何か」をもっているか否かである。そして、その「代表性」をたった一言で表現してみることだ。(続く)

追記  6月20日以前のブログをご覧いただく場合は下記のアドレスにアクセスください。http://remodelnet.cocolog-nifty.com/remodelnet/  


Posted by ヒット商品応援団 at 15:01Comments(0)新市場創造