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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2022年05月13日

悪性インフレ始まる

ヒット商品応援団日記No803毎週更新) 2022.5.13



4ヶ月ぶりのブログとなってしまったが、私ごとで恐縮だが、ひどい腰痛のためPCに向かうことができなかった。その間コロナ禍はオミクロン株の亜種が爆発的な感染拡大となり、更には2月24日にはウクライナへのロシア侵攻があり世界中がその衝撃に包まれることとなった。腰痛とは言え思考が寸断されることはあっても、「事態」を考えることはあった。

まず、ウクライナとロシアの戦争であるが、私もそうだが、国際政治や軍事の専門家ではないことから、報道される時々のニュースに思うことを記憶を辿って書いてみることにした。日本における報道の論調はまさかロシア軍が侵攻はしないであろうと言うウクライナへのNTO加盟を断念させるための「圧力」で終わるであろうと。そうした論調とは異なり米国政府のみが「侵攻」はあり得ると断言しており、実際はその通りとなった。そして、「何故プーチン大統領は同じスラブ民族であるウクライナに軍事侵攻したのかと言う<理由>に注目が集まった。そして、欧米メディアから繰り返される惨劇の映像情報により、ウクライナ・ゼレンスキー大統領=善、ロシア・プーチン大統領=悪、と言う構図、現代のハイブリッド戦争による「イメージ」がつくられてきた。しかし、戦争の現象面を感情面から見てはならないと考える。ウクライナ侵攻から2ヶ月半が経ち、停戦に向かう気配はない。そこで、出来る限り自身の過去考えてきた記憶を辿り、冷静にウクライナ戦争の意味と日本への影響を考えてみた。

まずNTO加盟の歴史は周知の通り米ソ冷戦~ソヴィエト崩壊があるのだが、時代の節目から日本の経済を見て行くとより理解しやすい。日本の産業経済は戦後復興を目指し、ひたすら世界中を駆け巡る「セールスマン」であった。結果、高度経済成長期を経て1980年代のバブル景気へと向かう。一方、バブルの頂点である1989年から1992年と言う時期は、東欧の脱共産化、東西ドイツの統一、そしてソ連崩壊というように、冷戦が終わると同時に「世界地図大きくが塗り替わった時代」となる。その歴史の中心にはペレストロイカを進めたゴルバチェフがいたのだが、ソ連が崩壊した1992年は日本ではバブル崩壊の年でもあった。バブル崩壊後の日本についてはどんな変化が促されたのかは未来塾として「転換期から学ぶ」と言うタイトルで5回にわたって分析したことがあった。その第一回目が「パラダイム転換から学ぶ」で、その中心となったのが「世界のグローバル化」であった。当時の関心はソ連邦の崩壊のその後ではなく、もっぱら日本の国内における諸問題であった。

ソ連邦崩壊後、各国は相次いで独立しグローバル市場へと向かう。1998年にはロシアがサミットに参加し、G8が開催される。こうした世界全体がグローバル化に合わせるようにあのトヨタ自動車はロシアに工場進出を始めたことを思い出す。
そのグローバル市場の象徴が周知のEU・欧州連合も米ソ冷戦の象徴であった東西ドイツの統合と共に1992年欧州共同体の枠組みが出来上がる。つまり、巨大な経済圏が作られグローバル市場の一角が生まれるることとなる。

周知のようにEUが作られる背景の一つとして悲惨な第二次世界大戦の教訓があり、欧州の国々の主権や文化を尊重しながら共同体としての新たな価値観を模索することにあった。当時永世中立国のモデルでもある小国スイスを調べたことがあった。今回のウクライナにおいても「中立」が一つのキーワードになっているが、スイスの中立主義には実は自国が焦土となっても戦い抜く強い「覚悟」と「国民皆兵」のシステムを有している。そもそもスイス軍の 常備軍構成は約4000名の職業軍人であるが、徴兵制度により21万名の予備役を確保している。 実は傭兵の歴史を持つスイスでは、国民皆兵を国是としており、徴兵制度を採用している。 また、外国政府がスイス国内に基地等の軍事施設を設置することも容認していない。そして、第二次世界大戦中スイスは「武装中立」路線を貫き、ナチスドイツ側にも連合国軍側にも肩入れしない方針をとり、戦時中のスイスを守ったとして国民的英雄も生まれている。ちなみに第二次世界大戦の開戦前、スイスはフランス及びドイツから戦闘機を大量に購入、またはライセンス生産して航空戦力を整える。第二次世界大戦の開戦と同時に、スイスは国際社会に対して「武装中立」を宣言し、侵略者に対しては焦土作戦で臨むことを表明。実際にスイス領内に侵入したナチスドイツ側にも連合国軍側にも同様に撃墜し、陸上では、ナチス・ドイツのフランス侵攻後に連合国軍の敗残兵約42000人が入国してきたのを武装解除して抑留している。

地政学的にも日本とは異なる欧州は国境はあるものの地続き、つまり侵略・戦争が繰り返された歴史を持つ。EUのスタートもそうだが、グローバル市場の進展はある意味戦争を抑止することにもつながっていると感じたことがあった。その象徴がドイツで前首相のメルケルはロシアとの天然ガス事業の推進にも表れており、その延長線上にはもう一つの社会主義大国中郷にも自動車をはじめとした市場開拓を進めてきたことは周知の通りである。経済を通じた平和構築という正論・王道であったが、メルケルの考えは今回のウクライナ戦争では裏目に出てしまった。

ところでバブル崩壊後の1990年代から2000年代にかけて、私の関心事は日本の流通、ショッピングセンターや百貨店のコンセプトづくりと言うことからグローバル経済による「生活変化」の分析へと向かい、次第に今回のロシア・ウクライナをはじめとした欧州への関心は失せていった。ちょうど米国が大量破壊兵器保有を理由に始めたイラク戦争は失敗し、世界の警察から転換した時期と重なり、プーチン大統領によるクリミア併合も「遠い国の出来事」のように感じ始めていた。国際政治に疎い私ではあるが、時々の報道により、例えば2001年の9・11の後、アメリカがアフガニスタンに介入したときプーチン大統領はそれを支持し、2004年にバルト三国がNATOに加盟したときも強く反対しなかった。各国の思惑はその時々の政治状況によって変わるものだと、そんな風に受け止めていた。戦争は外交の失敗であり、その本質は「騙し合い」(駆け引き)であるとも。多くの専門家によれば、ウクライナを親露派政権と欧米の民主化を求める国民とが分断した2014年の「マイダン革命」にあったという指摘である。この時期から米国の介入が始まったと言う説である。裏側でどんな「騙し合い」があったかわからない。

私の専門は「消費」をテーマとしたマーケティングであり、そうした視点から2000年代の日本s市場のグローバル化の進展を見て行くとバブル崩壊からの一つの「定着点」としてのライフスタイルが見られるようになった。それを称し「成熟時代」と書いたことがあった。その成熟さは欧米的なものから日本的なものへ、家族単位から個人単位への揺れ戻しであり一種落ち着いた消費マインドがつくられた。しかし、周知の2008年に起こったリーマンショックによって消費市場は縮小した。「訳あり」といったキーワードによるデフレの強風が吹き荒れた時代であったが、その後落ち着きを取り戻したものの2019年春からのコロナ禍の大波によって生活行動が抑制され特に飲食業界、観光業界は大きく毀損した。こうした背景でのウクライナ戦争である。既にエネルギー資源を輸入に頼っており、ガスや電気料金だけではなく、生活のあらゆるうところに値上げが始まった。既に報道されているように多くの食品や飲食で値上げが行われたが、ウクライナ戦争によるエネルギー価格の高騰は本格的には秋口からとなリ、悪性インフレに襲われることとなる。悪性とは収入が増えないところでの物価高騰であるが、日米の金利差による「円安」はこの悪性インフレに拍車をかけることとなる。コロナ禍までのデフレは一挙にインフレへと転換することとなる。日本企業の業績は悪くはないが、賃金への反映は大企業を除けばこの「インフレ」には追いつかないであろう。こうしたウクライナ戦争の影響だけではく、日本の主要な貿易相手国である中国は、その「ゼロコロナ政策」によるロックダウンによりサプライチェーンが再び寸断され日本経済にも影響が出始めている。

そして、国際政治の専門家をはじめ戦争の長期化が指摘され、米国政府自身もウクライナ支援による「ロシアの弱体化」を表明している。そして、ロシアはその「侵攻」を止める気配どころかその勢力圏を拡大する兆候すら見せている。一方、ウクライナはブチャというキーヴ近郊での住民虐殺を契機に「勝利するまで戦う」とその態度を硬化さsている。
戦争当事国以外の世界各国を見て行くと、国連においてロシアへの非難決議には多くの国が賛成しても、インドをはじめ中東諸国などはロシアとの関係を大きく変える動きは見せてはいない。
中でもロシアの友好国である中国の場合、武器支援は行わないものの天然ガスをはじめ経済制裁も枠から外れており、ある意味世界の「様子見」の立場をとっている。各国それぞれの思惑はあっても共通していることはエネルギー資源」をはじめとした「インフレ」である。日本においても円安という「悪いインフレ」がこれから長期にわたって起きるということである。コロナ禍によって大きく傷んだ外食産業は随時「値上げ」に踏み切っている。顧客離れどころではないということだ。これが悪いインフレの実態である。勿論、市場は今まで以上に縮小しその柔軟性を失って行く。
一方、もう一つの観光産業はこの5月のGW期間多くの「人出」によって一息ついたであろう。規制のない休日であり、窮屈な3年間のリベンジ消費といったところだが、これからが「本番」で悪いインフレに立ち向かわなければならない。リベンジと言う「反動」への期待ではなく、日本人が忘れて埋もれていた地域の「魅力」を発掘することだ。
そして、1990年代日本のアニメが海外のオタクフアンによって秋葉原・アキバが観光地になり再認識されたように、3年前のインバウンド需要拡大もバックパッカーと言われた旅行オタク、日本オタクであった。政府は訪日観光の規制については段階的緩和して行くようだが、円安は間違いなく追い風になる。
その観光コンテンツであるが、例えばコロナ禍以前では「桜観光」が訪日観光客・リピーターの関心事であった。その「桜観光」の次を旅行コンテンツに育てて行くと言うことだ。「紅葉」など日本の四季観光へと繋がって行くであろう。そして、勿論のことその土地ならではの「食文化」も併せである。また露天風呂など温泉、さらには「祭りもも主要なコンテンツとなる。
こうした観光の中心は地方となるが、都市観光も重要なものとなる。コロナ禍以前では東京では有楽町のガード下飲屋街や新宿西口の思い出横丁、あるいは市場であれば築地市場、大阪であれば黒門市場となるが、都市固有の「賑わい」体験も重要な観光コンテンツとなる。日本人が当たり前で魅力に感じてはいない「賑わい」でそこに独自な魅力を感じてもらうと言う事である。これが7~8年前から提唱している「横丁・路地裏」観光である。

つまり、私の言葉で言えば、「昭和」となる。少し前までごくごく普通であった「日常」の出来事がコンテンツになると言う事だ。創られる昭和も良いが、今なお残っている「昭和」である。便利で合理的な清潔な街並みから少し外れた「一角」。食で追えば、今や世界の日本食となったラーメンではなく、青森の100年食堂ではないが、町中華で出される懐かしい醤油味のラーメン、トレンドとなたスパイスカレーではなく家庭で作るジャガイモカレーである。大阪で言えば、お好み焼き屋たこ焼き、串カツとなる。夏以降、徐々にではあるが広がるインバウンド市場はこうした「昭和」に注目が集まるであろう。
戦後の成長を可能としたものは「何か」、貧しくても豊かに感じた「街」「人」そして、「暮らし」、つまり生活文化の追体験である。コロナ禍によって失った最大のものは「賑わい」である。まだまだコロナ禍は続くがワクチン普及と治療薬によって共存できる社会が創られて行くであろう。

日銀の黒田総裁が来年任期終了となり、新総裁のもとで「利上げ」に踏み切ると金融の専門家は指摘し、おそらくそうした政策がとられて行くであろう。つまり、当分の間は「円安」が続くと言う事だ。ウクライナ戦争も長期化するとなれば、原材料高による「インフレ」がさらに押し上げる。例えば、ガソリンなどは政府の補助金で一定の価格が保たれるであろうが、「消費財」はことごとく価格上昇となる。消費は必要最低限なものに絞られ消費市場は縮小する。「お得」を求めてサブスクなど多くのアイディアも生まれてくるであろう。ただインフレに妙薬はない。「厳選消費」は「減選消費」へと向かうが、それが単に安くすればと言うことではない。例えば長く使い続けたい、使えば使いほど「しっくり」する、そんな「使用満足感」が今以上に求められてくると言うことだ。「食」で言えば、食べ飽きない、クセになる、そんなメニューである。つまり、顧客主義の基本・原点に戻るということだ。そして、この原則を守りきるには値上げしかないと決断した大手回転寿司のスシローのようなケースはこれからも続出するであろう。

ウイルスとの戦争・コロナ禍については出口が見えて来た。もう一つの戦争がウクライナ戦争であるが、「戦争は外交の失敗であり、その本質は「騙し合い」であると書いた。勿論誰もが願うのは停戦であり、休戦である。その道筋をつけるのは「武力」ではなく「外交」である。混乱する時代にあって道標とすべきはやはり基本・原則である。(続く)
追記 なお未来塾 下山からの風景(3)の「昭和文化考」も悪性インフレを踏まえた分析として書き直しているので少しの時間をいただきたい。
  


Posted by ヒット商品応援団 at 12:55Comments(0)新市場創造