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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2015年12月23日

未来塾(20)テーマから学ぶ 「差分」が生み出す第3の世界(後半) (前半)

 ヒット商品応援団日記No632(毎週更新) 2015.12.23.




(前半からの続き)

時代ならではの新しい「差」の創り方

今まで取り上げてきた飲食業態は、どちらかというと一定の規模、チェーン展開を可能とする「差」の創り方ビジネスである。「俺の」のビジネスの場合、地価の高い東京での経営の第一として、立席スタイルによる顧客の回転率を高めたことにある。このように地価の高い都市部、賃料に見合うビジネスとして様々なアイディア溢れる「差」創りによる集客が行われている。
そうしたアイディアの方向について整理すると、ほぼ次の4つの「差」創りに分けることができる。

1、迷い店
看板のない、入り口がどこかわからない、雑居ビルの地下や3~4階、あるいはごく普通の住宅街にあるなかなかたどり着けない迷い店。こうした店舗立地の分かりづらさを逆に活用した、面白がり・ゲーム感覚を売り物にした「差」づくりの店である。

かなり前のことになるが、表通りからは入ることができない中華料理の行列店がある。帝里加 (デリカ)という店で銀座8丁目の首都高速汐留パーキング(地下駐車場)にあるまさに知る人ぞ知る店である。古い店で今もやっているかどうか食べログで調べたが今も健在のようだ。銀座の中心からは少し離れてはいるが、当時のランチは確か550円程度であったと記憶している。当時は銀座の外れとはいえ安く食べられる店として人気があったが、確か数年前に「地下駐車場にある中華料理店」という珍しさがTV局に取材され、そうした意味での観光客も訪れるようになっているようだ。

こうした隠れ家的な店から、今や見事にたどり着けない店が至る所に出てきている。こうしたたどり着けない光景はTV的で見られた人もいることと思う。例えば、テレビ朝日 スーパーJチャンネルで紹介された新宿三丁目の「ホルモン鍋盛岡五郎」はまさに迷い店の典型であろう。雑居ビルに看板は出ているが、店があるべき場所には、業務用大型冷蔵庫の扉があるだけ。実は冷蔵庫の扉=店の入口で、店主いわく「店名は忘れても冷蔵庫の扉は印象深い」ことから、からくりめいた構造にしたのだという。

2、狭小店
地価の高い都市、更には使えないほどの狭い空間、ある意味都市が生み出すデッドスペースをうまく活用した店舗である。

「すし処まさ」という名前を知っている人はかなりのすし通として食べ歩いている人であろう。もしそうでなくても”ああ、あの店か!”と思い出す人もいると思う。新橋駅前ビル2号館の地下にあるわずか3席しかない寿司店としてTVなどでも取り上げられた店だ。勿論、完全予約制で、2~3年先まで予約で一杯という店で、プライベートな「マイ寿司店」である。

「すし処まさ」も古い店であるが、古くからある狭小店となると、JR神田駅高架下の焼肉「六花界」も同じで数名も入れば一杯となるわずか2坪半の立ち飲み焼肉店である。肉を焼く七輪はわずか2つ、隣り合わせの見知らぬ客と一緒に焼いて食べるので、仲良くなること請け合い、縁結びの店としても有名である。TVでも何度となく取り上げられてきたので、遠方から「六花界」を目当てに来る「観光地」にもなっている。

また小田急線新百合ケ丘駅には階段下にこれも狭いカレー専門店がある。「チェリーブロッサム」という店で、ここも席数はわずか5席。階段下というデッドスペースを女性店主が小田急電鉄と交渉の末、了解を得て店舗にしたという。「チェリーブロッサム」も「六花界」と同様、見知らぬ者同士が仲良くなるとして「縁結びの店」としても知られている。

マーケティングに「プロブレム・イコール・オポチニティ」というキーワードがある。問題点こそ新たな解決の入り口となるという意味だが、狭小であればこその世界、「差」の創り方があるということだ。

3、遠い店
4年ほど前からテレビ朝日による行列ができる即日完売の店を漫才コンビU字工事が訪れる「いきなり!黄金伝説」という番組がある。この番組放映を見て、全国各地にある行列店観光の旅をする人も多く出てきたと思う。「そこまでしても食べたい」というのは食欲のそれではなく、食べ歩きの趣味が高じた一種の「行列オタク」といった方が分かりやすい。

迷いはしないが、とにかく遠くても行きたい人気店がある。最近ではハイキングコースとして知られる高尾山に温浴施設が出来て、登山と共に楽しめるようになったが、それまでのもう一つの楽しみが名物の蕎麦である。
最近ではこうした遠くても行列オタクが出没する日本一標高の高い山頂のパン屋さん「横手山頂ヒュッテ」が人気となっている。長野県と群馬県の県境にそびえる横手山の山頂にあるパン屋さんであるが、毎朝山頂で焼き上げる絶品のパンは、一度食べたら忘れられない味という。

これもTV番組的な話題として格好のものであるが、ここ数年「遠くても行きたい」オタクが増えてきている。撮り鉄、乗り鉄といった鉄道フアンはよく知られた存在であるが、全国各地の食による町おこしイベントであるB1グランプリがスタートして以降、全国各地のフードイベントを食べに旅行する「食べ歩きオタク」が多くなってきている。そうした意味で、「遠く」は問題とはならず、逆に「遠く」を楽しむ世界が生まれてきたということである。
勿論、そのためには「際立った」、「ここだけ」「この時だけ」という明確な「差」創りが求められていることは言うまでもない。

4、まさか店
「まさか」とは、あり得ない、いくらなんでも、本当!といった意味で使われる言葉であるが、常識を覆した店が激増している。特に、激増しているのが「デカ盛り」「メガ盛り」といった「量」の意外性を売り物とした、「差」創り店。もう一つが「価格」のまさかで当然原価割れしていることがわかる超低価格の設定である。こうした店の多くは口コミを始めTV局が取材してくれるであろうことを期待したもので、いわゆる宣伝費として実施しているところが多い。

こうした宣伝費として行う店は一定期間集客し、経験してもらえれば終了するというところがほとんどである。「まさか」を継続している店、今なお経営している店の一つが横浜を中心に展開している蕎麦店「味奈登庵(みなとあん)」であろう。創業40年、フルサービス店とセルフサービス店の2タイプがあるチェーン店だが、製麺工場に店舗がある、そんな業態である。1番の人気はつけ天。注文が入ってから天ぷらはあげる。美味しくて値段が手頃のため一日に400人以上が押し寄せる店である。
ところで、そのメニューであるが、セルフサービス店の人気の蕎麦の「富士山もり」はまさに超デカ盛りの蕎麦である。(是非HPを見て頂けれと思う。)
もり 300円
大もり 400円
富士山もり 500円
皿もり 300円
冷やしそば500円
おそらく「デカ盛り」と言った言葉がない時代から継続して提供しており、いわば元祖デカ盛り蕎麦店と言えよう。

これ以上数多くある「まさか店」を取り上げてもおまり意味はないので取り上げないが、いずれの場合もその最初の驚きは次第に慣れと共に無くなっていく。店も、メニューも、サービスも、オープンの時が一番新鮮な驚きを提供する。この鮮度を保つには次々と異なる「まさか」を導入し続けるか、もしくは「味奈登庵」のようにプロモーションとしてのそれではなく経営ポリシーとして持続させ、そのことを顧客が良く理解し共感を得られるか、そのどちらかである。
「味奈登庵」の場合、富士山もりに象徴されるデカ盛りによって創られる「差」は、独自な世界、第三の世界を見事に創り得ることに成功し、一つのブランドにまで高め得た事例である。
価格における「まさか」と思わせる「安さ」をブランドの根底に据えた専門店には、あのドン・キホーテがあり、均一価格100円としてはダイソーがある。この2社がブランドとして成立し得たのは、「差」創りという視点に立てば、見事なくらい第三の世界を新たに創り得たことによる。


テーマから学ぶ


今回のテーマは競争市場という避けて通ることができない現在にあって、「差分」という発想から見た幾つかの事例を取り上げ、顧客支持が得られる「差」とは何かを分析してみた。

5つ目の「差」創り

ところで私のブログや拙著を読んでいただいている人には、チョットいつもとは違うなと思われると思う。特に、4つの「差」創りのところである。実は4つではなく、5つであるのだが、一番重要なことは人による「差」である。例えば、周りを大型商業施設に囲まれ、衰退するかのように誰もが考えた江東区の砂町銀座商店街には、個性豊かな「あさり屋」の看板娘や昭和の匂いのする銀座ホールには人の良い名物オヤジがいる。そうした多彩な「役者」が日々商売している商店街である。それを目当てにご近所顧客どころか、都内から多くのシニアが押しかける商店街となっている。
街場の商店の最大の競争力、他に代えがたい「差」は人である。その人が作るメニューは量産できるものではなく、家庭料理、おふくろの味といっても過言ではない。それを人情食堂と呼ぼうが、昭和の洋食屋と呼ぼうが、その多くは「人」が創る「差」、固有な世界、まさに第三の世界がそこにはある。今回はそれらを分かった上での「差」とは何かを事例をもって分析した。

「差」の大きさがその後の明暗を分ける

今から3年ほど前に「俺のフレンチ・イタリアン」を取り上げた時、「ありそうで無かった」飲食店として「東京チカラめし」についても同じような視点で取り上げたことがあった。いわゆる焼肉丼の専門業態であるが、取り上げてから2年後には半年で一気に39店舗の閉鎖という結果となった。「焼き牛丼」(並盛330円)というスタイルと安さで、「吉野家」や「すき家」、「松屋」といった牛丼チェーンを猛追し、急成長した専門店である。その縮小(直営12店舗、フランチャイズ3店舗のみ運営)理由や背景は業界的には様々言われてきたが、俯瞰的に見れば「価格差」と「メニュー差」共に、実は大きな「差」として新しい世界を創り得なかったということになる。「東京チカラめし」導入後、牛丼大手にはすぐに「焼肉丼」というメニューが並び、メニュージャンルとしての「差」はなくなった。また、価格についても他の競争相手となっている牛丼だけでなく、今や外食最大手のコンビニ弁当との「差」を創り得なかったということである。
一方、同時期に「ありそうでなかった」メニュー業態で、多くの顧客支持を得た「俺の」も今手直しが入っている。スクラップ&ビルトは常であるとは言え、新しい「差」創りの成功と失敗という一つの事例として学ばなければならない。
情報の時代とは類似を生む時代だけでなく、顧客の側に立てば自在に選択できる時代ということである。小さな「差」は次第に周りの食の情報に埋もれ、選択のテーブルには上がらなくなっていく。

サイドメニュー戦略の進化と深化

今までのサイドメニューと言うと前述のナタデココのようなデザートが代表的なものであった。女性客を獲得するには甘いものは別腹という言葉があるように、飲食業界はこぞってデザートを競い合ってきた。こうしたサイドメニューの原型はどこにあるかと言えば、ファミレスがお手本として導入したのはホテルレストランであった。1970年代お手頃価格でホテル並みのサービスを満喫できる、そんなスタイルの最後に出てくるのがデザートであった。つまり、食のスタイルとしてのデザートである。この考え方は、外食で言うとファミレスから居酒屋まで取り入れられてきた。例えば、それまでの焼肉店ではデザートはあまり充実してはいなかったが、「差」創りとしてアイスクリームなど充実させたのが牛角チェーンであった。

しかし、競争はそうした「差」を差としなくなってきた。つまり、顧客の側にとってあらゆるところにスイーツが氾濫するようになり、特にコンビニにおけるスイーツのクオリティは高く、消費の先鞭をつける女性にとって最早差を感じることは少なくなってきた。結論から言うと、デザートの「戦略性」はどんどん減少してきたということである。

そして、こうしたメニュー環境を進化させたのは同一業種間の競争ではなく、業際という垣根がなくなり、選択肢は顧客の側に移った時代の只中にいるという認識が重要となる。7年ほど前から「ワンコインランチ」という言葉が当たり前のように使われてきた。何をランチで食べるかではなく、500円のランチを食べるという、デフレ型消費心理の象徴となるキーワードであった。また、同時期に流行った言葉がガツン系とかデカ盛りといった言葉であった。しかし、一方では一番活発な消費を見せる30代男子は「草食系」と呼ばれ、「お弁当族」なる言葉も流行った。多様な消費といえばそれで終いであるが、実は「多様さ」を突き抜けるようなメニュー模索が始まっている。

その一つがメインメニューとしてのサイドメニューである。言葉遊びのように思えるかもしれないが、両輪としてのメインメニューとサイドメニューといった方が的確であろう。「よもだそば」の看板には”自家製麺とインドカレーの店”とある。文字通り読むとなると、「そばとカレーの店」となる。
業際とは異なる事業にまたがった新事業を指す言葉だが、「よもだそば」の場合は異なるジャンルの異なるメニューにまたがる新しい専門店とでも表現したくなるそば店である。つまり、それほどまでに、専門店並みのカレーを提供しているということである。
新橋「丹波屋」のネパールカレーしかり、回転寿司の「くら寿司」のラーメンやシャリカレーもしかりである。そして、このサイドメニューのメインメニュー化によって新たな顧客層の拡大と客単価のアップという2つの戦略が同時に行なわれているということに注視する必要がある。
そば屋なのにここまでやるのか、回転すしなのにここまでやるのか、といったサイドメニューに「差」を創るところまで競争は進化し、深化してきたということである。そして、今後の競争はこうしたサイドメニューにおける「差」創りによって新たに生まれる第三の世界間の競争へと向かう。

課題をチャンスに変えるアイディア

外食特に客層を広げる必要のある店の第一のポイントは出店立地である。しかし、都市部の一等立地と言われる場所は賃料も当然高くなる。賃料に見合う経営をするにはどうすべきか、その良き事例の一つが「立ち食い」=「高回転」=「ニュースタイル」を生み出した「俺の」であった。今回さらに取り上げてみた「迷い店」「狭小店」「遠い店」「まさか店」はそうした課題に対し、いわば逆転の発想を持ってチャンスに変える店づくり、「差」創りである。
その「差」創りは情報の時代ならではのもので、「迷い店」「狭小店」「遠い店」も含め、その意外性、驚きをどうつくるかという「まさか店」である。話題性が最大の集客力となるのだが、その話題も時間経過と共にその「鮮度」は落ちてくる。ちょうど東京ディズニーリゾートが一定の間隔で新たなアトラクションを導入し、常に変化あるエンターテイメントを提供し続ける構図と同じ宿命を持っている。飲食業におけるアトラクションは「メニュー」ということである。

激安、激盛り、激辛、・・・・・・激であればあるほどまさかという「情報」を求めて行列ができる。行列という情報は、また次なる行列を呼ぶこととなる。いわば観光地化が進んでいくということである。こうした観光地化を「街単位」「エリア単位」で再生したのが、「谷根千」(谷中、根津、千駄木)である。拙著「未来の消滅都市論」にも書いたが、その後も「谷根千」には続々と和物の雑貨などの「観光地土産店」が誕生している。観光客に対し、昭和レトロというテーマ集積、テーマパーク化が進行しているということである。「まさか店」もメニュー創りとして、同様のテーマパーク化に向かうこととなる。つまり、「まさかメニューの充実と拡大」が観光鮮度を維持するということになる。

こうした「まさか店」を成立させる着眼の一つが、「差」創りにおける「あっと思わせるようなトリック世界」、あるいは「なるほどと思わせる物語世界」である。前者は「迷い店」で取り上げた業務用大型冷蔵庫の扉を入り口とした新宿の「ホルモン焼き店」であり、後者は「狭小店」の神田の立ち食い焼肉の「六花界」における縁結び物語となる。

ところで、この未来塾を書いている最中に再来年春に導入予定である新消費税における軽減税率の概要が政府&与党内でほぼ決まったと報道された。その内容だが外食とアルコール飲料以外の生鮮食品、加工食品については現行の8%に据え置くと。逆に、外食産業は10%になるということである。テイクアウトやデリバリーは軽減税率の適用を受けるようだ。そして、誰もが考えることは、2017年春以降は「内食化」が進むであろうと。それは更に「食」における競争が質的に激化するということであり、どんな「差」を創るべきか、チェーン店も、個人事業者店も、その明確な戦略が一層求められていくことは間違いない。
繰り返しになるが、「差」によって生まれる、顧客の脳が創りあげる「お値段以上の何か」「新しい何か」「第三の世界」をめぐる競争となる。そして、ほぼ軽減税率が決まったことで、外食産業は次なる戦略と実行への準備が一斉にスタートする。創り手の主張、メッセージがこの「差」に託され、顧客の側もその選択肢で応える、そんな市場になる。
どんな時代であっても、顧客の選択肢とは理屈としてではなく、自ら経験・食べもし、そのことによって「差」を体験するのである。今まで体験したことのなかったような、そんな突き抜けるほどの「差のある世界」であれば、リピーターやオタクとなる。ある意味、オタクという存在は突き抜けた「何か」を感じる、そんな「差」を決めてくれる存在である。いわば次の何かを感じ取るアンテナショップならぬ、アンテナオタクの時代を迎えたということだ。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:25Comments(0)新市場創造

2015年12月20日

未来塾(20)テーマから学ぶ 「差分」が生み出す第3の世界 (前半)

ヒット商品応援団日記No632(毎週更新) 2015.12.20.

「差分」という聞きなれない言葉を使ったが、これは慶応大学佐藤雅彦研究室による「差分」(美 術出版社刊)によるものである。この「差分」という考え方をもう少し現実ビジネスに引き寄せて、競争市場下の「今」をテーマとした。特に、消費の世界におけるデフレ的現象が続く中、従来の「価格差」以外の競争力として新しい芽とその背景について学んでみることとする。




「テーマから学ぶ」

「差分」が生み出す第3の世界
競争市場下の「今」


5年ほど前になるが、インテリア業界に一つの革命をもたらしたニトリだが、その躍進について、似鳥社長はTV局のインタビューにその「安さ」について”20%程度の安さでは消費者の心を動かすことはできない。動かすとなるとやはり30%以上の安さでないと”と答えていた。しかも、”お値段以上のニトリ”をコンセプトとしている。こうした「差」がもたらす世界は価格だけでなく多様な消費世界に現れている。ビジネスマンであれば、必ずついて回るテーマ、「どう差をつくるか」について、その「今」を、飲食市場に現れた新しい「芽」をテーマとして取り上げてみることにした。

ところで「差分」という聞きなれない言葉を使ったが、慶応大学佐藤雅彦研究室による「差分」(美術出版社刊)によるものである。脳科学を踏まえた次なる表現を多くのビジュアルを使って、”「差」を取ることで新しい何かが生まれる”ことを検証した著作である。差分とは隣り合ったものの差を取った時の「脳の答え」であるとし、その比較には新しい情報が含まれていると指摘をしている。
ニトリの例で言うならば、他との価格差が20%引きでは何事も生まれないが、30%引きになると価格差以外に「新しい何か」「心を動かす何か」「お値段以上の何か」という「第3の世界」が生まれるということになる。少し単純化してしまい佐藤教授には申し訳ないが、私のこの著作から受けた「解釈」はそうしたものであった。「差分」は大変示唆的な著作であり、著作権の問題からビジュアルを含め多くを引用できないので、是非とも一読されたらと思う。

この「差分」という考え方をもう少し現実ビジネスに引き寄せて補足するとなると、やはりブランドあるいは老舗の持つ「差」とは何かということにつながる考え方・着眼である。景気が低迷するデフレの時代にあっては、「価格差」が違いを明確にする一番の要因ではあるが、一方根強いブランドフアンもいる。拙著「未来の消滅都市論」にも書いたことだが、「差異」は顧客によってつくられるとし、ボードリヤールの記号論を引用しながら「特別なコード」、記号価値が消費を左右すると書いた。この記号価値が購入したいと欲求する価格を決めるもので、他に代えがたい記号価値を持つものとしてブランドや老舗を位置付けた。
「差分」という文脈から言うとすれば、多くの時間を経た歴史や文化が堆積した「何か」に新しさを感じ取る、「脳の答え」として創造されているということになる。私の言葉で言うと、Old New、古が新しいと感じる世界のことである。結果、「価格差」が生まれるということになる。
そして、前回の未来塾「シモキタ文化」のところでも書いたが、古着フアンにとって古着とは他者との「違い」を自己表現の中に取り入れる特異な商品としてある。そして、多くの古着フアンはそうした「一点もの」、あるいは「レア物」を探すことを「出会い」と呼び、その「差」を楽しむ消費スタイルとなっている。しかも、上から下まで1万円というのが新品の価格ゾーンで一般的となっているが、古着においては3000円となり、安価に「差」が創れる新しい第3の世界という商品ということだ。

デフレ時代にはこの「価格差」が消費心理の多くを占めてきた。佐藤雅彦先生流に言うと、脳がそのように答えてきたということである。1990年代後半、デフレの旗手と言われたユニクロ、吉野家、日本マクドナルド、あるいは業態は異なるが、ネットショッピングの入り口で仮想商店街を作った楽天も入るかもしれない。今やリアル店舗で商品を確認しネットで購入というのが一つの消費パターンとなっているが、そのお膝元である米国では、アマゾンに負けじとあのエブリデーロープライスのウオルマートですらリアル店舗を受け取り場所としたネット活用に踏み切ってきた。これら全て「価格」の持つ「力」、「差」を戦略化した例であろう。
しかし、こうしたデフレ潮流も数年前から、単なる「安さ」だけでは「差」となりえない消費に向かってきている。その象徴例が圧倒的な「安さ」を売り物とした居酒屋チェーンの衰退である。おつまみをはじめとした食事メニューのほとんどが300円以下となり、若い世代の財布に優しい業態として成長してきた。しかし、その代表的な企業であるワタミは右肩下がりとなり、2015年3月期の決算では創業初の営業赤字、損失は126億円に及んだと報じられている。その中核事業である居酒屋チェーンの和民は2014年度中に約100店舗ほど閉鎖したことが赤字に大きく影響したのだが、それら全て顧客が離れていった結果であることは間違いない。私に言わせれば、それまでの「居酒屋」はお酒中心の業態であったところに、「居食屋」という新しいコンセプト、食事を中心とした業態に圧倒的な顧客支持を得ることができた。しかし、その「居食屋」業態には新たな業態が続々参入する。今ではあのファミレスや中華食堂の日高屋までもが、夕方ともなればサラリーマン相手のちょい呑み居酒屋へと変身する。「差」をつけるどころか、逆に「差」をつけられた古い業態へと向かってしまったことによる。ある意味、「変わること」ができなかった典型的なモデルケースとなってしまったということだ。


4つの「差」づくり

今回のテーマについてだが、1990年代後半からのデフレとは異なる「デフレ」が進行している。ここではその「デフレ」とは何かといった定義ではなく、消費という視点に立つとデフレ的現象が続く中、新しい「差」の創り方が幾つか出てきている。
まずその整理として、以下のような「差」の作り方がある。
●業態としての「差」
●メニューとしての「差」
●価格における「差」
●ネーミングなどコミュニケーションの「差」
勿論、こうした「差」の組み合わせも当然あるのだが、価格における「差」を踏まえた「差」の組み合わせが数多く見られる。


「俺のフレンチ」の革新性

「俺の」ビジネスモデルの出発点は2011年9月第1号店、わずか16坪の「俺のイタリアン」(新橋本店)であった。当時はあまり話題にはならなかったが、「俺のフレンチ」銀座本店をオープンさせた頃から、”立ち食いフレンチ”といういまだかってなかった業態に注目が集まり始めた。そして、2012年の日経MJ「ヒット商品番付」にもその特異性が紹介され、ブームが起こる。当時のブログ
「2012年ヒット商品番付を読み解く」において、私は次のようなコメントを書いた。

『今年のヒット商品は「ありそうで無かった」業態に注目が集まっている。その代表例が「俺のフレンチ・イタリアン」である。・・・・・・キャビアなどの高級食材を使った一皿1000円未満のレストランであるが、大半が立ち食い業態で1日の客回転が5回にも及んでいるという。東京新橋の立ち飲み居酒屋は中高年対象であるが、若い世代の立ち飲み業態、ショットバーは恵比寿を始め都内には無数存在している。しかし、食材にお金を使った本格フレンチ・イタリアンで一皿1000円未満、そのかわりに立ち食いスタイルという「ありそうで無かった」レストラン業態に若い世代が支持をしている。』

フレンチと言うと、高級で着席スタイルという格式を要した業態であると、多くの顧客は理解していたが、「俺の」の場合はリーズナブル価格で、立ち食いスタイルというカジュアルな業態という極めて大きな「差」を感じる人間は多い。しかし、そうした感じ方はシニア世代が多く、若い世代にとっては敷居は低く、しかも新鮮なスタイル感であった。同じ「差」であっても世代やマーケットによって大きく変わる良き事例である。
しかも、飲食業態は初期投資が大きく償却に時間がかかる。「俺の」の場合は、出店店舗の多くは撤退した居抜き物件で小さな投資で償却も短い、そんなビジネスモデルでもある。そうしたことから周知のように、「スパニッシュ」「やきとり」「割烹」「そば・おでん」「焼肉」「中華料理」と、その多様な飲食へと成長してきた。現在は30数店舗ほどであるが、世界への出店を含め、300店舗を当面の目標とすると発表されている。元々中古本販売の「BOOK OFF」の創業者であった坂本孝氏をリーダーとした企業で、その程度の店舗数をマネジメントすることは十分可能である。

ところで全ての店舗を見たわけではないが、ブームという期間を終え、業態やメニューに幾つか「手直し」が入っている。創られた「差」が大きければ大きいほど、新しい「何か」への興味・関心を呼び、結果ブームという現象が生まれる。つまり、新しい客層を開発することはできるが、同時に時間経過と共に利用回数も減ってくる、あるいは一度体験してみたいとした「観光利用」のような顧客は当然リピーターにはならない。
例えば、写真の「俺のフレンチ」は元は「俺のイタリアン」であった。そして、立ち食いスタイルではなく、34席全て着席スタイルといういわば業態の転換である。しかも、銀座並木通り店では初めてコース料理のみを取り入れている。ちなみに、フレンチとしてはかなり安いものであると思うが、例えば6品フルコースで3999円(税別)となっている。
今後どんな展開を見せていくか興味深いものであるが、着席スタイルの店を多くし、更には小型店を少なくし、大型店舗の出店を多くしていくと推測される。その象徴と思われる店が銀座に2店ある。
「俺のフレンチTOKYO」と「俺のイタリアンTOKYO」である。それぞれ180席と130席ほどの大型店舗で、全て着席スタイルとなっている。そして、ピアノなども置かれライブミュージックを楽しみながら食事をするといった具合である。アミューズ代300円、ミュージックチャージ300円が必要となる。そして、料理の方も今までの小型店でのメニュー価格よりかは高く設定されているようだ。

こうした手直しと共に、新規メニューの導入に際してはその単価を上げていくとも聞いている。つまり、リピーター化を図るための着席スタイルの拡大と、客単価を上げて新たな採算ベースの経営を行うということであろう。
また、こうした手直しが明確に出ているのが「俺のだし」であろう。オープン当初の店名は「俺のそば」であったが、店名の変更と共にメニューにも変化が出てきている。
銀座5の店頭写真を見ていただくと分かるように、「天丼」も出すようにメニューも変わってきている。勿論、蕎麦屋に天丼はつきものではあるが、そばに特化したメニューから客層を拡大するための一つの方策であると考えられる。元々、立ち食いそばは客層が広い業態である。そうした意味合いにおいては業態としての特異性は「俺のフレンチ」と比較しあまり大きな「差」は感じられない。
オープン当初の「俺のそば」の頃、メインとなる肉そばを食べた時感じたのは、勿論味は違うのだが、虎ノ門にある「港屋」という立ち食いそばの人気店が思い出された。この港屋は周知の三田にある「ラーメン二郎」のそば版と言われ、そのデカ盛りと共に、食べ飽きないように生卵を無料にして変化をつけるスタイルなど、その多くを「俺のそば」に取り入れていると感じたのである。(「俺のそば」の場合は生卵は10円と有料となっている)
顧客のためになる良き点であれば真似をしても構わないのであるが、若干懸念するとすれば手直しをしたネーミングにもなっている「だし」の特徴、その「差」はどう評価されているかである。ちなみに、
俺の肉そば(冷)700円、(温)600円、
場所;東京都中央区銀座5-1 東京高速道路南数寄屋橋ビル B1F
営業時間;月~金11:00~15:00、17:00~23:00

「俺の」はこの新しい業態を導入して3年程経つが、現時点での成功要因は「差」が一番大きく感じるフレンチを導入したことによる。そして、ネーミング、コミュニケーションにおいても、「俺の」という極めてユニークなものとし、その「差」もまた極めて大きい。そうした意味で、4つの「差」づくりがうまくいった事例となっている。そうした意味で、「俺の」という業態は固有な第3の世界、ブランド創りにはまずは成功したと言えよう。

ところで「俺の」という戦略によく似た、というより同じ戦略をとっている飲食チェーンビジネスに気づくことであろう。「俺の」に少し遅れた2013年12月銀座に1号店をオープンさせた「いきなり!ステーキ」である。立ち食い&着席という業態も同じであり、そのネーミングも”思いきり食べて欲しい”という思いから、店名に「いきなり」とつけたとのこと。「俺の」と同様意外性があり、他のステーキハウスなどとの違いをまさに店名にすることによって、新しいステーキ店としての「差」、新しいイメージが想像・創造されている。
メニューも食べたいだけ注文できるようにグラム単位となっている。ちなみに、
「リブロースステーキ」;1gが6円
「ヒレステーキ」;1gが9円
価格設定もわかりやすく、好みとお財布を相談して決められる良きメニューシステムとなっている。上記のようながっつり食べたい向きと共に、「国産黒毛和牛サーロインステーキ」は1gが15円。運営しているのはペッパーフードサービスでステーキやハンバーグなどの飲食店を展開している企業であるが、2013年の輸入牛肉の規制緩和以降、赤身肉ブームやシニアももっと肉を摂る必要があるとの指摘もあり、そうした肉食ブームの追い風を受け、「差」創りも現時点では順調となり、急速にその店舗展開が進んでいる。

サイドメニューに「差」をつくり、メインメニューとなった立ち食いそば店


立ち食いそばと言えば、江戸時代からの日本のファストフーズであるが、駅のホームで食べる忙しいサラリーマンの定番飲食業態店の一つである。全国にはご当地立ち食い蕎麦という特色ある業態も数多くあるが、全体としてはそのメニューは時代と共に進化している。東京においては、ここ数年その立ち食いそば店のメニュー自体に大きな質的変化が出てきている。その変化とは”たかが立ち食いそば、されど立ち食いそば”といった蕎麦自体の進化ではない。そば粉の産地に凝る、打ちたて茹でたてにこだわる、こうした立ち食いそば店は数多くあるが、そのメニュー作りの「差」に極めてユニークな店が出てきており、街のビジネスマンの大人気店となっている。
まずその立ち食い蕎麦店の一つが「よもだそば」である。日本橋と銀座という地価の高い場所にあるそば店であるが、写真を見ていただけたら分かるように店先のノボリにはそばと共に「本格インドカレー」とある。蕎麦においても特徴ある特大かき揚げそばなど嬉しいメニューが人気となっているが、なんといってもカレー専門店並みの本格インドカレーを出しており、そのインドカレーを食べに来る客もいて、地価の高い一等地でも客層が広がり経営が成り立つ良き事例となっている。立ち食いそば屋だけど、でも普通とは異なる立ち食いそば屋という第3の世界が構築されたということである。ちなみに、

特製インドカレー490円/半カレー270円(定番特大かき揚げそば370円)
他にも外国人向けのメニューとしてチーズそばといった変わりそばもある。
場所;日本橋店 東京都中央区日本橋2-1-20 八重洲仲通りビル1F
銀座店 東京都中央区銀座4-3-2 銀座白亜ビル1F
営業時間;平日7:00~22:00

もう一店立ち食いそば店を挙げるとすれば、サラリーマンの聖地新橋で行列ができる店がある。昭和59年創業丹波屋という6~7名も入れば一杯となる小さな店であるが、この店の人気サイドメニューもカレーである。ここ丹波屋のカレーはネパールカレーで、代々続くアルバイトのネパール女性が作ったもので、当たり前の話だが、「本格ネパールカレー」である。
多くの立ち食いそば店のメニューの作り方の一つがセットメニューである。普通の立ち食いそばの場合はおにぎりや稲荷寿司とのセットであるとか、ごくごく普通の半カレーのセットが多い。丹波屋の場合もよもだそばと同様ミニカレーとのセットが多いようだが、そのネパールカレーが売り切れてしまうことが多いようだ。是非食べてみようと新橋に行った日も、まだ12時を少し過ぎだというのに、店頭には「カレー売り切れにつきすみません」との張り紙が掲げられていた。いかにカレーフアンが立ち食いそば店に行っているかである。このカレーについては、「マツコ有吉の怒り新党(テレビ朝日)」で紹介されたことが行列を生み、またカレーの品切れの火付け役となったようだ。ちなみに、

インドカレー 410円/ミニ280円(定番春菊天そば370円)
場所;R新橋駅 新橋駅烏森口から徒歩2分 ニュー新橋ビル1階/営業時間;7:00~23:30

サイドメニュー戦略の広がり

サイドメニューと言うと、まず思い出すのがファミレスにおけるデザートであろう。その中でも大ヒットメニューになったのが「ナタデココ」で、1992年ファミリーレストラン「デニーズ」の新しいデザートとして登場したメニューで、一大ブームを起こす。周知のように独特の歯ごたえがある食感、しかもカロリーが低く、食物繊維が多いのでダイエットに良いと若い女性から圧倒的な支持を得たメニューである。こうした特徴、他にはない「差」もさることながら、そのネーミングはフィリッピンの常用語でもあり極めて独自なユニークなものであった。「ナタデココ」は従来のデザートとの「差」、更にはデニーズというファミレスブランドに新しい「何か」「差」を創り得た良き事例であろう。

ところで大手回転寿司チェーン店と言えば、スシロー、かっぱ寿司、元気寿司、そしてくら寿司となるが、中でもくら寿司の業績が群を抜いている。特に営業利益面においては外食産業においてもそうであるが、他の回転寿司チエーン3社と比較し極めて高くなっている。その背景にはマグロに代表される寿司ネタという原材料の高騰、更には寿司職人不足がある。何故、くら寿司が高い利益を得ることができているのか、そのメニュー戦略の一つがサイドメニューの強化、どこにもないメニューの開発にある。

くら寿司のサイドメニュー戦略に移る前に、外食、特にファミリー層を主対象とした外食産業の傾向を簡単に説明しておくこととする。前述のデニーズではないが、順調に成長してきたファミレスも2008年のリーマンショックによる景気後退により、4~5年間にわたり大手三社で500店もの店舗閉鎖を余儀なくされた。一昨年の夏頃から回復基調を遂げているが、その原動力となったのも新規メニューの導入であった。ここではファミレスの詳細については触れないが、実は回転寿司チェーンもファミリー向けのサイドメニューの強化を図ってきた。業界的に言うと、回転寿司のファミレス化となる。つまり、業際がここでもどんどん無くなってきたということである。

こうした業際が無くなってきた中でのサイドメニュー戦略であるが、周知のようにかなり思い切った戦略が採られている。これは創業者である田中邦彦社長の「安くておいしいだけでは飽きられる」との信念によるものと言われている。多くの回転寿司もファミレス同様デザートを強化してきたが、くら寿司の場合のサイドメニューは、例えばラーメンというそれだけで一つの専門店メニューになるような戦略である。勿論、生半可なラーメン専門店顔負けのクオリティも持ったラーメンである。
ちなみに、2012年に導入された「ラーメン」は魚介系醤油からとんこつ系醤油まで8種類と充実されており、全て360円である。
結果、どのようなものとなっているか、サイドメニューの浸透とともに、客層も広がり、しかも客単価が上がってきたということである。
更に、CMでも知られているように、寿司屋の「シャリカレー」の導入である。酢飯にカレーというありそうでなかった、意外性のあるカレーであるが、これはこれでさっぱりと食べられるカレーとなっている。
このカレーもシンプルな「シャリカレー」は350円、定番であるかつなどをトッピングしたカレーは450円で8種類、全10種類のメニューとなっている。
寿司屋のラーメンについてはそれほどの意外性、驚きはないが、やはり「シャリカレー」となると少しの驚きと共に、一度は食べてみたいという気持ちが動く。つまり、明確な「差」が生まれるということである。しかも、客単価も上がり、客層も広がるという戦略となっている。
こうした戦略を可能としているのも、寿司屋の基本である「にぎり」、なかでも「熟成まぐろ」一貫100円という商品があればこそである。

こうしたヒット商品を生むまでには多くの失敗もあったとのこと。ヒットしたラーメン以前にも1998年には「無添加ラーメン」という屋号で専門店をオープンさせているが、わずか1年で撤退している。また、10年ほど前にはコーヒーを販売したが売れずに撤退。以降、検討を重ね、寿司を食べた後、さっぱりした飲み物に変え、2013年に再度販売にふみきり、一定の評価を得ている。スタートは「回転寿司」という業態であったが、回転レールの上に乗るメニュールは、まさに業際を超えたメニュールに向かっているということだ。回転寿司のファミレス化も次のステージに移ってきたと言えよう。(後半へ続く)
  


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2015年12月06日

2015年ヒット商品番付を読み解く

ヒット商品応援団日記No631(毎週更新) 2015.12.6.

日経MJによる2015年のヒット商品番付が発表された。上期のヒット商品番付を見た方にとって、ほとんど代わり映えのしない番付となっている。ところで、2015年通年のヒット商品番付は以下となっている。

東横綱 北陸新幹線、 西横綱 ラクビー桜ジャパン
東大関 火花、  西大関 定額配信
東張出大関 ハロウィン・フィーバー、 西張出大関 肉食ブーム
東関脇 成田LCCターミナル、 西関脇 12の神薬
東小結 ガウチョパンツ、  西小結 コンビニドーナツ

おそらく紙面作りに困ったからであろう、日経MJの見出しは”横綱相撲(北陸新幹線)、番狂わせ(ラクビー桜ジャパン)”としている。マーケティングジャーナル紙としてはヒット商品の背景、消費価値の変化と潮流を言い当てなければならないのだが、既に一般マスメディアが指摘をしたことばかりで「書くことがない」ということであろう。しかも、誰もがヒット商品であると感じるようなメガヒット商品が出てこなかったということでもある。
この多様な価値観を持つ時代にあって、メガヒット商品が創りにくい時代ではあるが、実は街場には小さなヒット商品が溢れている。私の2015年の番付の読み解き方は以下となる。

予測が大きく外れた時、「感動」が生まれる

ラクビーW杯の日本戦放映に多くの人が釘付けになった。今年の新語・流行語大賞にはスポーツでは「トリプルスリー」が選ばれたが、こどもからおばあちゃんまでもが「五郎丸ポーズ」をとってその感動を表現した。「にわかフアン」という言葉があるが、そんな言葉を超えてこれほどまでに同じポーズを取らせた例は珍しい。
「感動」という言葉があらゆるところで使われ辟易していた時、南アフリカ戦での戦い方、コンバージョンキックで同点にするのではなく「勝ちに行った」桜ジャパンに感動した。そして、トライをした時、それまでの”健闘はするが最後は負けるであろう”としていた勝手な予測は大きく外れ、そこに感動が生まれた。
これが「感動」を生み出した心のメカニズムであるが、帰国後の記者会見などで明らかになったことだが、その背景にはエディーコーチによる高度な科学技術を踏まえた過酷なトレーニングがあったことが分かり、その感動は更に増幅された。(そのトレーニングを影で支えたITベンチャー企業ユーフォリアの選手強化については日経ビジネス12/3号を読まれたと思う。)
また、意外性という意味では、お笑い芸人ピースの又吉氏による「火花」が芥川賞を受賞し、240万部も売れたことも同じ構図であろう。芥川賞と言うと、プロ・専業作家によるものと思っていた世界とは全く異なる出身世界からの受賞である。実は出版に携わる友人から言わせると、大変な読書家でれっきとしたプロであったとのこと。

日本人のライフスタイルへの興味の深化

上期のヒット商品である「インバウンド旋風」について、以前キーワードとして「コインの裏表」という表現をしたことがあった。コインを景気でも経済の活性度と考えていただければ良いのだが、「表」は主に中国人観光客による爆買いに象徴される活況である。今まではその爆買いが炊飯器に象徴されていた家電商品から、西関脇 の「12の神薬」という薬などドラッグストアで販売されている商品群へと購入が移行し、つまり購入商品の裾野が広がっている。ブログにも1年以上前から書いてきたことだが、訪日外国人にとっての食べたい「日本食」と言えば、寿司や天ぷらといった日本食からラーメンにお気に入りが変化している構図と同じである。つまり、日本人が勝手に考えていた訪日外国人の消費とは異なり、もっと普通の日本人が好む生活、日常食や日常利用グッズなどどこにでもある暮らし方に日本の魅力を感じているということである。そうした暮らし方の中でも、春の桜の季節は花見目的の観光客が増加しているように、日本人が忘れている魅力を逆に感じ取っている、そんな日本人のライフスタイルへの興味の深化が見られる。

その反対側の「裏」であるが、国内消費については爆買いならぬ、「賢い選択消費」に更に向かったということである。その内容についてはブログ「消費後退の夏」を一読いただきたい。コインという景気の中心には「円安」があり、食品自給が低く輸入に依存している日本人にとって厳しい選択消費となっている。そうした中、原油安からガソリンがリッターl20円台になり、夏休みと同様年末の移動にも車利用が増えると思う。こうしたファミリー消費ばかりでなく、若い世代の消費も同様の傾向を見せている。その代表的商品が東小結のGUのガウチョパンツであろう。周知のように、ユニクロの妹ブランドであり、価格帯も1ランク下となり、ヒットしている。こうした価格帯商品群の先駆けはフォーエバー21のような「上から下まで1万円」でおしゃれが楽しめることにある。街場には小さなヒット商品が溢れていると書いたが、実は古着に注目が集まっている。未来塾「シモキタ文化」のところでも取り上げたが、古着の場合は「上から下まで3000円」で、しかも「一点もの」でコーディネートできることに若い世代の支持が集まっている。その代表的なブランドがオシャレ好きティーンならばよく知られている「WEGO」であろう。

個人放送局時代の「劇場」

東張出大関に「ハロウィン・フィーバー」が入っているが、その意味合いについてはブログ「平成のええじゃないか騒動」で次のように書いた。
『1990年代後半、渋谷の街や通りはティーンの劇場、舞台となった。ガングロ、山姥という婆娑羅ファッションを身にまとったティーンはマスメディアの注目されることとなった。劇場化社会の到来、街がメディアとなり、情報発信する時代の幕開けであった。その背景であるが、学校からも家庭からも居場所を失った少女達が都市を漂流し社会問題化したことがあった。・・・・』
ハロウィン・フィーバーの主要舞台はやはり渋谷となったが、これはハロウィンという限定期間のことであり、その劇場・舞台はネット上へと移行している。前頭に入っている「インスタグラム」がその舞台で、スマホから撮った写真を投稿するSNSである。流行っているとは聞いていたが、日本の利用者は月間800万人を超え、昨年と比較し倍増しているという。しかも、ハロウインもそうだが、1990年代後半ギャル、あるいはガングロ、山姥世代の少女たちが舞台を「インスタグラム」へと移してきたということである。最早、プリクラや自撮り棒どころではなく、そのための特別な衣装やメイクが用意され、お気に入りの「自分」を見て欲しいとするネット上の個人劇場が誕生しているということだ。

さて東横綱の「北陸新幹線」についてであるが、東京ー金沢間を2時間28分で結び、開業半年で480万人が利用したとのこと。今までは羽田から小松空港へと行っていたのが、東京に住む人間にとっては「金沢が近くなった」と感じて、兼六園や21世紀美術館、更には金沢の台所と言われる近江町市場をはじめとした金沢の「食」の食べ歩きへと向かった。あるいは輪島を含めた能登半島も多くの観光客が訪れたようだ。
一方、ブログにも電子書籍「未来の消滅都市論」にも書いたが、開業から4か月間の集計ではあるが、富山は金沢の約半分の乗車人数との結果が出ている。案の定、というか当たり前のことだが、金沢の一人勝ち、富山は通過駅になったという現実である。富山駅開業によって周辺エリアの「何が」「どう変わり」、その魅力をどのように伝えてきたのか、その答えが金沢の半分であったということだ。勿論、金沢も開業人気はいずれ落ちつき、その実力結果は少なくとも数年後リピーターという形で答えが出てくる。

また西張出大関の「肉食ブーム」についてだが、2013年の米国産骨つき牛肉の輸入解禁をきっかけに、ブログにも取り上げた「肉フェス」というフードイベントに多くの人が押し寄せた。その背景には健康に良いとした「赤肉」への再認識、あるいはシニア層こそ肉食をすべきとの指摘もあった。今やこの肉食ブームは1枚から好きな部位が食べられる「立ち食い焼肉」として首都圏を中心に広がっている。

日常利用の街場にヒット商品が生まれる

ところでこうした肉食人気ではないが、街場のヒット商品である「行列店」のその後について少し触れてみたい。昨年夏のブログに銀座にオープンした超こだわりのパン屋さん「セントル ザ・ベーカリー/CENTRE THE BAKERY」について書いたことがあった。2013年6月にオープンし、そのこだわり食パン3種を食べさせてくれる専門店であるが、その3種それぞれに一番美味しい食べ方を教えてくれる。勿論、パンを焼くトースターも選ぶことができるこだわりようである。同じようなこだわり商品が今回の番付の前頭にも入っている。パルミューダの「ザ・トースター」という商品だが、2万2900円と少々高価な商品であるが、初回生産2万台は予約段階で完売。番付の前頭に入っている「塩パン」もそうであるが、4年ほど前のヒット商品であるセブンイレブンの「金のパン」もこのヒット潮流のスタートであったということだ。
久しぶりに銀座に行く用件があったので「セントル ザ・ベーカリー」へと向かったが、今もなお女性客の行列が出来ていた。つまり、4~5年前に人気となったこだわり炊飯器や土鍋と同じ傾向である。また、番付の前頭に入っている青森県初の特 Aランクのお米「青天の霹靂」も同じ消費潮流にある。日常利用、その小さな贅沢として、こうしたこだわり商品がヒットしているということである。日常利用の街場のヒット商品と言うと、ヒット商品としては小粒であると認識されがちであるが、単体としては小さいが、消費後退の潮流にあっては大きなものであると考えなければならない。そして、そんな小さなヒット商品は身近な街場にいくらでもあるという時代である。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:09Comments(0)新市場創造