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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2015年12月06日

2015年ヒット商品番付を読み解く

ヒット商品応援団日記No631(毎週更新) 2015.12.6.

日経MJによる2015年のヒット商品番付が発表された。上期のヒット商品番付を見た方にとって、ほとんど代わり映えのしない番付となっている。ところで、2015年通年のヒット商品番付は以下となっている。

東横綱 北陸新幹線、 西横綱 ラクビー桜ジャパン
東大関 火花、  西大関 定額配信
東張出大関 ハロウィン・フィーバー、 西張出大関 肉食ブーム
東関脇 成田LCCターミナル、 西関脇 12の神薬
東小結 ガウチョパンツ、  西小結 コンビニドーナツ

おそらく紙面作りに困ったからであろう、日経MJの見出しは”横綱相撲(北陸新幹線)、番狂わせ(ラクビー桜ジャパン)”としている。マーケティングジャーナル紙としてはヒット商品の背景、消費価値の変化と潮流を言い当てなければならないのだが、既に一般マスメディアが指摘をしたことばかりで「書くことがない」ということであろう。しかも、誰もがヒット商品であると感じるようなメガヒット商品が出てこなかったということでもある。
この多様な価値観を持つ時代にあって、メガヒット商品が創りにくい時代ではあるが、実は街場には小さなヒット商品が溢れている。私の2015年の番付の読み解き方は以下となる。

予測が大きく外れた時、「感動」が生まれる

ラクビーW杯の日本戦放映に多くの人が釘付けになった。今年の新語・流行語大賞にはスポーツでは「トリプルスリー」が選ばれたが、こどもからおばあちゃんまでもが「五郎丸ポーズ」をとってその感動を表現した。「にわかフアン」という言葉があるが、そんな言葉を超えてこれほどまでに同じポーズを取らせた例は珍しい。
「感動」という言葉があらゆるところで使われ辟易していた時、南アフリカ戦での戦い方、コンバージョンキックで同点にするのではなく「勝ちに行った」桜ジャパンに感動した。そして、トライをした時、それまでの”健闘はするが最後は負けるであろう”としていた勝手な予測は大きく外れ、そこに感動が生まれた。
これが「感動」を生み出した心のメカニズムであるが、帰国後の記者会見などで明らかになったことだが、その背景にはエディーコーチによる高度な科学技術を踏まえた過酷なトレーニングがあったことが分かり、その感動は更に増幅された。(そのトレーニングを影で支えたITベンチャー企業ユーフォリアの選手強化については日経ビジネス12/3号を読まれたと思う。)
また、意外性という意味では、お笑い芸人ピースの又吉氏による「火花」が芥川賞を受賞し、240万部も売れたことも同じ構図であろう。芥川賞と言うと、プロ・専業作家によるものと思っていた世界とは全く異なる出身世界からの受賞である。実は出版に携わる友人から言わせると、大変な読書家でれっきとしたプロであったとのこと。

日本人のライフスタイルへの興味の深化

上期のヒット商品である「インバウンド旋風」について、以前キーワードとして「コインの裏表」という表現をしたことがあった。コインを景気でも経済の活性度と考えていただければ良いのだが、「表」は主に中国人観光客による爆買いに象徴される活況である。今まではその爆買いが炊飯器に象徴されていた家電商品から、西関脇 の「12の神薬」という薬などドラッグストアで販売されている商品群へと購入が移行し、つまり購入商品の裾野が広がっている。ブログにも1年以上前から書いてきたことだが、訪日外国人にとっての食べたい「日本食」と言えば、寿司や天ぷらといった日本食からラーメンにお気に入りが変化している構図と同じである。つまり、日本人が勝手に考えていた訪日外国人の消費とは異なり、もっと普通の日本人が好む生活、日常食や日常利用グッズなどどこにでもある暮らし方に日本の魅力を感じているということである。そうした暮らし方の中でも、春の桜の季節は花見目的の観光客が増加しているように、日本人が忘れている魅力を逆に感じ取っている、そんな日本人のライフスタイルへの興味の深化が見られる。

その反対側の「裏」であるが、国内消費については爆買いならぬ、「賢い選択消費」に更に向かったということである。その内容についてはブログ「消費後退の夏」を一読いただきたい。コインという景気の中心には「円安」があり、食品自給が低く輸入に依存している日本人にとって厳しい選択消費となっている。そうした中、原油安からガソリンがリッターl20円台になり、夏休みと同様年末の移動にも車利用が増えると思う。こうしたファミリー消費ばかりでなく、若い世代の消費も同様の傾向を見せている。その代表的商品が東小結のGUのガウチョパンツであろう。周知のように、ユニクロの妹ブランドであり、価格帯も1ランク下となり、ヒットしている。こうした価格帯商品群の先駆けはフォーエバー21のような「上から下まで1万円」でおしゃれが楽しめることにある。街場には小さなヒット商品が溢れていると書いたが、実は古着に注目が集まっている。未来塾「シモキタ文化」のところでも取り上げたが、古着の場合は「上から下まで3000円」で、しかも「一点もの」でコーディネートできることに若い世代の支持が集まっている。その代表的なブランドがオシャレ好きティーンならばよく知られている「WEGO」であろう。

個人放送局時代の「劇場」

東張出大関に「ハロウィン・フィーバー」が入っているが、その意味合いについてはブログ「平成のええじゃないか騒動」で次のように書いた。
『1990年代後半、渋谷の街や通りはティーンの劇場、舞台となった。ガングロ、山姥という婆娑羅ファッションを身にまとったティーンはマスメディアの注目されることとなった。劇場化社会の到来、街がメディアとなり、情報発信する時代の幕開けであった。その背景であるが、学校からも家庭からも居場所を失った少女達が都市を漂流し社会問題化したことがあった。・・・・』
ハロウィン・フィーバーの主要舞台はやはり渋谷となったが、これはハロウィンという限定期間のことであり、その劇場・舞台はネット上へと移行している。前頭に入っている「インスタグラム」がその舞台で、スマホから撮った写真を投稿するSNSである。流行っているとは聞いていたが、日本の利用者は月間800万人を超え、昨年と比較し倍増しているという。しかも、ハロウインもそうだが、1990年代後半ギャル、あるいはガングロ、山姥世代の少女たちが舞台を「インスタグラム」へと移してきたということである。最早、プリクラや自撮り棒どころではなく、そのための特別な衣装やメイクが用意され、お気に入りの「自分」を見て欲しいとするネット上の個人劇場が誕生しているということだ。

さて東横綱の「北陸新幹線」についてであるが、東京ー金沢間を2時間28分で結び、開業半年で480万人が利用したとのこと。今までは羽田から小松空港へと行っていたのが、東京に住む人間にとっては「金沢が近くなった」と感じて、兼六園や21世紀美術館、更には金沢の台所と言われる近江町市場をはじめとした金沢の「食」の食べ歩きへと向かった。あるいは輪島を含めた能登半島も多くの観光客が訪れたようだ。
一方、ブログにも電子書籍「未来の消滅都市論」にも書いたが、開業から4か月間の集計ではあるが、富山は金沢の約半分の乗車人数との結果が出ている。案の定、というか当たり前のことだが、金沢の一人勝ち、富山は通過駅になったという現実である。富山駅開業によって周辺エリアの「何が」「どう変わり」、その魅力をどのように伝えてきたのか、その答えが金沢の半分であったということだ。勿論、金沢も開業人気はいずれ落ちつき、その実力結果は少なくとも数年後リピーターという形で答えが出てくる。

また西張出大関の「肉食ブーム」についてだが、2013年の米国産骨つき牛肉の輸入解禁をきっかけに、ブログにも取り上げた「肉フェス」というフードイベントに多くの人が押し寄せた。その背景には健康に良いとした「赤肉」への再認識、あるいはシニア層こそ肉食をすべきとの指摘もあった。今やこの肉食ブームは1枚から好きな部位が食べられる「立ち食い焼肉」として首都圏を中心に広がっている。

日常利用の街場にヒット商品が生まれる

ところでこうした肉食人気ではないが、街場のヒット商品である「行列店」のその後について少し触れてみたい。昨年夏のブログに銀座にオープンした超こだわりのパン屋さん「セントル ザ・ベーカリー/CENTRE THE BAKERY」について書いたことがあった。2013年6月にオープンし、そのこだわり食パン3種を食べさせてくれる専門店であるが、その3種それぞれに一番美味しい食べ方を教えてくれる。勿論、パンを焼くトースターも選ぶことができるこだわりようである。同じようなこだわり商品が今回の番付の前頭にも入っている。パルミューダの「ザ・トースター」という商品だが、2万2900円と少々高価な商品であるが、初回生産2万台は予約段階で完売。番付の前頭に入っている「塩パン」もそうであるが、4年ほど前のヒット商品であるセブンイレブンの「金のパン」もこのヒット潮流のスタートであったということだ。
久しぶりに銀座に行く用件があったので「セントル ザ・ベーカリー」へと向かったが、今もなお女性客の行列が出来ていた。つまり、4~5年前に人気となったこだわり炊飯器や土鍋と同じ傾向である。また、番付の前頭に入っている青森県初の特 Aランクのお米「青天の霹靂」も同じ消費潮流にある。日常利用、その小さな贅沢として、こうしたこだわり商品がヒットしているということである。日常利用の街場のヒット商品と言うと、ヒット商品としては小粒であると認識されがちであるが、単体としては小さいが、消費後退の潮流にあっては大きなものであると考えなければならない。そして、そんな小さなヒット商品は身近な街場にいくらでもあるという時代である。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:09Comments(0)新市場創造