プロフィール
ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
インフォメーション
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 16人

2009年11月15日

生活仕分けと消費移動 

ヒット商品応援団日記No419(毎週2回更新)  2009.11.15.

少し前に、ファミレスの「すかいら〜く」業態が閉店し、新たな「価格帯市場」へと変化し、価格を中心にあらゆる分野の事業を再定義する必要となったと書いた。「食」はライフスタイル変化が最も早く出やすいことと、デフレ状態があらゆる生活領域に及び始めたことによる。何が生活にとって合理か、それはどの程度の支出=価格が妥当か、そこに更なる支出を抑える工夫はあるのか、生活者は考え、生活仕分けを行い行動へと移してきた。今、政治に於いてもやっと「事業仕分け」が始まっているが、生活者は既に2年ほど前から「生活仕分け」が始まっている。

浮き沈みの激しいアパレルファッションにおいて着実に売上・利益を出し伸ばしてきた企業に神戸に本社をおいたワールドがある。製造小売り&卸の企業であるが、数年前までは商業施設デベロッパーから「出店テナントで困ったときのワールド頼み」といわれるぐらい、多くのブランドを持ち、百貨店向け、駅ビル商業施設向け、専門店への卸向け、といった具合に業態別のブランドをもっている数少ないアパレル企業である。ある意味、こうした業態別とは「価格帯別ブランド」という側面をもっている。
しかし、周知のように百貨店では生き残りのために、デパ地下500円弁当を始め、わけあり商品の値引きセール、時間帯による値引きセール、更にはPB商品の導入や自社開発商品(リーズナブルな価格のSPA商品)、旧来の価格帯市場とは異なる売り場やセール、あるいは商品導入が組まれてきた。
さて、そのワールドであるが、昨年度の決算内容を見る限り売上利益を落とし始めている。優秀な企業であるワールドも恐らくブランドの再定義を行っていると思う。出店、卸先の変化と共に、顧客の変化をにらみ、次なるブランドの価格帯を模索、検討するということだ。

「1000円高速」に顧客を奪われた鉄道各社であるが、9月のシルバーウイーク(18〜23日)の利用情況を見てみると、5月のゴールデンウイークと比較し、高速道の渋滞が敬遠され、鉄道にややシフトした形となっている。ちなみに、JR東日本によると、9月のシルバーウイーク中、同社の新幹線や特急、急行を利用した人は約275万人。ゴールデンウイーク後半(5月1〜6日)の約257万7千人に比べ約7%多かったと。
こうした大型連休以外の「1000円高速」では、中心となっていた近隣地への利用=ドーナツ型行楽利用が減り、遠距離利用が増加しているという。その遠距離利用者の多くは、写真撮影や絵を書く、あるいは釣りといった個人趣味のための利用が多いという。こうしたケースを見ていくと、一時期あった「安ければ」という利用理由だけでなく、利用目的やそのための費用のかけ方が定着してきていると言えよう。行列しても「安さ」を求めるといった消費行動も、エブリデーロープライスではないが、かなり日常的な「生活仕分け」という計画に沿ったものとなっている。一種の計画家庭経済の如きである。

まだ、正確な家計調査のデータを時系列で分析していないが、日経MJ等の調査によれば生活仕分けの廃止・節約の順番では「食費」と「衣料・アクセサリー」、更には「遊び・レジャー」という順番となっている。こうしたことは不況時にはいつも見られる現象であるが、そうした生活費の単なる順番ではなく、その内容の変化=消費移動に着目しなければならない。
例えば、外部要因ではあるが、新型インフルエンザの消費への影響は様々なところにかなり出てきている。先日、再建中のJALの上期決算が1300億超の赤字決算になったと発表があったが、全日空も同様の赤字で売上でいうと▲18.8%であったと報じられた。ビジネス出張と団体旅行のキャンセルが続出したとのことだが、消費指標の一つとして考えてきた東京ディズニーランドもディズニーホテルの稼働率が90%台から70〜80%台へと落ち込んだとのこと。つまり、移動が極めて鈍くなってきたということだ。消費という視点に立てば、新型インフルエンザは「外」から「内」への移動を加速させたということだ。

従来の生活発想、生活仕分けでいうと、旅行を止めたから家族で楽しめる大型の薄型TVに変えようということになるのだが、今回の大不況下ではそうした単純なことにはなりそうにない。既に、一昨年暮れの帰省や海外旅行を止めて、その代わりにチョット贅沢におせちで正月を迎えようという消費移動があった。そうした移動事例の一つだと思うが、家電量販のビッグカメラは10/22にアウトレット専門店を東京池袋にオープンさせた。販売価格は新品と比較し最大50〜20%安いという。流通もこうした移動に備え多様な消費選択肢を広げているが、外食産業の中で成長している一つに回転寿司がある。大手回転寿司では単なる安さだけでなく、子どもが喜ぶゲームなどを用意し、食のアミューズメントパークの如くである。こうした回転寿司などに旅行の代替消費が移動することもあるであろう。数年前までの競争軸の一つは時間の使い方・時間の過ごし方競争であった。しかし、お金の使い方を軸に、生活仕分けが行われ代替消費が消費の全面に出てきた。それは従来の競争相手が変わったということでもある。

もう一つ生活仕分けの前提にあるのがマイレージポイントの急速なる普及である。確か、2007年度のヒット商品番付にSuicaを始めとした電子マネーが入り、携帯電話のお財布携帯も急速に普及した。従来、航空券購入などのマイレージポイントだけであったものが、業界を横断するような生活領域にまで共通したポイントとして貯めることができるようになった。日常のスーパーやコンビニの買い物から公共料金の支払いまで、クレジット支払いでポイントが貯まるようになった。こうした支払いを一カ所にまとめマイレージポイントを貯め、海外旅行等に無料で行く「陸(おか)マイラー」が増加している。私の友人の一人もそうしたマイレージポイントで海外旅行を楽しんでいるが、生活費のかなりの部分をクレジット支払いに充てれば、1ヶ月で数千ポイントが貯まる。こうした生活仕分けの前提となる消費=支払いでの「お得」競争が激化し、さながら「マイレージバブル」の様相を見せている。それはポイント提供者企業にとっては販促手段の一つと理解しているが、生活者にとってはポイントはお金との認識であろう。こうした認識の違いがクレームとして出てきているが、ポイント提供側も単なるポイント還元率を下げてバブル熱をさますことも必要だとは思うが、もっと根本的なところで事業の再定義が必要であろう。

つまり、生活者・顧客は着々と生活仕分けを行い、消費内容に伴う消費対象の移動が始まっている。勿論、移動によって売れなくなる場合もあるが、売れ行きが好調であることもある。例えば、業務用専門の食品店や卸の市場には旧来の小売店ばかりか一般生活者が買い物に来ている。今月末、商業施設のデベロッパーと会う約束となっているので、どんなところに消費移動が起きているか、その動向についてまたブログに公開するつもりだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:45Comments(0)新市場創造