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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年11月08日

2009年バッド商品番付(1) 過剰な時代のマーケティング

ヒット商品応援団日記No417(毎週2回更新)  2009.11.8.

今回はヒット商品の裏側に潜む落とし穴、ある意味反面教師として見て欲しいこともあり、バッド(顧客評価に合致しない)商品を日経MJ風に番付をつけてみた。特に良かれと思って商品化したが、顧客が求める要請にずれていたり、安易に顧客要望に従ってしまったことによる落とし穴、こうした商品を取り上げてみた。

東の横綱 GMS業態
西の横綱 民放バラエティ番組

東の大関 ドン・キホーテ680円ジーンズ
西の大関 おまけ付き女性雑誌

東の関脇 シニアのコンビニレジャー
西の関脇 高機能商品群

東の小結 ・・・・・ 
西の小結 ・・・・・ 

東の前頭 ・・・・・ 
西の前頭 ・・・・・

東の横綱のGMS(総合スーパー)業態については、既に10数年前から曲がり角に来ており、いくつかの手が打たれてきた。しかし、今年に入り、いち早く下取りセールなどを取り入れ成功させたイトーヨーカドーですら初めての営業赤字となり、イオンも同様の赤字事業だ。GMS業態の活路はPB商品の拡充というところだと思うが、特に衣料部門において価格を含めユニクロなどと競争しえるかどうかがポイントとなる。そして、今年の春からのジーンズ競争やヒートテックやパワーウォームといった暖か下着競争の結果でこれからの業態転換の行方が決まる。
また、こうしたMDのPB化、SPA的MD以外ではウォルマートの傘下に入った西友のようなエブリデーロープライス業態であるが、いち早く確立したOKストアを見ても分かるように、2〜3年でシステムが確立できるものではない。都市部に中型店舗の多いイトーヨーカドーの場合は、こうしたエブリデーロープライス型の「ザ・プライス」への転換が更に早まると思う。つまり、GMS業態は一部は残るにせよ、既に終焉したということだ。ちょうどファミレスの象徴であった「すかいら〜く」が幕を閉じ、クローズしたファミレスを居抜きで買い取り急成長しているステーキレストラン「けん」(=ディスカウンター業態)と同じ構図である。既に破綻をしたダイエーが三越を抜いて小売業NO1となったのは1972年であった。その革新的であったGMSという業態も終焉を迎えている。

西の横綱の民放バラエティ番組であるが、これは言わずもがなである。「TVが消えてなくなる日」のところでも書いたが、若い世代のTV離れが激しく、年代順の使用メディアでいうと、携帯>PC(パソコン)>TVという順になる。現在のTVのコア視聴者はシニア層、65歳以上であろう。しかし、民放各局は騒々しいバラエティ番組と取材力を持たない2次情報による報道番組ばかりでシニア層からも更にそっぽを向かれていくであろう。シニア層に的を絞ったNHKが安定した視聴率を稼いでいるのと対照的である。
民放各局は経費を抑えるために、安い芸人を使った「バラエティのディスカウント」業態のような放送、もしくは例えば過去の高視聴率番組であった「8時だよ!全員集合」のような番組の再再?放送や昭和の名曲を取り上げるといった過去の財産を食いつぶすていたらくである。勿論、TVメディアが相対的価値を落とし続けるとは思うが、多様で過剰なメディアの時代にあって従来の既成を自ら壊さない限り、その価値を落とし続けるであろう。

さて、大関であるが、東西共に追随する類似ビジネスの悪しき事例である。まずドン・キホーテ680円ジーンズであるが、ユニクロやイオン、ヨーカドー、西友といったジーンズ競争という話題に乗ることだけが目的で、売り出したジーンズの本数1万本がそのことを表している。ドンキ・ホーテは従来の概念には無かった異質なディスカウンターであった。深夜営業のDSという競争無風地帯の開発、コンビニの10倍以上の4万品目を熱帯雨林陳列、まるで宝探しのような新しい買い物感を創造する、小さな売り場に担当責任者を置き仕入れから売り場づくり、結果としての売上を1人で行う小さな単位経営の良きモデルとしてあった。つまり、既成に対する革新者として登場し、顧客支持を集めてきたのがドン・キホーテであった。低価格という時代の風にのっているとはいえ、増収増益という数少ない小売業の一社である。しかし、敢えて言うならば、革新者であり続けて欲しい、大企業病になってほしくはないということだ。

このブログにも書いたことがあったが、廃刊、部数を落とし続ける雑誌業界にあって、唯一部数を伸ばし利益を挙げているのが「おまけ付き雑誌」の宝島社である。その後追いであろうか、「モア」を始め多くの既刊女性誌が続々と「おまけ付き雑誌」へと変貌している。雑誌も例外でなく、全てが「わけあり競争」市場になり、その内容次第で物(雑誌)が買われる、そんな市場へと移行している。その「わけ」は単なる「こだわり」ではなく、ある意味ここまでやるのか、こんなおまけなのか、といった常識を超えた「わけ」が購入を促進させる。
従来は編集長のセンスと編集者ネットワークで雑誌(商品)を創ってきたが、宝島社の場合は「おまけ」もさることながら、編集内容それ自体が明確にセグメントされた女性に向けた「わけあり情報雑誌」づくりが行われている。つまり雑誌業界で初めてマーケティングという手法を取り入れ、それに付帯した「おまけ」がつけられただけである。編集長とは編集のプロではなく、優れたマーケッターでなければならないということだ。雑誌の本業、「わけあって、こんな情報を掲載しました」という雑誌づくりではなく、単なる「おまけ付き」雑誌であるならば、「おまけ」に左右される一過性のものでしかない。つまり、一番重要な継続性がないということだ。

ところで、今年の7月北海道大雪山系のトムラウシ山・美瑛岳でシニア世代を中心に10人が遭難死した。夏山ということから軽装での登山で荒天による寒さが死に至らしめたと報じられた。そして、自然の恐ろしさを甘く見た旅行会社・ガイド、更には登山参加者に対し、気軽に便利な登山旅行の持つ危険性について「コンビニ登山」として問題指摘された。
10数年前からシニア世代の隠れたレジャースポーツの一つが登山・山歩きであった。東京では登山クラブの待ち合わせ場所としてJR八王子駅が有名で朝方にはシニア世代で溢れる状態である。マスメディアに取り上げられることは少ないが、この元気なシニア層が消費を下支えしている。特に、都市部におけるこうした消費の多くは、まさに手軽に気軽に、そしてリーズナブルな価格で提供されている。東京成城にある家庭菜園のクラブには道具のレンタルや指導員によるサービスばかりか、農作業の後のシャワー施設まで完備されている。こうしたコンビニ農業とでもネーミングしたくなるようなビジネスが至る所に浸透した。つまり、興味がそのままストレートに体験へと移っていけるコンビニ的便利さには、北海道大雪山系トムラウシ山の事故のような落とし穴が常に潜んでいることを教えてくれた。

こうしたシニア世代の課題と同様に、家庭用電化製品はデジタル化の進行と共に、便利さがスイッチ一つで得られるようになった。その代表的商品が高機能商品群である。既に、携帯電話では高機能商品と単機能商品とに分化したが、I Hヒーターを先頭に電子レンジ、炊飯器、圧力釜、冷蔵庫、洗濯機、地デジ対応薄型TV・・・・・こうした製品群にも便利さの裏側、いや既に表へと出てきていることに「機能を使いこなせない」という初歩的問題がある。外食から内食化という巣ごもり生活が進行している中、クッキング教室が見直され流行っている背景の一つがこうした使い方学習、あるいは方法論学習である。各社共にカスタマーサービスを充実させようとしているが、既に体験学習の領域まで踏み込んでいるメーカーもある。誰でもが操作が簡単と思っている洗濯機の使い方を含め洗濯教室が開催されつつある。
当たり前のことであるが、こうした高機能商品も道具である。以前、ブログにも書いたが、一昨年位から土鍋が静かなブームとなっている。その背景には道具の原点に立ち戻り、和の合理性に着目したからである。更に付け加えれば、有機野菜は当たり前となり、日本古来の固有種の野菜に人気が出ているが、これも「どう調理したら良いのか」、使いこなす調理法とそのメニューが具体的に用意されないと、高機能商品群と同じである。つまり、とことん使いこなす時代になったということだ。

今回は東西の横綱、大関、関脇について書いたが、勿論番付といった観点ではない。モノもサービスも過剰な時代にあって、革新の継承の難しさ、顧客の変化にどう向き合えば良いのか、という課題がある。大企業もそのスタートは零細企業であった。町のパン屋さんもお惣菜屋さんも、人気商品が次第にその売上を落としていくことに向き合うことと同じである。あるいは便利な時代へと向かっていくことの中に、落とし穴も存在する。実はマーケティングそれ自体が問われていると思うが、その第一番目である「誰を顧客とするのか」、「市場をどう特定するのか」という原則が極めて重要な時代となった。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:43Comments(0)新市場創造