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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年11月01日

地域ブランドの再創造へ

ヒット商品応援団日記No415(毎週2回更新)  2009.11.1.

前回、隙き間市場、小さな市場に対し、ブランドマーケティングを行っている事例について書いた。ブランドというと、「固有のらしさ」が過去もそうであったし、今も未来もそうであるであろうと期待を膨らませてくれる他とは違う新しい価値として総称してきた。それを商標という財産、別な表現をすれば暖簾といってもかまわない。そうした無形の財産を創るためにマーケティングをしてきた。ここではブランドの再生といった一般論を語る気は一切ないが、一つだけブランドの盛衰に共通していることは、マスプロダクト化、日常化すればするほど、そのブランドとしての固有性は陳腐化していくという事実である。

2006年4月に商標法の改正が行われ、地域名をつけた商標が登録され、町おこし、地域団体起こしに活用されるようになった。商標ではないが、地名をつけた街に銀座がある。昨年秋、H&Mが銀座に進出した時にレポートしたが、ユニクロやZARA、GAPといった量販カジュアルブランドと世界のハイブランドのフラッグショップが混在し、まだら模様の如くに変貌したと。更には、300円弁当戦争に乗り遅れまいと、デパ地下では500円弁当が売られ、スーパーの特売セールの如き売り出しが日常的に行われる。低価格という波が銀座の街に押し寄せ、以前とは異なる表情を見せ、全国の主要都市も同様の傾向となっている。

マンゴーブームの土台を作ったのが沖縄マンゴーでファインフルーツ沖縄が知られているが、宮崎マンゴーが舞台に上がり、最近では宮古島マンゴーも出てきた。価格帯が高いということから、松阪牛以降、各都道府県のほとんにブランド牛がある。農水産物の多くが地域名がつけられたブランドとして登録されている。
しかし、一方ではこの一年半ほど前から指摘してきているように、わけあり商品ブームが続いている。極論ではあるが、地域ブランドの多くは、単なる識別=産地表示のためだけで、「固有性」としての価値は価格に反映されていないということである。

私は好きで沖縄によく行くが、頻繁に行くようになってから10年になる。当時の沖縄のイメージは、「長寿の島」、「癒しの島」、であった。長寿の島について言えば、雑誌サライを始め健康食がテーマとなり、その代表的な食として那覇安里の「あしゃぎぐわ〜」が取り上げられた。しかし、実態は正反対で、平均寿命は女性は全国NO1であるが男性は25位、肥満率は男女共に全国NO1、糖尿病の死亡率も全国NO1、という非健康県である。これは人口1人あたりのファストフーズ店が全国NO1であることと、移動全てが車であると言われている。そして、ホテルや観光ガイドに載っていない、ごく普通の食堂で食事をすればすぐにわかる。それは、その量の多さにである。

1980年代後半、リゾートが大きなテーマになっていたこともあり、以降沖縄のホテルには体験すべくほとんど1回は泊まってきた。万座ビーチホテルもその一つであるが、キレイな白砂のプライベートビーチがあるが、他の場所から白砂を運び人工的に作られたものである。後に沖縄の知人から聞くと、沖縄の人は海では泳がない、ビーチはバーベキューパーティをする場所とのこと。つまり、極論ではあるが観光客にとって癒しの島はリゾートホテルの中だけということだ。もう一つの沖縄、知らない沖縄がいかに多くあるか、オキナワフリークの私ですらまだまだ多い。沖縄の海が何層にも緑や青みがかった色に映るのは、海底の砂の色が反射してのことで、その砂のほとんどが珊瑚で、世界でも珍しい海である。また、その珊瑚が危機に瀕しているのも、もう一つの癒しの島の実態である。

今年1月にまとめられた日経リサーチ「地域ブランド戦略サーベイ」(http://www.nikkei-r.co.jp/area_brand/index.html)によると、地域・街や名産品のブランド力の総合評価としては、沖縄は北海道、京都に次ぐ3位となっている。訪問者の満足度では沖縄が第1位となっている。しかも、観光地別では10位以内に4つの離島がランクインしている。ホテルリゾートという人工的に作られたものとはいえ、まだまだ手つかずの自然が残る離島=沖縄固有の海への評価は極めて高い。しかし、名産品、お土産となると極端にその評価は下がる。やっと26位に黒糖がランクインするだけである。ちなみに第1位は讃岐うどんである。
一方、沖縄県民自らが挙げた名産品は、第1位沖縄そば、第2位讃岐うどん、第3位ちんすこう、となっている。が、全国ランキングになると沖縄そばは71位、ちんすこうは56位となっている。つまり、沖縄県民の評価と全国評価とでは全く違うということである。

都市生活者が求める価値と地方がこれは良いと考えるものとの間には大きな違いがある。今回は沖縄を取り上げたが、持っている資源が単なる観光産業だけに終わり、他の産業へと波及していないということだ。誰でもが指摘していることと思うが、地方の人口が流出する時代にあって沖縄の人口は増え続けている。その多くは移住者である。しかし、石垣島の住宅乱開発など、私のブログにも”団塊様、お断り”とコメントが寄せられている。沖縄の人達は、人懐っこくシャイで、こちらが心を開けばその分心を開いてくれる、そんな程よい関係をつくってくれる人が多い。しかし、その奥底には、過重な基地負担、遡れば薩摩侵攻から明治政府による琉球処分・・・・その端的な表現として今なお「うちなんちゅ〜」(沖縄人)と「やまとんちゅ〜」(本土の人間)という言葉が使われている。こうした都市と地方の溝はどの地方にもあるのだが、顧客が求め、満足する多様な資源を生かし切ることこそが地域ブランドとなる。年間600万人の観光客、その大半が中学の修学旅行という壁を乗り越えるには、観光を入り口とした産業化であり、回数多く訪れてもらうための沖縄文化ビジネスの確立であろう。それが「沖縄という固有性」を保持し、発展させていくこととなる。

地域ブランドが単なる産地識別名になっているのは沖縄だけでなく、多くの地方でも同様である。2006年以降、様々な地域ブランド商品が生まれた。なんとか全国へと浸透させるためにTVメディアの取材を受け、一時的には売れたと思う。しかし、その数ヶ月後には言わずもがなである。地域の固有性とは何か、当たり前の話であるが顧客評価、ブランドは顧客が創るのだ。地元の人達はそれに応え、固有価値を磨くために、更に固有と言うテーマを進化させる。そこに産業化への着眼がある。沖縄で言えば、温暖な気候はリタイアしたシニアにはうれしいものである。できれば冬場だけの長期滞在型のコテージのような施設があったらと思っていた。今、北部金武町の米軍跡地に医療と癒しを融合させた「リゾート・リバビリテーション」をつくる構想が練られていると聞く。過重な基地負担とは、逆に基地依存でもある。こうした跡地利用という解決には、「長寿の島」復活にも大いに役に立つ。
少し長くなったのでここで終わるが、消費が巣ごもり状態の今、一度立ち止まって考えることも必要であろう。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 14:03Comments(0)新市場創造