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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2006年10月29日

いざなぎ景気と格差意識  

ヒット商品応援団日記No111(毎週2回更新)  2006.10,29,

今回の景気回復(2002年〜2005年)について、1960年代からの高度成長期のいざなぎ景気(1965年11月〜1970年7月/57ヶ月間)を超える順調な景気回復であるとニュースで報じられている。生活実感からはかけはなれた情報との指摘があるが、至極当たり前である。いざなぎ景気時代は平均成長率11.5%、一方今回は2.4%で、物価変動を踏まえない名目では18.4%と今回わずか1.0%である。生活実感ベースで見ていくと、いざなぎ景気時代の雇用者収入は2.1倍に、今回は逆に1.6%減となっている。嘘の情報とは言わないが、そもそも比較する事自体がおかしい話で、恣意的な情報と言われても仕方がないと思う。いざなぎ景気時代には3C(カラーTV、クーラー、車)と言われた消費ブームが起きたが、今回はせいぜい薄型TV位が売れているだけで、あのマクドナルドも「100円戦略」に戻ったようにデフレは今なお続いている。都心部の百貨店では高額時計やジュエリーあるいは一尾700〜800円もする釧路の青刃さんまが売れているが、一方CVS既存店の売り上げは横ばいもしくは減少傾向にある。その内容を見ても、小さな付加価値商品による利益重視型の戦略を取っているのが実態である。

是非経済の専門家による本格的な分析を得たいと思うが、「失われた10年間」は多くの人が指摘しているように「3つの過剰」を取り去ることであった。3つの過剰とは人、設備(流通)、融資(投資)でいわゆるリストラを行い、人についても正規雇用は増やさずパートやアルバイトにてまかない、そうしたしわ寄せが中小企業へと波及していった訳である。周知のように日本の雇用者数の70%は中小企業である。この構造は大企業が集まる都市部と地方との関係でも同様である。こうした格差が生まれた背景には、グローバル化という世界的な競争と技術革新、特にIT技術の活用による合理化があった。今日、少子高齢化、生産年齢人口は10年前から既に減少しており、いざなぎ景気の時のように若い労働力が経済を引っ張っていくことはない。誰もはっきりとした指摘をしていないが、この10年で「過剰」をなくしていくことから、結果として「格差」が生まれてきた訳である。いざなぎ景気以降1980年代までの生活者意識は「一億総中流意識」と言われるように70%を超える人たちが幸福感を感じていた。しかし、今多くの人たちにはそうした幸福実感はない。

さて、この「幸福感」という生活者心理についてであるが、団塊世代以降の人はまだしも「立って半畳、寝て三畳」という比喩は今の若い世代には通用しないと思う。何を持って「幸福」なのか、その心理については明確な物差しはない。常に揺れ動くのが心理である。全て解き明かしている訳ではないが、経済の分野でノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンらが研究したプロスペクト理論は一つの参考情報にはなると思う。幸福感に影響を与える経済的な要素としては、
(1)絶対的な豊かさ:お金に対する明確な価値認識/立って半畳寝て三畳のような価値観
(2)他人と比較した豊かさ:誰と比較するのかによって揺れ動く心理
(3)以前の自分と比較した豊かさ:いざなぎ景気のように年々収入という形で比較実感した豊かさ
以上の三つの要素があると考えられている。今日の格差実感はこの(2)の心理状況によるものが大きい。特に、「ヒルズ族」、あるいは「ホリエモン的」成功といったこととの比較が今日のマイナスとしての格差意識をより強めていると思う。(3)については収入実態はマイナスであることから、より(2)の格差意識を強めていくこととなる。(1)については団塊世代以上のシニアにとって人生価値としての意味はあるが、若い世代にとっては全く異なる共感しがたい世界である。これが、生活実感としてのいざなぎ景気と今回の景気回復との違いである。
勿論、整理のための整理であり、(1)(2)(3)は相互に影響し合い絡み合ったものである。こうした経済との関連での豊かさ、別な言葉でいうとモノの豊かさについてである。しかし、お気づきのように、もう一つの豊かさである精神的充足、こころの豊かさが求められている。このことは格差を是認しているのではない。ところで、モノもこころも豊かであることを目指している企業、そこに働く人たちがいる。次回はそうした企業、福岡の「野の葡萄」について報告してみたい。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 14:14Comments(0)新市場創造