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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2006年10月25日

都市別荘  

 ヒット商品応援団日記No109(毎週2回更新)  2006.10,22,(記事の投稿が遅れました)

六本木ヒルズがオープンした時、盛んにいわれたことの一つに「職住近接」「職住一体」があった。ある意味で「時間」を買うことに他ならない働き方、生活の仕方である。数年前から深夜時間帯のTV視聴率が上がり、また早朝の時間帯では英会話スクールやスポーツジムが盛んである。「24時間化」というキーワードはCVSの成長とパラレルで15年ほど前に流行ったが、今や日常になっている。春夏秋冬、四季という自然時間感覚は、都市生活者にとって既に失ったものであるが、24時間1日及び1週間という時間感覚は社会時間ということもあって、かろうじて残ってはいる。私たちはこうした時間に追われる生活から、ひととき休みを取ってリゾートなどで癒されることとなる。ちなみに、1960年と2000年との睡眠時間を比較すると、40年間で50分も減少している。新しく得た50分の多くは自由時間として使っている。このブログでも様々な視点からライフスタイルを見てきたが、新しい時間の使い方が「都心回帰」によってどう変化していくのか、その芽が出始めている。

既に死語となったことばの一つに「ベッドタウン」がある。団塊世代にとっては通勤ラッシュとともに実感することばであるが、若い世代には意味が分からないと思う。ベッドタウンとは東京でいうと多摩ニュータウンのように通勤に1時間以上かかる郊外にある住居、そのライフスタイルを総称していた。昼間働き、夜寝に帰るという意味のベッドタウンである。こうしたライフスタイルは2000年頃から大きく変わることとなった。これが都心回帰で、都心の地価が下がったことと規制緩和による住居の高層化により、求めやすい住居価格になったことによる。今や、人口流出が激しい多摩ニュータウンでは空室が多いだけでなく、お年寄りもまた多く孤独死などの対策に追われている状況となっている。
さて、こうした都心回帰による新しいライフスタイルを本格的に見せてくれたのが豊洲一帯の再開発である。六本木ヒルズが特定の人たちの職住一体型の街であるのに対し、銀座までわずか10分という豊洲地区は多くの人が購入しえる価格帯の住居が約2万戸予定されており、文字通り開かれた街となる。特に、目の前には東京湾があり、潮風を日常的に感じ取れる海浜リゾートとしての条件も備えている。

ところで、その豊洲の中心となる、「ららぽーと豊洲」へ行き2時間ほど歩いてみた。ある意味で商業はそこに住む人たちの生活未来を映し出すものであり、どんなライフスタイルがそこから見えてくるか興味があったからである。日本初、東京初というショップもあるが、そうした個々のショップについては後日取り上げてみたいと思うが、ここではテナント構成とゾーニングから見えてくるものに絞ってみたい。テナント構成については子育てファミリーをかなり意識しておりギャップキッズに代表されるように価格帯もかなりリーズナブルになっている。当たり前であるが、アパレルファッションもカジュアルなものが中心でスーパーブランドは皆無である。つまり、日常型高頻度使用型のテナントである。また、キッザニアに話題が集まっているが、シネコンや東急ハンズ、スポーツクラブなど休日型テナント・施設が多くなっている。もう一つの大きな特徴は、石川島播磨重工のドッグ跡地の再開発ということから、ドッグを囲むようにオープンテラスの飲食施設が配置されている。いわゆるリゾートホテルのオープンエアーのカフェなどをイメージされたら良いかと思う。植栽が未だ根付いていないため、海浜リゾートの雰囲気は乏しいが、数年先には散策やファミリーの良い遊び場になると思う。つまり、旧来はリゾートと言えば非日常、休日のものであったが、日常の中に、都市の中に、リゾート・休日を取り入れた生活未来を描いていると私は思っている。私は、そんな街づくりコンセプトを「都市別荘」と呼んでみた。NYはマンハッタンと比較する人もいると思うが、数年先には豊洲はTOYOSUという新しいライフスタイルが生まれてくると思う。つまり、モノの豊かさから、時間を楽しむ豊かさへの転換が、このららぽーと豊洲が描くライフスタイルであると思う。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 21:35Comments(0)新市場創造

2006年10月25日

コミュニティ再生への視座 

ヒット商品応援団日記No110(毎週2回更新)  2006.10,25,

2006年のノーベル平和賞を、貧困撲滅に尽力したバングラデシュの経済学者、ムハマド・ユヌスさんと同氏が創設したグラミン(村落)銀行に授与すると発表したことは周知のことと思う。ニュースでは、受賞理由として「ユヌスさんは1983年、バングラデシュで貧困にあえぐ農村女性らを対象に無担保小口融資を実施する同銀行を設立。融資を受けた女性らが、工夫をしながら新たな収入源などを確保し、返済を実現。グラミン銀行の手法は、マイクロ・クレジットとして世界各国に広がった」と報じた。実はこのニュースを聞いた数日後に好きな沖縄に出かけ、訪沖の理由の一つであるライブハウスで面白い光景を目の当たりにした。それは、「もあい」(模合)と呼ばれる無尽、講の一つが、そのライブハウスで行われていたからである。同級生や親族、地域の仲間、経営仲間といった小さな単位のメンバーが親睦や助け合いを目的に定額のお金を積み立てて順番に飲み代や旅行、場合によっては資金繰りにも使われる金融の仕組みである。沖縄には未だこんな金融の仕組みが日常化していることに少々驚いた。今国会で論議されている消費者金融に関するあり方とは特例措置が撤回される方向に進んではいるものの、全く逆の助け合いの仕組みが沖縄には生きているのである。私は金融のプロではないが、もあいもマイクロ・クレジットもその仕組みの背景にある精神は同じだと思う。

5月2日の「家族のゆくえ」で個人化の進行に伴う多くの問題点と解決の芽についてふれた。家族という単位が崩壊し、最小単位の個人が社会の単位となった時代についてである。そして、バラバラとなった個人を今一度つなぎ直す試みが始まっており、そうした試みの総称として「コミュニティの再生」というキーワードが使われている。別の視点からいうと、唾棄すべきは過去にあり、過去を振り返るな、と言ってきた「考え方」の見直しと見るべきであろう。例えば、村落共同体、家制度は家父長制という封建制度の名残である、と全てを否定してきたのが戦後60年であった。しかし、子育て一つとってみても、祖母の手や目を、あるいはご近所の人たちの力を借りて育ててきた訳であり、若い母親にとって決定的に足りないのは経験であった。今、ららぽーと豊洲のキッザニアに注目が集まっているが、仕事という社会を幼い時から経験させたいとする思いから若いお母さんと子供たちで一杯である。別な視点で言えば、家あるいは社会という経験をサポートしてくれる「世間」が既にないという事実であろう。そうした世間を作ろうと、コミュニティ再生の一つである住居、住まい方として、英国を発祥の地としているコモンランドという考え方を導入しているところがある。コモンランドとは小さな公園・広場という意味で、その公園を囲むように住居を配置した暮らし方で、子供の遊び場である公園を互いにご近所が見守るようなかたちとなっている。この考えを導入しているのが、福島県伊達町諏訪野であるが、出生率は高いと言われている。こうした例を見るまでもなく、沖縄の離島を始め大家族世帯の多い地域では出生率は高く、東京目黒の出生率は全国最低の率である。あまり論議されていないが、少子化という課題についても、コミュニティという視座が必要であることは言うまでもない。

私はコミュニティ再生によって新たな市場が生まれてくるとこのブログでも書いてきた。都市が失ってしまったものの回復に最大の市場機会がある。今注目されているキッザニアに「社会体験」があるように、社会システムを変えていく入り口にある「体験」がこの時代のキーワードとなっている。失ってしまった自然の体験、野生の体験、それは農業だけでなく、漁業にも当てはまる「社会体験」である。農家にとって重労働である稲刈りばかりか、薪割りや雑草取りですら有料の体験観光(つばさツーリスト:http://www.e-toko.com/)になる時代である。農家や漁師の家の普通の家庭料理が身体によく、しかも美味しい料理観光になる時代である。それほど失われたものが大きくなっているということだ。このブログでも以前取り上げた金沢21世紀美術館の成功も、現代アートというテーマを子供たちの遊びという良き「文化体験」を提供しているからである。私の持論であるが、体験すべきは「自然・健康」「家族・関係」「歴史・文化」である。団塊世代が第二の人生をスタートさせる2007年、次代への継承という意味を含め、この「体験市場」は大きく顕在化する。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 14:01Comments(0)新市場創造