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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2006年10月15日

ピュアライフスタイル 

ヒット商品応援団日記No107(毎週2回更新)  2006.10,15,

このブログでも何回か「ふるさと回帰」「普通への回帰」など回帰現象について書いてきた。前々回、おふくろの味は既になく、食堂や給食がおふくろの味の代わりを果たしており、商品開発の着眼になるのではとも書いた。私の持論であるのだが、工業化による自然や健康、あるいは近年ではIT技術による労働の平準化と更なるスピード、こうした変化によって失ってしまったものの取り戻しが回帰現象となって現れている。勿論、文明を否定するわけではないが、「過剰さ」に対する見直しが一人ひとり生活のあらゆるものに対し始まっていると考えている。回帰という記憶はいわばPCのメモリーのようなもので、次から次へと新たな記憶によって上書きされていく中、古いファイルから見つけ出す作業に似ている。
東京以外の方には不思議と思われるかもしれないが、昨年には都心のビルの屋上でミツバチを育て蜂蜜を採集するプロジェクトやJR北千住ルミネの屋上では大江戸屋上菜園が作られ野菜づくりが始まっている。ルーフソイルという泥炭を原材料とした魔法の土の開発により、コンクリートで固められた都市の再生が更に発展していくであろう。また、日本橋では大手デベロッパーとNPOが中心になって、古き江戸の界隈性を残そうと街作りプロジェクトがスタートしている。

こうした原点回帰における「原点とは何か」を発見することがヒット商品への入り口となる。原点とは、元、素、根、源、基、つまり多くのものの拠り所となる「もと」である。いろいろあるけれど、最後には何ですかと引き算をして残ったものである。足し算に足し算を重ねてきた過剰さへの見直しである。例えば、既に日常生活に取り入れられている一つに「塩」がある。美容やダイエットにも使われてきたが、素材の持ち味を生かすために塩にこだわった食が評判となっている。野菜、刺身、肉、といった素材に対し塩で食べるといった料理法だけでなく、塩だれのカツ丼やジンギスカンにまで出てきている。つまり、こだわりという視点に立つと、「加工」から「原素材」への回帰と言えよう。料理人だけの料理から、生産者、農家や漁師さんの手による料理も注目されてくると思う。つまり、素材の生かし方や健康に良い調理法を一番知っているのは生産者ということによる。また、加工しなければならないものがあっても、例えば煮すぎない、焼きすぎない、つまり手を加えすぎないといったこととなる。今、さんまが旬で一尾100円からの庶民の味となっているが、釧路で水揚げされた青刃さんまは船上で冷蔵され30数時間後には店頭に並び、都心の百貨店では一尾800〜900円で飛ぶように売れている。1年365日、冷凍技術によりさんまを食べることができるようになった。しかし、この時だけ、しかも漁師さんたちが地元で食べていた鮮度を食することができることへの「価格」が800〜900円ということだ。

引き算をしてなお残るものと言えば、水、光、土、空気(酸素やオゾン)、木、石、といった命にかかわることや最低限の生活に必要なものである。ここでは詳細については取り上げないが、それぞれについて思い浮かべれば、ヒット商品が出てくると思う。ご当地ウオーターではないが、ハイキングやトレッキングあるいは五街道ウオークの主要メニューに、森林浴ならぬ水を巡る旅が加わっても面白いと思う。不眠解決には、朝太陽光を浴びることが一番であるが、逆に明るすぎる夜に対し、電気を消して、小さな明かりのもとで暗闇を楽しむことにヒット商品が生まれるかもしれない。既に東京では裸足で遊ばせる幼稚園があるが、土と戯れるような体験農園や家庭菜園などが更に流行ると思うし、場合によってはコンクリートをはがして自然の土に戻していくような動きもこれから起きてくると思う。つまり、居心地の良い過剰さから、人間が本来もっている生命力を自ら活性するような商品やサービスの芽が随所に出てくる。ライフスタイル的にいうと、1970年代にも流行ったキーワードであるが、「シンプルライフ」ということになるが、次代の違いを踏まえて言うと「ピュアライフ」とでも呼べると思う。例えば、部屋の中にはあまりモノを置かずに、空間そのものの良さ・美を求めたり、材質や素材にこだわりそれらを生かしきるようなデザインのものが好まれる。引き算をしてなお残るものとは10年、20年と使い続けられるものである。私は美学研究者ではないが、日本の生活芸術に着眼した柳宗悦のような生活美の世界へと向かいつつあるような気がしている。数週間前に「デザインが変わる」で書いたが、皆川明さんや佐藤可士和さんのデザインを見ても、そうした傾向が読み取れる。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:55Comments(0)新市場創造