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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2007年08月12日

個族の居場所 

ヒット商品応援団日記No192(毎週2回更新)  2007.8.12.

今から22年前の1985年に男女雇用機会均等法が施行され、女子総合職が生まれ、男性と同じように、いや男性以上の働きが可能となった。以降、共働きはごく普通の生活価値観となった。ちょうどこの年にTBSの人気番組であったドリフターズの「8時だよ!全員集合」という家族で見ていたTV番組が終了したが、このことは象徴的であった。結論から言うと、家族という単位が個人単位となり、個族になったということである。このブログでも取り上げた「Always三丁目の夕日」における「家族」からの変容は、1980年代半ばから始まっていたということだ。

おぞましい事件なので取り上げたくないのだが、昨年暮れに起こった東京渋谷歯科医師の長男武藤勇貴被告の裁判が始まっている。周知のように妹を殺害し、バラバラに切断した事件である。公判の中で、武藤被告を弁護する両親の発言に注目が集まった。殺された亜澄さんの性格が「攻撃的で感謝の念にかけていた」「ずっと機嫌が悪かった」など、まるで我が子ではないかのような言葉と共に、弁護側は亜澄さんが風俗嬢であったことも明らかにした。既にここには「家族」はないと多くの人は感じたと思う。記憶にあると思うが、1982年俳優の穂積隆信による「積み木くずし」は非行に走る我が娘との闘いの記録でベストセラーになったが、そこにはまだ通じ合う「何か」が残っていた。今回の妹バラバラ殺人事件には家族の崩壊というより、居場所を失った乾いた個族がいるだけである。

変わらず続くスピリチュアルブームもこうした個族化した社会が背景となっている。米国におけるメガ・チャーチのようなこころの拠り所は日本にはない。個族の立ち返る居場所は自分だけで常に孤独である。更には2年前の総選挙ではないが岐阜における野田聖子と佐藤ゆかりのように、ビジネス現場において戦う相手が女性vs女性となった。スパに代表される癒しブームの背景も同様で、ホスト遊びや最近ではペットをホストに見立てた新ビジネスも続々と出現している。ヒトリッチというキーワードは最早当たり前で、お一人様用の小さな隠れ旅館や隠れオーベルジュが人気だ。ヨン様から始まった韓流ブームやセカチュウ(世界の中心で愛を叫ぶ)、ハンカチ王子といった白馬の王子ブームも個族の精神的飢餓感から生まれたものだ。純心、純粋、爽やかさ、素朴さ、世俗から離れたものへの希求である。全てこころの根っこのところは同じである。

ちょうど今夏休みの真っ最中で、多くの家族は海外あるいは里帰りへと旅行中だと思う。武藤被告は22歳であると新聞記事にあったが、奇しくも1985年生まれだ。武藤家も他の家庭と同じように、家族旅行はしてきたと思う。いや、個族旅行、ひととき家族旅行であったのではないだろうか。子は必ず親を見て育つ。親子が共有する時間は大切だ。東京杉並の和田中学で藤原さんが行っている父兄参加の公開授業「よのなか科」のように、親子が社会の中に共にある「居場所」が重要になる。いわゆる親子相互学習であり、参加交流がキーワードとなる。こうした居場所創造という視座こそが、あらゆるビジネスに不可欠となった。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:25Comments(0)新市場創造