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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2007年02月28日

海の民の文化 

ヒット商品応援団日記No144(毎週2回更新)  2007.2.28.

先週好きな沖縄に行き、以前から興味のあったニライカナイ伝説の舞台である久高島を記録した映画「久高オデッセイ」を観て来た。久高島は琉球国を創った始祖が降り立った神の島と言われ、東方の海には黄泉の国、竜宮という理想郷ニライカナイがあると伝説となっている島である。その島の人達の生活記録の映画である。何故、ニライカナイ伝説、久高島に興味を持ったかと言うと、私たちは日本文化=農耕文化、稲作文化として理解してきたが、日本は島国であるにも関わらず海の文化が残されていないことが不思議に思えたからである。今なお残されているのは周知の「浦島太郎伝説」ぐらいで、この謎を唯一追いかけている高橋大輔氏によると沖縄にも同様の伝説があると言われている。(「浦島太郎はどこへ行ったのか」新潮社刊) 
ところで、この記録映画はこれからも続くとのことだが、久高島の住人(島人)の生活が神と一体となった生活であることが良く記録されている。年老いて亡くなった「おばあ」の葬送の記録には強くこころ動かされるものであった。集落のはずれまで皆で見送り、「ニライカナイの神様、これからおばあがまいります。どうぞよろしくお願いします。そして、またお戻しください」と祈る。人間と自然、俗界と聖なる場所との関係が生活の中に儀礼として今なお残っていることに驚く。

百姓=農民、孤立した島国、というドグマから解放してくれたのは異端の歴史研究家網野善彦さんである。商業者、職人、金融業者なども百姓としてくくられており、中世の日本では全国を自由に行き来していた事実。あるいは、島国とは回りは自由に行き来できる海があり、室町時代には南米ペルーまで丸木舟で日本人が渡っていた事実。こうした既成の歴史家によって切り捨てられて来た事実、庶民の歴史に着目した網野善彦さんである。もし生きていらっしゃれば、沖縄をフィールドに海の民の歴史、庶民の歴史を解き明かしてくれたと思う。久高島も他の村落と同様に若者は村を去り、漁をする海人はいない。都市化、都市への集中による固有文化の崩壊である。記録映画にも出て来ているが、イラブー(海蛇)漁の後継者もいない。久高島で生まれ育った女達が神女(ノロ)となる「イザイホー」という継承儀礼も1978年を最後に行われてはいない。久高島に近い糸満という漁師町の人から聞いた話だが、いまや糸満名物のかまぼこはベトナムからすり身を仕入れ加工しているという。近海の「ぐるくん」というかまぼこの材料となる魚を捕る漁師は皆年老いており、また加工する店もその多くが零細企業である。捕る魚は何かと言えば、高級魚の代表まぐろであると聞いている。まるで日本経済の縮図がここにも存在している。糸満にも久高島にも海の民の生活が残されている唯一の場所で、古代のこころ、日本の原風景の一つが消え去ろうとしている。

沖縄に行く度に那覇の国際通り周辺を歩くのだが、一言でいうと年々つまらない街へと変貌している。大手の観光土産物店、売られているのは同じような商品ばかりで、沖縄という固有な文化の香りは無い。三越裏に昨年10月にオープンした「沖縄そば博物館」で2度ほどすば(そば)を食べた。食は文化を語るには分かりやすい方法であるが、ラーメンのモノマネといった感がどうしてもしてしまった。沖縄そばのテーマパークは決して悪いことではないが、単なるそば屋の集積だけで、食の周辺商品を集めるといったテーマ性が文化まで高まっているとはいい難い。と言うより、那覇は歩いて楽しい、歩いて興味喚起・刺激されるような街並になっているであろうか。沖縄らしさ、紅型に代表されるような雅な風情と波や風をモチーフにした琉球絣のような素朴さ、「チャンプルー(=かきまぜる)」文化といわれるように本島と離島など異なる言葉をもった独特な雰囲気、猥雑さの中にある明るい生活臭、こうしたことは最早国際通りにはない。市場本通の奥に、今回も変わらずおばあが果物を売っていたが、そうした路地裏にしか「沖縄」は既にない。中高生の観光土産も必要とは思う。しかし、これからの観光、特に団塊世代といったシニアの旅は、「知」の旅となる。久高島に残るニライカナイ伝説はまさに知的興味をそそるテーマとなっている。勿論、久高島ではいまなおそうした神と自然と一体となって日々生活をしており、観光客として土足で家に入り込むようなことをしてはならない。例えば、沖縄で観光土産として「海人」といった文字が書かれたTシャツが売られているが、独自なデザインのTシャツを作り意匠登録をし、売上の一部を記録映画づくりなどの文化基金とする。あるいは久高島特産の海産物にも同様の基金とするような沖縄文化ビジネスの運動といったアイディアもあるだろう。つまり、文化を未来への社会価値として育てて行く「運動」こそ必要となっている。そして、こうした運動の周辺に新たなビジネスチャンスもまた生まれてくる。(続く)

PS 映画「久高オデッセイ」は3月2日まで那覇市桜坂劇場にて公開されている。以降、全国でも自主上映されるようで興味のある方は観られたらよいかと思う。(http://www.office-ten.net/kudaka/top.htm)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:24Comments(0)新市場創造