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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2007年02月18日

大切な時づくり 

ヒット商品応援団日記No141(毎週2回更新)  2007.2.18.

2月14日のバレンタインデーで注目されたのは「ミーギフト」(私自身にご褒美)であった。義理チョコは残るものの、本命チョコは「私」にということだ。個人化はあらゆるところで進行しており、ミーギフトは驚くことではない。個人化を住まい方で言えば単身化=単身世帯であり、DINKS世帯を入れれば優に50%を超え、その個人消費の旺盛さを「ヒトリッチ」と呼んで来た。このブログでも何回か取り上げて来たヒット商品「一人鍋」や「お一人様歓迎旅館やレストラン」もその象徴であり、おふくろの味は、もはやデパ地下の総菜や給食となった。しかし、「ひとり」でいることの居心地の良さと共に、何か寂しさを感じているのも現実である。しがらみは義理チョコのように最低限に押さえ、あらたな人間関係づくり、人情チョコを渡したいという欲求はミーギフトの裏側に潜んでいる。既に高校生の間では「友(とも)チョコ」が流行始めている。こうした孤独化社会を癒してくれる時づくり、ひととき家族、ひととき夫婦、ひととき親子、ひととき仲間といった「ひととき関係」づくり市場が旧来の概念である「しがらみ関係」とは別にあらゆるところに進行している。

古くは合コンから始まり、最近の恵比寿界隈は仕事帰りの若い世代の立ち飲みショットバーが大流行りである。新橋駅付近のオヤジ居酒屋と同じ「飲みニケーション」であるが、上司部下といった上下関係ではなく、同世代の「ひととき仲間」である。
今、サントリーオールドのCM「父の上京」篇が流されている。東京で働く娘に会いにくる設定で、娘は仕事は順調と嘘を言い、父もまた出張で来たからと嘘を言う。互いに「嘘」と分かり合えている「大切な時」がその内容になっているが、私に言わせれば「ひととき親子」がテーマとなっている。父と娘、会話がもどかしい関係だが、こんな嘘はついてみたいと共感できるCMだ。
しがらみ関係と言えば、仕事の取引関係となるが、今東京で話題になっている和菓子屋がある。新橋にある老舗新正堂の「切腹最中」である。仕事でミスしてお詫びをする時持参する最中とのことだ。あんこがはみ出すぐらいの最中でチョットグロテスクだが、少なくとも談合関係ではない世界で、「人情最中」として話題にはなっているようだ。

戦前までは「家」が個人の居場所であり、戦後はその家が「会社」になり、ある意味バブル崩壊と共に、グローバリゼーションの進行に合わせて、会社から「個人」そのものが居場所となった。そこから生まれて来たのが、プチ家出という言葉が流行ったように居場所を求めて漂流する子供達だ。そうした少女達を救おうと夜回り先生こと水谷修さんが今なお活動していることは周知の通りである。バラバラになった「個」をつなぎ直す「大切な時」づくり視点が重要な時代となっている。住宅メーカーでは親子の大切な時づくりのための共同スペースが作られたり、親子で遊ぶ田舎ツアーやスポーツなどのメニュー、あるいは飲食施設の個室化などファミリー単位へと視座が変わって来た。その「ひととき」が強く記憶に残る、そんな思い出づくりが重要となる。ギフト市場、贈答市場は義理によるものから、心や気持ちを通い合わせる「時」づくり市場へと変化したのだ。バレンタインデーも新しい大切な時として、人情チョコとして、リニューアルしなければならないということだ。サントリーオールドのCMではないが、時に嘘も洒落た人情物語になる。また、「Always三丁目の夕日」の売れない作家が踊り子小雪さんにプロホーズするシーンを思い出す。お金のない作家は指輪の入っていない空箱を差し出すのだが、小雪さんはあたかも指輪があるかのように指にはめ、きれいとつぶやくシーンである。物にとらわれているとアイディアを失ってしまう。空箱でも、嘘でも、「大切」と思えば個と個はつながり合う。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:41Comments(0)新市場創造