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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2007年02月21日

「小」の経済学

ヒット商品応援団日記No142(毎週2回更新)  2007.2.21.

経済単位が変わった。日常の食で言えば、あれこれチョットづつとなったのは既に10年前からであった。今やあらゆる分野で「小」単位が原則となってきた。「小」のビジネスを先行してきたのは周知のコンビニであったが、今や映画といった文化産業、エンターテイメントビジネスにおいても「小」が基本となってきた。スケールメリットという規模ビジネスは勿論あり得るが、それはNO1のみに与えられた戦略である。しかし、それですらいつしか崩壊していく様を何度となく見て来た。スケールメリットの多くは製紙や鉄鋼といった「装置産業」である。その装置が大規模工場であったり、大規模従業者数であったり、大規模資金であったり、人、物、金をいかに仕組みとして効率よく運営するかがメリット享受のポイントであった。興行収入で洋画を抜いた日本映画再生の秘訣は、「小」をいかに生かし切るかのアイディア・工夫にあった。映画産業は、ある意味職人ビジネスである。その職人を生かし、顧客が求めるビジネス規模に応えるための資金調達がポイントであった。あれこれチョットづつという多様な顧客志向を明確にし、ビジネスとして成立させたのが映画プロデューサーである。何が当たるか分からない不安の解決、特に投資資金の回収を可能にしたのが、リスク分散=小さな単位のファンド集めであった。東宝では20本の映画信託トータルでリターンを考える仕組みで、一口2000万という小さなファンドであった。資金も小さな単位で集め、小さな劇場・シネコンで放映し、小さな価格で楽しめるようになった、これが日本映画復活の鍵となった。

ここ数年前から、時間型サービス産業においても「小」が基本となっている。マッサージは10分単位、理美容院も30分のクイックサービス、快眠をテーマにした時間レンタルルーム、飲食店においても時間帯による入れ替え制を導入しているところすらある。物の単位ばかりでなく、時間の単位を「小」とすることによって「隙き間時間」という第三の市場が生まれる。そして、テーマですら「小」単位化が進んでいる。例えば、従来であれば中華料理には、四川料理、北京料理といった地域料理がテーマとなっていたが、今やフカヒレ料理や中国茶といったようにより細分化されたテーマ専門店となってきた。最近のショッピングセンターで成功しているフードコートもこうした専門店をうまく編集しているからである。

なぜこうした新しい「小」に着目したビジネスが生まれて来たかである。結論からいうと旧来の概念、業態や商品の変化要請があらゆる領域で、個性化=私化(個人単位)が行われ始めたということだ。例えば、ファーストフードとファミレスとは異なる第三の業態がこの変化要請に当たる。いわゆる食堂の再認識であり、大戸屋のような業態である。当然、ファーストフードやファミレスはその規模を「小」へと圧縮しなければならないのだが、物理的店舗を明日から半分にするという訳にはいかない。スーパーとコンビニについても同様である。スーパーサイドでは食品のフロアだけを24時間化し、一方ローソンのように生鮮品を扱うコンビニタイプを導入するといった第三の道の模索である。こうした第三の道で最初に成功したのが周知の和民であろう。居酒屋と食堂との間、居食屋という新しいコンセプトによる成功である。

このように全てが「小」ビジネス化していくことによって重要になるのが、その編集力である。流通では古くから使われている言葉であるが、一つの雑誌づくりのように売り場を見ていけば良いのである。特集、連載・シリーズもの、コラム、・・・・といった構成であるが、今注目すべきはコラムである。一番小さなスペースだが、小さいことによってより強い先行する「何か」を掲載できるのがコラムである。コラムニストの先人は天野祐吉さんであるが、最近は多くの人間がコラムニストを自称してきているのもこうした背景からだ。「小」であれば、たとえ失敗してもリスクは小さい。常に先行する何かを探る良き羅針盤にもなる。私は5〜6年前に百貨店のリニューアルの時に、「小」編集売り場やMDを提案したことがある。それは「ワンコインマーケット」という食品売場で、あれこれチョットづつを100円単位、500円単位の商品構成の編集であった。また、洋菓子についても、1個400〜500円のケーキと共に、一つのコラムとしてプチケーキセット3個550円というプライスの商品化の提案であった。ヒントは懐石料理の先付けであったが、既にある「小」の世界を転用する方法もある。大特集の時代から、小さくても光る「小」への着眼、コラム編集の時代へと移行した。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:35Comments(0)新市場創造