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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2019年07月14日

街が変わる、消費が変える  

ヒット商品応援団日記No743(毎週更新) 2019.7.14.


ブログを始めてから町歩きはしていたが、2014年2月からは主に「未来塾」というタイトルでその変化をレポートしてきた。その第1回目は文字通り「街から学ぶ」というテーマを選び、その背景として街は時代と呼吸することによって常に変化し続ける。この変化をどう読み解くのかということこそビジネスの未来を見いだす芽となる、そうした仮説をもとに多くのレポートを書いてきた。

主に観察する街をどう選んできたかと言えば、良い変化が街に現れその街の商業が活力あるものとなっているところを選びレポートしてきた。勿論、例えば「人の手」が入ることを止めた耕作放棄地のように、草木が生い茂りイノシシなどの野生動物の棲家へと変化した街もある。それは地方ばかりか、首都圏にもまだら模様として残っている。敢えて、そうした街を題材としなかったのは「人の手」が及ばない状態になっているからであった。つまり、役に立たない、活用できない事例ということであった。但し、唯一衰退への警鐘を鳴らしたのは東京スカイツリーの計画に盛り上がった地元押上商店街に対してであった。東京スカイツリー景気にのったいわばコバンザメ商法によって押上商店街も潤うのではないかということへの警鐘であった。案の定、開業2年後に残ったのは押上食堂と稲荷寿しの味吟ぐらいで、東京スカイツリーのソラマチ(商業施設・専門店)に負けない特徴を持った店である。TVメディアに踊らされた店々はことごとく閉店し、シャッター通りから寂れた住宅街へと変貌した。

一方、東京スカイツリーのような「外的要因」による衰退への道をたどることなく、逆に活況を見せている江東区の砂町銀座商店街やハマのアメ横と呼ばれる興福寺松原商店街のように何故活況を見せているのか、その理由を学んだ方がお役に立てるのではないかと考えたからである。こうした事例は地下鉄の開通を機にテーマを持って一大観光血となったもんじゃストリートもあれば、衰退の街を辿ろうとした吉祥寺にあって、北口駅前にある昭和レトロな一角ハモニカ横丁が若者に新鮮なおしゃれ感覚、OLD NEW古が新しい、そんな世界を提供し、住みたい街NO1という独自な街へと変化させた。また、3年ほど前から新しい活況の芽を見せている大阪の街を題材に、見事に再生した新世界・ジャンジャン横丁や黒門市場を取り上げてきた。100の街があれば、100通りのコンセプト・活況法があり、アーカイブから目的に沿った街やテーマを取り出して今一度読み解いて欲しい。

また、街の変化と共に、街の商業を構成する主要な企業・専門店の変化も併せてスタディするとより鮮明に「変化」が見えてくる。その一つが日経MJの「ヒット商品番付」を独自に読み解いた視点・着眼である。このヒット商品番付の分析については2007年から行なっているのでリーマンショック前からのヒット商品の特徴を見ていただくことができる。ここ数年の特徴というと、大きなヒット商品は極めて少なくなり、小型化し、しかもデフレ時代ならではの商品、日常利用商品がほとんどとなっている。
あるいはビジネスにおいて注目話題となった事例、例えばユニクロの値上げの失敗や同じように値上げで業績を落としたラーメンの幸楽苑における改革とV時回復、つまりデフレ時代における「価格戦略」をテーマとして取り上げてきた。売れない出版業界にあって唯一売れている雑誌、おまけ付き雑誌などにも言及しているので是非。

さて本題に入るが、10月の消費増税によって「街」にどんな変化をもたらすか考えてみたい。実は、2014年の消費税8%導入に際しては、砂町銀座商店街については導入前と導入後の変化を見ることができた。その時のブログを今一度読んでいただきたいのだが、商店街の多くの店舗に共通していることは「生業の良さ・強み」であるということに尽きる。つまり生きていくための工夫がここでは行われており、結論から言えば「売り切る力」を持っているということであった。今風の言い方であれば「ロス率0経営」ということである。結果、どういう変化となって現れてきたかというと、賑わいに「変化」はなかった、ということである。わかりやすく言えば、閉店する店はほとんどないということである。また、ハマのアメ横と言われる興福寺松原商店街については年末恒例の大売り出しは年々盛んになり身動きが取れないほどの混雑が見られるようになっている。
売り切ることができる商店とは、消費者にとって他にはない魅力を有しているということで、既に消費税10%時代を乗り越えることができる「何か」があるということである。私の言葉で言えば、顧客が求める「デフレ自体を楽しませてくれるお店」ということである。それは単なる低価格商品の品揃えのことだけではない。むしろ価格が問題となるのはチェーン店の場合であろう。チェーン店が価格面で失敗した多くの場合、「顧客が見えなくなってしまった」ことにある。この程度の値上げは十分行けるであろう、といった安易な思い込みによる失敗が多い。街場の商店の方が顧客と日常的に接していることから「顧客は見えている」ということである。但し、街場の商店の最大課題は後継者がいないということである。

ところで東京への人口集中が止まらない。この集中を支えているのが住宅事情である。周知のタワーマンションという容積率の緩和による都心部での居住を可能としたことによる。しかし、中央区をはじめ多くの自治体でタワーマンションの規制へと向かってきている。地方にとっては嬉しい悲鳴と受け止められるかもしれないが、「過剰人口」になってきたということである。既に10年ほど前から東京湾岸地帯の建設ラッシュは始まっており、小学校のクラスを増やすなどが始まっている。最寄駅の勝どきでは通勤時間帯にはホームに人が溢れる状態になる。つまり、過剰人口によってバランスのとれた社会インフラを失い始めている。ちなみに、地下鉄大江戸線勝どき駅の1日の乗降客数は、開業当初の平成12年度は約3万人であったが、周辺地域の開発事業により利用者が増加し、平成29年度には約10万人へと急増した。現在はホームの新設工事を行なっており、来年2月にはしようとのこと。こうしたタワマンによる過剰人口は東横線とJR線がクロスした川崎の武蔵小杉においても同様のことが起こっている。都心にも横浜にもきわっめて便利な街であるが、ここにも過剰人口の現象が現れてきている。特にJR線のホームは人が溢れ危険極まりない状態になっている。
思い起こしてほしい
大江戸線の勝どき駅の隣駅が月島であのもんじゃ焼きのテーマパークとなった街の隣である。古い裏通りの商店街はもんじゃ焼きの店々となったが勝どきへとつながる表通りである晴海通りは高層ビル群になっている。しかし、思い起こしてほしい。大江戸線開業を機に、駄菓子屋の軒先で売られ廃れてしまった「もんじゃ」を再生させ、70数店舗が個性を競ったもんじゃストリーを作り、一大観光地へと生まれ変わったことを。つまり、「もんじゃ焼」というテーマが無ければ、耕作放棄地のように荒れ果てた地になっていたということである。
また、前述の武蔵小杉駅の先西南には港北ニュータウンという郊外ベットタウンが広がっている地域である。その主要駅となっている田園都市線沿線は武蔵小杉と同様混雑の激しい地域である。武蔵小杉が最近開発されたタワーマンションの街であったのにたし、港北ニュータウンは当初は急増する横浜市の人口への受け皿として計画されてきたが、1990年代に入り、都心へのアクセスの良さから百貨店やSCなど多くの商業施設が競争しあう郊外ベッドタウン地域となる。少し前のブログにも書いたが極めて激烈な価格競争が行われている地域で、食品スーパーにおける2大ディスカウンターであるオーケーとロピアがしのぎを削っている地域でもある。ちなみに武蔵小杉駅裏にはいくつかの古い商店街があったが、その多くは廃れてしまっている。
一方、少し前の未来塾で取り上げた東京高円寺には新宿から10分もかからない交通至便な地域にも関わらずほとんどタワーマンションはない。しかも、駅を中心に10もの古い商店街が今尚活力ある街を作っている。大阪の友人に言わせると東京は広いな、まだまだ開発する余地があると感想を漏らしていた。勿論、タワーマンションを作れば儲かると行ったことではない。戦後商店街を中心に育てられてきた阿波踊りや演劇に象徴される「文化」が居心地の良い街を創ってきており、そうした庶民文化を土台にしたまちづくりのことである。

つまり、「消費増税10%」を機に「何」を「どうする」のかである。押し寄せる変化には地下鉄の開通や大型商業施設の開業といった「外的」なものと、高円寺のような「内的」なもの、時間をかけて創られてきた文化力のようなもの、どちらに軸足を置くかである。今回の消費増税は、街にも個店にも等しく変化を求めてくる。そして、今回の消費増税は前科のような「駆け込み需要とその後の落ち込みの回復」といった程度の変化ではない。中小企業の場合、高齢化による後継者不足が最大の課題となっているが、事業の承継や再生について中小企業振興公社を始めいくつか相談窓口があるので、検討すべき「変化要請がきているということである。
冒頭の写真は中央区月島の表通りである晴海通りに林立する高層ビル群と裏通りにあるもんじゃストリートである。開発は裏通りであるもんじゃストリートにも及びその計画が懸念されていたが、ストリートに面した1階には今まで通りのもんじゃの店が営業し、上には高層ビルへと変化しているという。つまり、高層ビルが全てダメであるということではなく、それまで培われてきた歴史や文化とどう調和させていくか、何を残し、何を変えていくのか、そうした街の編集力が問われているということである。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:12Comments(0)新市場創造