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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2019年03月24日

全体が見えてきた消費増税 

ヒット商品応援団日記No732(毎週更新) 2019.3.24.

値上げラッシュが続いている。新年から小麦粉の値上げを皮切りにアイスクリームをはじめとした乳製品、あるいは冷凍食品、昨年からブームが続いている鯖缶も高騰ししかも品不足となっている。その値上げの背景には人手不足による人件費の高騰や、原材料および包装資材価格の上昇から、製造コストや配送コストが上がり続けているのが理由となっている。特に食品についてはその多くが輸入に頼っており、長引く円安はボデーブローのように経営を圧迫している。こうした背景はわからなくはないが、提供する企業にとっては値上げのタイミングとしては10月の消費増税実施前に実施しておきたいというのが本音である。つまり、消費者から「便乗値上げ」の指摘を受けたくないということだ。

ところで消費増税の影響を一番受けるのは外食産業であると言われているが、今年に入り宅配やテイクアウトの強化が実施されている。あるいは顧客の固定化を図る目的で、定額料金による飲み放題や使い放題といった「サブスクリプション」も進んでいる。また、値上げについてはすき家を始め昨年から値上げが実行されているが、それらは「一部」メニューであり、全体の値上げではない。それは昨年の居酒屋チェーン鳥貴族の値上げの失敗、メインメニューを値上げしたことによる客離れの実態を見ているからである。消費者にとって値上げの意味の理解納得が得られない場合、どんなことが起きるか、企業の側は周知している、そんな現況にあるということだ。価格に対しシビアになっている良き事例がセブンイレブンの朝おにぎり2個二百円というセールである。一見お得に見えるが、過去何回もおにぎり1個百円セールが行われており、何故朝だけなのか、何故2個でないとダメなのか、といった意見が多く寄せられているように、セールひとつとってみても、顧客の反応は極めて敏感である。

その消費増税であるが、全体概要が見えてきた。特に、「ポイント還元事業」という政策についてであるが、還元事業に参加する決済事業者の募集が始まっている。以前ブログにも書いたが、キャッシュレス決済がなかなか浸透しない理由の1つは、加盟店手数料が高いことである。今回のポイント還元事業では、ポイント還元事業の期間中に加盟店手数料を3.25%以下にしなければ、事業の対象にならない。それとは別に加盟店手数料補助事業もあり、対象事業者になると、同じ対象期間中の加盟店手数料の3分の1は、国から補助金が出ることになっている。また、キャッシュレス決済のための端末を中小・小規模事業者が導入する場合、国は導入費用の3分の2を補助する(残り3分の1は決済事業者が負担することが必要)。キャッシュレス決済の端末を導入したい中小・小規模事業者は、対象期間中なら事実上自己負担ゼロで導入できる。

ある意味街場の中小事業者にとってはいたれり尽くせりの支援となっているが、当の消費者にとって、ポイント還元期間はわずか半年間であり、その期間中どれだけのポイント=お得が得られると理解納得できるかである。勿論、期間を超えればポイント還元は失効してしまう。既に、PayPayの導入キャンペーンでわかったことは、家電量販店での使用に見られるように特別な「高額書品」の購入にはお得感はあるが、少額の日常利用にはあまりお得感がなく、使用しないという結論であった。こうしたことはニトリの「お値段以上」ではないが、お得感のあるキャッシュレスは限られたものとなるということだ。確かにこれからの時代はキャッシュレスには向かっていくとは思うが、日本は欧米、特に中国とは全く異なるのはATMがいたるところに設置され、現金決済に不便を感じることが少ない環境にある。ましてや、年金暮らしのシニア世代にとって、キャッシュレスはそれほど使い勝手の良いものではない。さらにいうならば、中小事業者が集まる元気な酒店街、例えば砂町銀座商店街や興福寺松原商店街などポイント還元政策に参加することはないであろう。参加したとしても売り上げにキャッシュレスが大きく影響するとは考えていないであろう。ここ数十年値上げをしないでやってこれたわけではない。そこには店と顧客の間に密接なコミュニケーションがあってのことだ。そうした「納得感」が商店街の元気さを支えている。

ところで予定されているキャッシュレス事業の予算は約2800億円となっているが、予算には加盟店手数料の補助も含まれており、消費者へのポイント還元という目的より、キャッシュレス化の推進にウエイトがかけられ、消費者にとってどれだけ増税軽減を感じることとなるか極めて疑問である。ただ、政府は2025年までにはキャッシュレス化による購買比率を40%まで高めたいと考えているようで、この政策は進んでいくかと思う。増税という課題とは少し離れてしまうが、これまでの共通ポイントとして圧倒的なシェアーを誇ってきたTポイントの市場にも多くの企業が参入し、中でも楽天グループのように従来のネットにおけるポイントとリアル店舗におけるポイントとを結合させた合理的な「お得」を提供し始めている。それまで共通ポイント市場で先頭を走ってきたTポイントは単なる購買データの販売という名簿管理運営企業になってしまい、消費者への合理的なお得に遅れてしまっているのが現状である。昨年からのキャッシュレス市場に多くの企業が参入してきたのは「顧客名簿」を持つ企業がその名簿を元にした「お得」競争に参入してきたということだ。数年先には撤退・統合といった整理を踏まえ生き残り企業が決まっていくが、現段階では混戦状態にあるということである。ポイントについては顧客のお得という視点からキャッシュレス化を考えていく予定である。

なお、もう一つのプレミアム付き商品券であるが1人2万5000円まで 、対象となる世帯は非課税世帯と9月末までに生まれた子供のいる世帯とのこと。この施策はアナログであるが、分かりやすさはあるものの、上限2万5千円で2万円で購入するので5千円のお得となるが、消費を考えると瞬間的に終わってしまうこととなる。
ポイント還元もプレミアム商品券も共に期間は6ヶ月である。どうしても痛み止めの注射のように思えて仕方がない。6ヶ月を過ぎたら軽減税率はあるものの、消費税10%は続いていく。

実は今元気なのはパパママストアといった家族経営の中小事業者で、飲食店で言えば「食堂」であり、業態でいうならば「立ち食い」スタイルやセルフスタイルといったものとなっている。特に、食堂には従来の顧客である、ご近所顧客、サラリーマン、学生といった顧客とは異なる新しい顧客創造の飲食店が出てきている。こうした従来顧客とは別に若い世代向けの新しい居酒屋としてしかも広域に集客できる「食堂」である。昼は前者の顧客、後者は夜の顧客で、行列ができる店の一つが大阪空堀にある大衆食堂スタンド「そのだ」という中華をベースにした飲食店である。月商は1000万を超えていると聞いているが、新しい顧客を創るにはやはりMD,メニューである。こうした一つの店舗で異なるメニュー業態といったほうがわかりやすい。限られた資産、店舗や厨房、人員スタッフをいかに生産性高くしていくかという良き事例である。立ち食いの「俺のフレンチ」や「いきなりステーキ」、あるいは昨年から人気となっている「お一人様焼肉」といったセルフ業態とは異なる既存店をいかに生産性高くする新しいメニュー業態である。現在も「プロント」のようなタイムMD業態はある。既存業態店においてもラーメン店の「朝ラー」やマクドナルドの「朝マック」のようなメニューも作られてはいるが、「そのだ」のようにアルコール離れと言われてきた若い世代の新しい居酒屋」に着眼したことはとても面白い試みである。
勿論、「そのだ」の場合も安さという魅力があってのことだが、その「安さ」がより魅力的になるのは何と言ってもそのメニューそのものにある。看板メニューの一つがラーメンであるが、美味しいことは言うまでもないが、鳥と魚介系のラーメンで、食べ進めていくとあさりが数個入っており、そのスープのうまさを倍加させる工夫がなされている。こうした細部に納得実感させるアイディアが随所にみられる店である。つまり、価格の理由が消費者にとって「わかりやすい」ことが第一となっている。

今、セブンイレブンを始め24時間営業の是非が話題となっているが、この課題については一度私見を述べたいと思うが、セブンイレブンの成功の一つはうやはりそのMDにある。例えば、確か1980年代であったと思うが、そばについている薬味の袋に使いやすくするために切り込みを入れたことに驚いたことがあった。今で言うところのユニバーサルデザインであるが、顧客の視点からの薬味袋の改良、つまり細部に渡った改良の積み重ねが今日のブランドを創っていると言うことである。最近では健康トレンドの一つとなっているタンメンにおけるスープの改良が行われており、日々進化している。おにぎり2個二百円というプロモーションの失敗もあるが、コンビニは顧客とともにある良き事例を提供してくれている。

今回の消費増税について消費者は「価格・お得」に対し極めて敏感な反応を見せるであろうと指摘した。そのことは価格だけでなく、メニューの内容に対しても同様であることを忘れてはならない。まず既存店舗、既存メニュー、既存サービス、・・・・既にあるものの細部への見直し改良を行うことだ。以前にも書いたが、増税について求められるのは公平性とこのわかりやすさである。軽減税率の分かりにくさに加え、あれもこれも盛り込めば盛り込むほど増税への理解はなく悪感情だけが積もっていくこととなる。そして、「細部」には目が届かない、わかりにくいどころか、逆に気づきは細部にまで及び満足感を醸成する主要なものとなっていく。「増税対策」の一つとして、価格だけでなく「細部」を磨くこともまた忘れてはならない。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:33Comments(0)新市場創造