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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2019年02月24日

すでに始まっている消費増税市場

ヒット商品応援団日記No727(毎週更新) 2019.2.24.

消費増税というと住宅や車といった高い買い物から始まり、増税実施間際1ヶ月前には日常商品の「駆け込み需要」といった市場変化が今まであった。しかし、今回の増税における変化は少し異なるようだ。まず、大きな買い物である住宅については昨年後半から今年にかけて駆け込み需要が始まると考えられていたが、それほど大きな需要は見られていない。都市部の需要については、不動産経済研究所によれば、2019年の首都圏1都3県の新築マンション発売戸数が18年見込み比0.8%増の3万7千戸とほぼ横ばいになりそうだとの予測を発表した。19年秋には消費増税が予定されているが、住宅ローン減税延長などの対策で駆け込み購入や増税後の落ち込みは限定的とみている。一方、近畿2府4県も0.5%増の2万戸とほぼ横ばいの見通しとのこと。ある意味、デベロッパーも顧客の側も増税の「慣れ」と共に、新築物件だけでなく、空き家率は更に増加し13.5%と広がっている。こうした背景から中古住宅のリノベーションなど住宅需要の多様化が進んでいる結果であるといえよう。

ところでこの消費税導入によってどんな変化をもたらしたか、少しその歴史を振り返ってみることとする。周知のように消費税3%が導入されたのは1989年4月というバブル期の真っ只中であった。その時代背景をまとめてみると、日本経済は成長し、収入も増え、旺盛な消費へと向かっていた時期で、東京ディズニーランド開園や若い女性の海外旅行ブームが起き、結婚しない女あるいはオヤジギャルという言葉が盛んに使われたように消費の主役は女性であった。こうした好景気を背景に、法人、個人共に旺盛な不動産投資へと向かう。そして、その象徴であるが1989年末には4万円弱という最高値の株価をつける、そんな時代での導入であった。つまり、豊かな「一億総中流」心理にあって、消費税3%は市場の収縮には至らなかった。
そして、バブルが崩壊を迎えるのだが、そのバブル崩壊は多くの神話の崩壊でもあった。金融神話、大企業神話、不動産神話、年功序列など。そうした不安定な時代の延長線上の1998年4月に消費税5%が導入される。その前年の1997年アジア通貨危機を始めとした金融危機が起こり、拓銀、山一証券が破綻となって現実化する。消費という側面から見ると、バブル崩壊以降も世帯収入は伸張してきたが、1998年以降右肩下がりとなる。この時の消費税5%実施は消費を萎縮させ、デフレ経済へと向かわせることとなる。その象徴的な「事件」であったのが、ヨーカドー、イオンによる消費税分還元セールで大人気となる。また、マクドナルドによる半額バーガーも大ヒット商品となる。

こうしたデフレ状態が長く続くのだが、1998年以降右肩下がりの収入は10年間で平均年間100万円弱減少した。デフレは常態化し、デカ盛り、食べ放題、おまけ、付録、低価格、298円弁当、激安ジーンズ、LCCの本格参入、・・・・・こうした「お得」が消費の中心を占めるようになる。
そして、2008年には米国発の金融危機「リーマンショック」が世界中に飛び火し、日本においても輸出企業を中心に大きな打撃を受ける。長期化する不況にあって、消費心理も内へ、過去へと向かい、ヒット商品の多くはそうした中から生まれた。そうしたデフレ状態が続く中で、2014年4月消費税8%が導入される。この時のキーワードが「駆け込み需要」で、導入後消費は極端に落ち込むこととなる。以降の消費の傾向については昨年夏に「過去5年のヒット商品の傾向を読む」というタイトルで消費傾向を分析しているので是非お読みいただきたい。このブログでも何度となく取り上げてきたが、実は2014年には「インバウンド消費」という新市場が現れてきている。この消費によって、流通業、特に百貨店や地方の活性につながったことは記憶に新しい。

さて本題に戻るが、消費増税をどんな迎え方をしていくのか、いくつかヒントとなる事象が現れている。昨年12月「ヒット商品番付を読み解く」にも書いたことだが、番付の大関にはスマホペイ と サブスクリプションが入っている。前者のスマホペイはいわゆるバーコードやQRコードを使った決済方法であるが、先行するドコモの「d払い」は100万ダウンロードを超え、その後を追うようにPayPayが昨年12月に100億円キャンペーンを実施し、話題となった。このキャンペーンについてはその広告効果については大きなものが得られたと思うが、一部家電量販店や高額商品などでの使用に偏ったものとなり、わずか10日間で終了してしまった。現在はその第二弾が行われているが、利用条件が日常利用、少額利用といった条件となっているため、今尚キャンペーンが継続している。
こうした参入の背景にはスマホ市場は今までのような成長市場が見込めないことから、周辺のキャッシュレスといった「決済市場」への進出ということの表れである。つまり、例えばメルカリの参入に見られるように膨大な顧客関係を持つ企業が本業以外のビジネスへと広げていく、そうした試みが始まっているということだ。
このPayPayの事例を見ても分かるように、20%という「お得」は利用額が小さければ利用しないということである。後発PayPayの認知度アップには貢献したが、消費者は明確に「お得」か否かの線引きが利用額の多い少ないといった条件に左右されるということである。

もう一つのヒントとなる事象が周知のZOZOの「1億円ばら撒き」ツイートで、その話題という反響は大きかったが、一方でツイッターという手法、つぶやきが個人であるのか企業のプロモーション活動であるのか、そうした不鮮明さもあって、1億円という話題作りといったやり口に問題あると大きな批判が出た。それは前澤社長による月旅行やタレントとの交際といった「話題」づくりの延長線上にあるもので、作用もあれば、当然反作用もある。結果、ツイッターを当分の間止めると発言し、情報の表舞台には出てこなくなった。ちょうど同じ時期に決算の大幅な下方修正の会見があり、大幅な減益となったことは周知のとおりである。いずれ本格的にZOZOタウンについて取り上げるつもりであるが、若い世代のZOZOタウン人気はUAなどの人気ブランドを集めることができたからで、昨年からのZOZOスーツによるPB商品事業がまるで売れなかったことを見ても分かるようにZOZOタウン自身にブランド価値はないということである。早めにこうした錯覚から立ち返り、本業に戻る(?)ことができたのでよかったと思うが、「1億円」という情報のインパクトの振り幅が大きかったと言うことは、反対への振り幅が大きかった良き事例である。

さてこうした炎上商法とは言わないが、「情報」づくり、話題による反応とは異なる消費税対策が、サブスクリプション=定額サービスの進行であろう。一定の金額によるヘビーユーザー向けの使い放題、飲み放題といったお得サービスである。消費税8%導入以降のデカ盛りや食べ放題の延長線上で、顧客関係を固定化、別の表現を使うならば囲い込み策は経営の安定策ではあるが、新たな新市場をつくることにはあまり繋がらない。ただ、消費税10%が導入されてもそれほどの落ち込みには至らないということは言える。

以上のようにここ半年ほどの消費税対策を見てきたが、やはり「本業」をどう磨くか、発展させていくか、そこに焦点を当てている企業が出てきている。例えば、讃岐釜揚げうどんの丸亀製麺などはトッピングに季節のものを加えるといったプロモーションに力を入れてきたが、こうしたプロモーションとは別に「丸亀製麺は全て店内調理です」と強いメッセージを発信している。これは「見えないところでのロボット調理」が多くを占めている飲食業界にあって、本道を歩んでいるということができる。こうした「見える化」はオープンキッチンという業態だけではなく、店内で揚げた天ぷらの持ち帰りに見られるようなコミュニティとの一体化や店舗で働く人たちの未来を考えた人事制度など、あるべき経営が行われている。
また2年ほど前にラーメンの幸楽苑の不振、安さだけのチェーン店の限界についてブログで触れたことがあったが、その後いくつかの改革がなされ赤字32億円から大きく脱却し業績を回復させた。これも新しい代表を迎い入れ、「味」「メニュー」という事業の最も根幹のところの改革に取り組んだ結果であろう。これも本業・本道こそが消費税対策になるということであろう。

3月に入れば、消費税10%導入の半年前ということから、少しづつ推進する政府の軽減税率やポイント制などの対応の詳細が発表されるであろう。また、企業の側もその対策は出てくることと思う。何れにせよ、「混乱」は起こり得る。軽減税率については今までその範囲など問題点をブログで書いてきたのでこれ以上書くことはないが、特にポイント制導入については実務レベルでどこまで導入可能か極めて不鮮明である。そうしたことも徐々に鮮明になってくることと思う。
こうしたシステム上のこともあるが、4月からは新元号が発表され、5月からは多くのシステム変更が行われる。しかも、「不適切動画」といったチェーン店現場における「人手不足問題」など消費現場では多様な問題点がすでに明らかになっている。こうした状況にあっての消費税導入である。勿論、デフレが半年後に終わることはない。最新の情報ではないが、いくつかの世論調査においても日経新聞以外はその多くは10%導入には反対で、賛成を大きく上回っている。反対の多くは「時期を遅らせるべきだ」と答えているように、消費サイドも「いつかは」と理解を示す生活者も多い。しかし、消費に対し、積極的態度ではあり得ない。
但し、今回の事象を見ても分かるように炎上商法的話題づくりは瞬間成功しても長続きはしない。逆にその反動の方が極めて大きくなるであろう。こうした振り幅が大きくなるのは心理市場の特徴で更に大きくなることが想定される。また、ブログにも取り上げるつもりであるが、そうした心理市場にあって理不尽な顧客、モンスター消費者が増えてきている。その心理とは、いわゆる「キレる」顧客のことである。過剰なサービスの末路であるといった指摘もあるが、コトの本質は「苛立ち」心理が蔓延する社会背景によるものと考えている。こうした背景での消費税10%導入で、混乱が起きると考えるのはこのモンスターが消費現場で暴れることが想定されるからである。
つまり、こうした心理市場での経営であり、言うまでもなく本業・本道に立ち返ることに尽きる。(続く)  
タグ :PayPayZOZO


Posted by ヒット商品応援団 at 13:34Comments(0)新市場創造