プロフィール
ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
インフォメーション
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 16人

スポンサーリンク

上記の広告は、30日以上更新がないブログに表示されています。
新たに記事を投稿することで、広告を消すことができます。  

Posted by だてBLOG運営事務局 at

2016年06月10日

2016年上期ヒット商品番付を読み解く 

ヒット商品応援団日記No648(毎週更新) 2016.6.10.

日経MJによる2016年のヒット商品番付が発表された。消費増税が再先送りされたように消費には見るべきものはないので、日経MJも番付を作るのに苦労したと思う。デフレ脱却どころか家計の支出を抑えたまさにデフレを表す消費となっており、アベノミクスならぬ「安値ミクス」としている。以下その主だった番付である。

東横綱 安値ミクス、 西横綱 マイナス金利特需
東大関 バスタ新宿、  西大関 伊勢志摩・広島
関脇 民泊、 関脇 AI(人工知能)
小結 北の新幹線、  小結 京都鉄道博物館

東横綱の「安値ミクス」とは再び「安い」価格帯への復活をミックスさせるという意味である。その代表的な「安値ミクス」のヒット事例として牛丼の吉野家における豚丼の復活とユニクロにおける中価格帯ラインへの値上げ失敗を挙げている。私はすでに4月10日のブログ「既に日常化しているデフレ」というタイトルで取り上げ、次のように書いている。

『あの牛丼の吉野家が豚丼を4年ぶりに復活させたことである。価格は4年前と同じの税込330円だ。これは牛丼よりも50円安く設定されている。現在は復活キャンペーンとして300円となっており、外食離れが進む中での明確なデフレ戦略としてある。つまり、客単価志向ではなく、客数志向で、ユニクロと同じで価格を下げる戦略を採ったということだ。というのも豚丼が誕生した背景にはBSE問題の影響で牛丼を提供することが出来なくなったことによる。ある意味で、豚丼は窮地に陥った吉野家の救世主で、吉野家フアンであれば周知のことである。』

このデフレ戦略によって豚丼は2か月間で1000万食の売り上げとなり、年間目標の50%を達成したという。吉野家の窮地を救った救世主となった。

そして、ユニクロについては
『デフレの騎手の一社であるユニクロを展開するファーストリテイリングで、柳井会長がテレビ東京WBSのインタビューに、記者会見で発表した今年2月の中間連結決算の大幅減益の理由に答えていた。純利益が1年前と比べ55.1%減り、470億円と大幅に落ち込み、その純利益の減少は、中間期としては5年ぶりとのこと。柳井会長は、円安や原材料価格の高騰を背景に秋冬商品の通常価格を高く設定したことが業績の不振につながったとし、今後は、通常価格を低く抑える方針を明らかにした。少し短絡的に言うならば、高めの価格設定が顧客支持を得なかったということである。そして、インタビューの最後にユニクロも大企業病にかかっているとも付け加えていた。』

こうしたユニクロの現状に対し、しまむらやディスカウントショップが好調であることは言うまでもないことである。
デフレの御三家といえば残るは日本マクドナルドであるが、周知のように今年に入り「既存店売り上げの復活」となっている。これについても他のブログにも書いたが、赤字続きのマクドナルドにおける赤字店舗の閉鎖による効果によってである。上場時から2015年度までに900店舗以上もの店舗閉鎖によるもので、そしてメニューについても定番であるビッグマックのデラックス版は200円バーガーの導入といった原点回帰としてのデフレ型メニューの導入も功を奏しているということである。
このようにデフレの御三家に見られるように、何によって顧客支持を得てきたのか、原点に立ち返ったということだ。

また、同じような意味における消費傾向の一つが西横綱の「マイナス金利特需」である。この背景を単純化するとすれば金利が安くなることによる住宅ローンなどの借り換え需要で、より「安い」金利への移動である。格安スマホと同様、より「お得な」商品やサービスへと向かっている、まさにこれもデフレを象徴するヒット商品である。
少し余談になるが、このマイナス金利を含めた日銀の金融政策についてであるが、数日前日経新聞によれば最大手銀行である三菱東京UFJが国債の入札における特別資格の返上に向かったと報じた。少し短絡的になるが、メガバンクが国債の引き受け手(買い手)から、売り手に回ったということである。周知のように日銀は超金融緩和策として自ら国債の買い手に回り、市場へとお金をジャブジャブにしてきた。そして、国債の保有残高の多くは日銀となり、すでに30%を優に超えている。このまま新規国債を発行し続けるとすれば、2020年頃には日銀による国債保有は50%近くになり、国債の流動性が失われ、硬直化し、今まで低下する一方だった金利が上昇に転じ、国債を保有する金融機関に含み損が生じるおそれが生まれる。結果どうなるか、中小の金融機関は破綻し、さらに日銀がコントロールできないインフレが起きると指摘する専門家もいる。そして、国債は大量に売られる・・・・・それをまた日銀が買い支える・・・・・・・つまり「悪夢」が目の前に差し迫っていると、少数ながら指摘するエコノミストもいる。私は金融のプロではないので、そのリスクの本質は言い当てられないが、「マイナス金利」による「お得」に走ることだけを指摘するのは安易すぎる気がしてならない。三菱東京UFJの資格返上は、今すぐということではないが、国債の金利上昇という悪夢を予測しての行動ではないか、そんな感がしてならない。

ところで東大関の「バスタ新宿」であるが新宿西口にあった地方とのバス路線の発着場所を新宿駅南口に新たなターミナルビルに集約したもので、利用者にとってはわかりやすく使いやすくなったものである。また、西大関の「伊勢志摩・広島」は、周知のサミット&オバマ大統領の広島訪問である。ともに一定の話題にはなったが、大関といったヒット商品とは言いがたいものである。
同じように関脇の「民泊」も AI(人工知能)も、さらには小結の「北の新幹線」、  「京都鉄道博物館」も番付に入るようなヒット商品ではない。特に、「北の新幹線」新青森-新函館北斗間開業の結果であるが、予約率は開業3日間の平均乗車率は43%と低調。GWの予約率は29%とこれまた低調となっている。北海道新幹線の課題については開業前から運行本数や停車駅の少なさ、あるいは東京乗り入れが飽和状態、といった多様な課題があり、JR北海道の2016年度の経営計画の発表のように111億円の収入に対して支出は160億円、差し引き49億円程度の赤字になると試算している。もちろん、収益改善に対し頑張って欲しいとは思うが、小結にランクするようなヒットではない。同じ鉄道事業の一つであるJR西日本による「京都鉄道博物館」も注目されたオープンではあるが、小結とはこれまた言いがたい。150~200万とも言われる鉄道フアンによるもので、そのコアとなっているのが「鉄ちゃん」と言われるオタクである。このオタクはより専門的な「好き」に分化し、今やファミリーへと広がりを見せ、こうした背景からである。つまり、2016年上期にはヒット商品はほとんど無く、原点回帰としてのデフレ潮流の商品やサービスのみがヒットしたということである。

以前何回か「街場」のヒット商品として、足元にあるヒット商品や人気店を取り上げてきた。その多くは「お得な価格」と「慣れ親しんだ世界、その中での「固有」といった日常における小さなヒット商品である。例えば、5年ほど前には高機能炊飯器が売れ、2年ほど前には無水鍋がヒットした。その延長線上には、今2万円ほどのトースターに注目が集まっている。外はカリッ、中はモチッといった食感を味わうトースターである。
マスコミ的には話題を終えているが、銀座の本格パン専門店「セントル ザ・ベーカリー」は今なお行列が絶えない。街場のパン専門店で言えば、焼きたてにこだわる千葉のピーターパンやツオップなども客足が途絶えることはない。身近な日常の中に小さなヒット商品が沢山生まれている。
そして、チェーン店が衰退の兆候を見せている中で、大阪の「鯖や」という鯖すしや鯖惣菜などの製造販売を行っている会社であるが、その飲食業態「SABAR」が急成長している。青森の「八戸沖さば」にこだわった「鯖オタク」で、その調理法もさることながら輸送を含めた冷蔵・冷凍技術の成果でもある。今から、10数年前にもいかの活き造りをメインにした活魚居酒屋が流行ったことがあったが、さばの新しい魅力を引き出し、ありそうでなかった専門店として確立させたことが成長の源となっている。この「ありそうでなかったもの」という日常、足元への着眼がヒットにつながっているということだ。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:24Comments(0)新市場創造