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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2015年10月05日

地方に眠る未来への芽 

ヒット商品応援団日記No625(毎週更新) 2015.10.5.

政府は2020年ごろにはGDP600兆円を目標とすると発表した。現在のGDPは約490兆円ほどである。どうすれば可能なのか、年率3.5%の成長を図れれば達成可能であるというが、そんな単純な掛け算で目標など設定してはならない。当たり前のことだが、経済界からも疑念が出ているが、単なる心理効果、掛け声だけの「目標」など必要とはしていない。アベノミクスを発表した時は株価は上がり、その心理効果は確かにあった。今回の発表によって30数兆円ものお金を日本株を買っているにもかかわらずほとんど株価は上がってはいない。その心理効果すら全くないということだ。目標の羅列の中に女性の活躍社会を目指す意味合いを込めて出生率の目標を1.8%としている。現状は1.2%程度でありほぼ横ばい状況にある。待機児童という喫緊の問題すら解決できず、絵空事の目標としか思えない。

そして、円安誘導経済にもかかわらず、相変わらず輸出は低調である。勿論、中国における株バブルが崩壊したことや欧州経済の低迷という要因もあるが、なんども言うが日本経済の構造は既に変わっているのだ。円安を喜んでいるのは日本と韓国ぐらいであると、皮肉まじりに言う専門家がいるが、その通りである。
政府がアベノミクスの第二ステージに入ったと「経済」に注力し始めているが、既に中国のGDPは日本のそれの2.2倍以上になり、あと数年でドイツは日本を追いこすであろうと言われている。ドイツの人口はわずか8000万人程度である。こうした背景から600兆円という目標数値が出てきたのであろう。しかし、これほどの大きな目標を設定することは産業構造を変えることなくしてはなし得ない。

ところで少し前のブログで当面のビジネスは訪日外国人市場とシニア市場と書いたが、流通を含めた非製造業が好調でその背景には訪日外国人、特に中国観光客によるところが大きいと。その後のデータは如実にその実態を明らかにしている。ちなみに8月の百貨店売り上げは前年同月比2.7%(5か月連続プラス)、特に都市部において高く東京6.1%、大阪5.3%、京都5.9%となっている。更にその内容、好調な商品を見ていくと、化粧品21.2%、美術・宝飾・貴金属22.8%と際立って高くなっている。これも中国人観光客やシニア市場に依るところが大きいことがわかる。

先日どのテレビ局のニュースか忘れてしまったが、新宿新大久保コリアンタウンに、中国人観光客が押し寄せ変わりはじめたと。先日発売した拙著「未来の消滅都市論」の”エスニックタウンTOKYO”にも書いたが、新大久保=コリアンタウンという街は消滅へと向かい、逆に池袋北口のチャイナタウンに人が集まり始めていると対比させながら指摘をした。冬ソナブームは完全に終わり、ブームと共に急成長した韓国料理店は焼肉店など転業するところが増えてきている。東京という街は特にそうであるが、時代の変化をいち早く映し出し、結果としての数字が明確に出てくる。既に数年前には、在日コリアンを在日中国人が超えたことを考えれば至極当然のことではあるのだが。

さてそれではどうしたら良いのかであるが、このブログでは消費現場、顧客接点での着眼については書き留めてきた。今回のブログではある意味中長期的な展望を含めての指針を書いてみたい。産業構造の転換が迫られていると書いてきたが、その転換すべき産業についてである。地方産業の活性、それは中小企業の活性であり、大きくは地方の創生につながる着眼・構想である。
既にその芽は至る所に出てきている。例えば地方企業にあってヒット商品となった無加水料理の鋳物ホーロー鍋の「VERMICULAR(バーミキュラ)」なんかはそんな転換の良き事例であろう。その企業は愛知ドビーという会社であるが、元々は織物を主要な業務としていたが、衰退する繊維産業から、自社の精密技術を鋳物技術に生かした商品化である。最近は分からないが、3万円近くもする少々高い鍋であるが、数ヶ月待たないと手に入らないヒット商品を産み出している。

あるいは新潟燕三条にもそうした転換企業がある。周知のように大手企業の下請けとして、プレス・鍛造・機械加工等による部品加工が中心産業であった。しかし、今や最終製品の製造・出荷まで対応できる優秀な企業が多数輩出している。そうした企業の1社であるスノーピークスは元をたどれば金物問屋だった。地元燕三条の金属加工技術を取り入れ、他社から「オーバースペック」とまで評されるほどの高いクォリティを提供し、キャンパー憧れのアウトドア製品のメーカーとして転換した企業である。
さらに言うならば、国産デニム発祥の地とされる倉敷市児島の企業がタッグを組んで、ジーンズを中心とする新たな衣料ブランドづくりに乗り出している。売れ筋の「出陣モデル」はおよそ23,000円。ジーンズとしては高価だが、30~40代の男性を中心に人気を博している。OEM生産(他社ブランドの生産)で培った技術やデザイン力をテコに、自社ブランドを立ち上げるメーカーも現れている。現在は30社以上のジーンズメーカー、200社以上の関連業者を擁し、国産ジーンズの4割を生産するまでに発展している。

ここでは地方企業3社ほど取り上げたが、共通することは自社の持つ技術資源、地域が持つ多様な資源を背景にして経営の転換を果たしていることにある。地方であること、中小企業であること、つまり「変わる」という視点に立てば、可能な場所・単位としてあるということである。変わるとは「普通」とは全く異なる世界を目指すことである。商品づくりという視点であれば、単なるこだわりを超えて、さらに超えて、どこまでもとことん突き詰めたモノづくりである。最早、こだわりという概念を超えた商品となっている。そして、重要なことはそうした商品の良さを理解・共感する顧客、市場が間違いなく存在し、少々高くても購入したいとする新たな市場の創造に成功している。

世界を見渡せば、実はこうした独自な産業で発展している国がある。地方には特徴ある産業が育ち、世界へと輸出するまで成長している都市国家である。ここまで言えば、そうだなと理解してもらえるかと思う。つまり、国と関係なく地方が自ら産業を生み出しているイタリアである。周知のようにイタリアは、20の州に分かれ1500の都市がこのモデルで成り立っており、社員わずか15名以下の会社が一つの街に集まり、デザインと価格決定力で世界と戦っている。
例えば、フィアットなどイタリア経済を支えるトリノの自動車産業をはじめ、国際的ファッションの中心地ミラノ、グッチなど上質な革製品を生むフィレンツェ、東西交易路ベネチアのガラス産業、観光の中心ローマ、豊かな農産品に支えられたイタリアの「食」の中心ナポリ、・・・・・・地方創生の一つのモデルとしてイタリアの在り方は十分参考になる筈である。

日本の地方には独自な技術が根付き、あるいは固有な産物を生む土壌がある。この転換を促すための行政支援は必要ではあるが、あくまでも主体は企業自身である。そして、こうした新しい産業起こし、テーマを持った産業によってのみ地方の創生は可能となる。地方創生を国として進めていくのであれば、こうした地方、実は江戸時代以降の300と言われる藩には今なお残る資産が眠っており、その再発見と再創造こそが転換につながる。そうした「芽」は城下町である地方都市に色濃く残っている筈である。その芽こそが地方の未来を創っていく。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:28Comments(0)新市場創造