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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2014年08月31日

売り切る力

ヒット商品応援団日記No591(毎週更新) 2014.8.31. 

ここ数ヶ月未来塾のテーマを学習することもあって、首都圏の街や商店街を見て回ってきた。勿論、消費増税の影響がどのようなところに表れ、あるいはその壁を超えるためにどんな売り方をしているか、小売り現場を見ることであった。4月ー6月のGDPや家計支出を見ながら、大きな買い物である住宅や自動車、あるいは家電製品の売れ行きを見てきた。その結果、「暑い夏に寒い消費」というタイトルでブログを書いて、まだ2週間しか経たないが、景気が好転する情報は全く無い。逆に、7月度の家計支出が総務省から発表され前年同月比マイナス5.9%と更に悪化し、物価の上昇と相まって更に消費を萎縮させ、いや寒い消費どころか氷河期に向かいかねない状況にある。何度となく新聞紙上に載っているが一応家計支出の2014年度月別推移は以下となっている。
1月+1.1%  2月-2.5%  3月+7.2%  4月-4.6%  5月-8.0%  6月-3.0%  7月-5.9%

ところで1997年の5%増税後はどうであったか、金融危機関連の事象は脇に置くとすれば、増税後の消費の回復は早かったものの、翌年の1998年度には急激に倒産件数が増え年間18988件にまで及んだ。地方企業で、中小企業を中心に、建設・流通といった業種が中心であった。多くの企業、特に大手流通企業の多くはその轍を踏まないように、売り上げが落ちても継続していけるように商品のPB化や自前のMDといった利益性の高い体質へと向かい準備をしてきた。
そして、消費増税後の予測として、百貨店の多くは7月以降はプラスへの転換がはかれるとその意気込みを語っていた。ところが7月はマイナス2.5%であった。そのなかで唯一高島屋だけがこのマイナスはこれからも続くと発表したが、表向きのアナウンスとは別に大手流通企業のほとんどはこうした2~3%のマイナス成長を前提として経営していくものと考えられる。
肌感覚で分かる景気の指標の一つが食品の売れ行き動向であるが、天候不順による野菜類の高騰もあって、ヨーカドー、イオン、西友、地域中堅スーパーはかなりの勢いで直接値引きによるプロモーションを始めている。良く言われることであるが、生鮮三品の売り上げが落ちた時、本格的な不況に入る。

さて大手ではない地方企業、輸出といった円安の恩恵を受けない企業、2~3%のマイナスをこれからも続けられる体力のない企業はどうすべきかである。未来塾のテーマとして町の商店街である江東区の「砂町銀座商店街」、品川区の「戸越銀座商店街」、そして横浜の「洪福寺松原商店街」をスタディしてきた。戸越銀座商店街はいわゆるどこにでもある一般的平均的な商店街で反面教師として取り上げその問題点を指摘してきた。問題点を指摘しても「次」に向かい結果を出すにはなかなか難しい。周りを大型商業施設に囲まれ、価格競争下にあって、更に立地も決して良くないが顧客を引きつける「砂町銀座商店街」と「洪福寺松原商店街」には共通したものがある。それは一言で言うならば、「売り切る力」を発揮している、ある意味商店の原点そのものに根ざした商売を続けているということにつきる。

砂町銀座商店街や洪福寺松原商店街で感じたことの一つがどの店も「売り切る」ための「わけあり」といったアイディアや工夫、精一杯の顧客サービス努力をしていることであった。そして、「売り切る力」はあの仙台にある「主婦の店さいち」を思い起こさせ、次のように書いた。

『「全てをその日で売り切る」、つまりロス率は0(ゼロ)となる。顧客もそうしたことを分かって何十年もつきあってきた。つまり、「安さ」はこうした商売の結果であることを売る側も買う側も良く理解しているということである。「売り切る力」こそが「安さ」の源であるということだ。「安さ」の理由を大量仕入れによるものであると「訳あり商品」をアピールする流通や専門店が多いなか、小さな商圏=仕入れ量も限られる砂町銀座のような中小零細商店にとっては「売り切ること」が経営を維持し持続させていく唯一の方法となっている。』

「ハマのアメ横」と呼ばれる洪福寺松原商店街でも同じであった。確かに商店街全体として「安い」商品ばかりである。しかし、その安さは単に大量仕入れ大量販売によって作られたものではない。顧客と相対し、コミュニケーションをはかりながら販売する。そして、売り切ることによって「安さ」も生まれ、経営も継続することが可能となる。そして、次のようにも書いた。

『町の商店街は必要なのかと流通専門家の間においてもそのように議論されている。スマホに「○○したいのだが」、あるいは「○○を買いたいのだが」と検索すれば、マップ上にいくつかの選択肢が即座に提供される。そんな便利な時代にあって、そうしたスマホ程度の便利さであれば町の商店街はいらない。もし、商店街が存在する理由、顧客に”あって欲しい”と望まれるには、そうした情報では得られない「相対」ならではのリアルな情報となる。こうした相互のコミュニケーションを無くした商店街は、勿論消滅し、シャッター通りとなる。』

今、まさにそうした時を迎えつつある。ここ半年で「名物商品」を作ることができるか、顧客の人気を集める「看板娘」を誕生させることができるか。新たな仕入れ先から顧客が喜ぶであろう「わけあり商品」を店頭に並べることが可能であろうか。いずれもNoである。出来ることは商売をスタートさせた時、創業の時どんな売り方をしてきたかを思い起こすことだ。お金も、経験も、勿論顧客も何も無いなか、あるのは夢と情熱だけで、とにかく売り切ることだけであった筈である。そして、「今」がある。つまり、再創業の時を迎えているということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 12:44Comments(0)新市場創造