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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2014年03月02日

消費増税へのマーケティング

ヒット商品応援団日記No572(毎週更新)   2014.3.2.

新消費税導入まで1ヶ月を切り、ほぼ新価格設定が決まったようである。少し前に日本コカコーラの自販機における商品戦略について競争の激しいミネラルウオーターについては価格を据え置き(実質上値下げ)とし、他のコーヒー飲料などの商品については10円値上げをし、全体として3%の消費税アップ分を吸収調整する戦略であるとブログにも書いた。そして、他社はプライスリーダーである日本コカコーラの方式に準じるであろうとも。それ自体の指摘は間違ってはいなかったが、別な視点から導入後の消費変化の「何」が見えてくるか、今一度考えてみたい。

別な視点の一つは自販機市場という小さな市場としてではなく、少し広い飲料の流通市場での視点。そこにはコンビニもあればスーパーもある。最近では業態転換したかの如きドラックストアもある。1989年の消費税3%導入時、ある駅のキヨスクの飲料売り上げがめっきり減り相談を受けたことがあった。調べた結果、少し離れたところのコンビニに顧客が流れていったことによるもので、その理由はキヨスクは対面販売のため10円の値上げとなり、一方コンビには3円でその差7円によるもので、他の店へと消費移動するには十分な価格差であった。今回の自販機における10円の値上げは消費者はどんな答えを出すかである。

ところでこうした日常利用業態にあって、コンビニには昨年のヒット商品である煎れたてコーヒーがあり、スーパーには安いPB商品である飲料もあり、ドラッグストアも負けじと安売りをしている。つまり、多様な選択肢のなかでの値上げである。以前、嫌な言葉だが「消費増税は本物しか生き残らせない」とブログに書いたが、更に言うならば「消費増税は本当に好きなものしか生き残らせない」、そんな市場構造へと間違いなく向かっていく。つまり、対処テクニックでは超えられない、過去の好き度、必要度が端的に表れるということである。

数年前、価格に敏感なのは若い世代、under30であるとその消費について書いたことがあった。草食系男女と揶揄された世代であるが、車離れ、結婚離れ、社会離れ、政治離れ、・・・・多くの「離れ現象」に「私」が表れているところが世代特徴である。under30と名付けたのは日経新聞であったが、その世代特徴の一つとして物欲は乏しく、貯蓄に励み消費市場にはあまり登場することのない世代であると。
今回の消費増税ではどんな消費行動を見せるかであるが、リーマンショック後、「お弁当族」というキーワードで新しい節約生活が一つのライフスタイルとして注目されたことがあった。東急ハンズやロフトの弁当売り場が拡充され、特に男子弁当族が出現した頃の話である。つまり、こうしたセルフスタイルが更に進んでいくことは間違いない。単純化して言うならば、自宅でお茶を入れ持参するということである。この傾向は低価格居酒屋におけるセルフスタイルや食べ放題のブッフェスタイルと同じで、一種の合理的価値観によるものである。結論から言えば、本当に好きな商品については買うが、そうでない場合はセルフ化が広がるということである。自販機という流通から言えば、10円値上げ商品であれば一定の顧客の間では「自販機離れ」が起こるということだ。

もう一つの視点として、1円単位で明確な価格が表示・請求・支払いができるICカードなどのカード利用が増えるということである。例えば、プリペイドカードのSuicaやPASMOといった日常利用、しかも頻度多く利用することから、それは単なる便利さを超えて、「正確な価格」であることが大きな顧客安心を生む。しかも、脱法的価格表示などが出てくることが予測されるなかでの安心である。そして、新消費税導入は、総額表示と本体価格併記表示の2種類となり、混乱が生まれる。こうした混乱を払拭するには「正確な価格」、「1円単位の価格」の確認が必要となる。そうした意味合いからICカード利用が増えることは間違いない。
また、IC(Edy)機能付きのクレジットカードなどその利用の広がりは大きい。こうした決済方法と共に、その多くのカードにはお得なポイントシステムがついており、ポイントプロモーションが更に盛んになる。新しい「お得」のシステムとしてである。こうしたカード顧客の囲い込みに死にものぐるいになっているのが例えば楽天である。Yahooによるネット商店街への無料出店という競争もあるが、なんといってもガリバーamazonへの追撃であるが、消費増税を一つの機会とする顧客戦略である。

ところで、マクドナルドの高価格志向商品として「1000円バーガー」は大失敗に終わったが、対照的なのが吉野家で昨年12月に出した新メニュー「牛すき鍋膳」(並580円)がヒットしている。2ヶ月で700万食販売し、12月売り上げ(既存店)は前年比16%増、1月14%増と好調を継続させている。この理由の第一は丼ではなく、鍋という新しいスタイルにある。東京チカラめしが焼き牛丼という「ありそうで無かったメニュー」でヒットしたのと同じである。しかし、鍋はやはり季節商品であることと、競合も同様のメニューを出してくることは間違いないが、あのマクドナルドの「1000円バーガー」と比較すれば、マクドナルドの場合は単なる高級ハンバーガーであって新しいスタイルにはなっていない。つまりマクドナルドにとって顧客を引きつける「新しさ」は無かったということで、顧客は単なる高級志向に向かっていることなど全く無かったことが分かる。新しいスタイルで、しかも少し高いが試してみたい、そんなバランスのとれた新しいメニューが求められているということだ。結果、吉野家の場合、牛丼と比べ高価格になっても顧客支持を得ることができたということである。

4月以降その多くは値上げするが、牛丼のすき家のように値下げするチェーン店もある。どの場合も、総じて「様子見」である。先日鳥取の友人と消費税について話す機会があったが、昨年秋から始まった駈け込み需要の激しさについては全くその実感は無いとのことであった。しかし、首都圏市場においてはどの店もそうした需要狙いの売り出しをかけているが、前回のブログにも書いたように顧客へ届ける物流が間に合わない状況となっている。ちなみに、1月度の百貨店協会の売り上げに関する発表によれば、3ヶ月連続のプラスで、全国平均の前年比は2.9%増、10都市では4.2%増、東京はなんと24.7%増であった。いかに東京の駈け込み需要が激しいかを物語る一つの指標である。
こうした駈け込み需要の激しさは自己防衛策としてであり、小売りや専門店といった顧客接点をもつ企業経営者やマーケッターは「様子見」の価格設定にならざるを得ない状況にある。4月以降、どの程度の売り上げ減となるか、そしていつ頃から回復傾向を見せるか、それとも前回と同様長く低迷し続けるか、更にはポイントプロモーションを含め効果ある販促策の見極め、そうした課題が明確になるまでの様子見である。つまり、消費変化を見定め、夏には新たなマーケティング&マーチャンダイジングするということである。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:16Comments(0)新市場創造