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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2013年08月29日

消費増税心理の今

ヒット商品応援団日記No560(毎週更新)   2013.8.29.

新消費税導入に向け実施時期を含めた議論を含め根本である「何の」ための増税なのか等、ここにきて再燃している。その最大眼目は「消費増税によって消費は落ち込み景気は悪くなるのではないか」ということに尽きる。つまり、消費者への負担と共に予定される税収が得られ、本当に若い世代へのつけにならないかということへの議論の再燃である。法案が国会を通過したほぼ1年前に消費増税実施はどんな消費変化を生むかブログに書き始めた。その消費変化は最も出やすく、しかも分かりやすい事例として人生最大の買物である「住宅取得」にまずその変化が出てくるであろうと予測した。これはエコノミストどころか、消費する生活者であれば全て分かる話である。そして、消費増税への最後の判断材料である4-6月のGDP2.6%成長には特別補正予算効果や円安による物価上昇と共に、先食い「駆け込み需要」が含まれていることを内閣官房参与である本田静岡県立大教授も認める発言をしている。
つまり、低金利ということもあり、住宅取得世代は昨年末から一斉に物件探しへと向かい、東京湾岸エリアのタワーマンション群が注目されているとブログにも書いた。更にこの先食い需要顧客を獲得すると共に、住宅ローンの借り換えを促進する為に銀行各社は一斉に低ローン金利競争へと向かっている。政府はこうした駆け込み需要を抑え、増税後の住宅取得に減税を含めた支援策を用意しているとアナウンスしているが、消費者は「先」の話ではなく「今」を選択しているということだ。これが情報の時代の消費の持つリアルさであり、消費の今を映し出している。

そのことを表すような世論調査が日経新聞によって報じられている。8月23日〜25日に行なわれた調査であるが、その調査結果について両極端の読み取り方がネット上でも話題となっている。その調査結果であるが、
・消費税率は予定通り引き上げるべきだ 17%
・引き上げるべきだが、時期や引き上げ幅は柔軟に考えるべきだ 55%
・引き上げるべきでない 24%
この「引き上げるべきだが、時期や引き上げ幅は柔軟に考えるべきだ」という答えの読み取り方についてで、容認とするのか、反対とするのか、どちらかによってその答えは正反対となる。その読み取り方は多分に政治的な読み取り方となってしまうが、私は素直に消費者心理の微妙さを見事に表していると判断する。これは理屈としての消費増税への「考え」であり、消費現場という現実に向かい合った時には、住宅の駆け込み需要を見ても分かるように、その重税感によって大きく消費行動は変わっていくと推測される。
更に、エジプトの騒乱が続くなかシリアへの米英仏の軍事介入が現実味を帯びてきたと報道されている。既に、日本経済への影響として円高、株安となって表れている。そして、エネルギー価格の高騰により物価が上がり、生活への圧迫が強まり、より重税感が増す方向へと向かっている。

さて、その「消費増税によって景気は悪くなるか」であるが、エコノミストの予測を待つまでもなく、程度の差はあるものの「悪くなる」が答えである。将来的には消費増税が必要であると理屈では考える消費者ではあるが、住宅への駆け込み需要を見ても分かるように金利の安い「今」を選択しているように、増税への消費心理は既に始まっていると認識しなければならない。
そのための対策はブログにも書いたようにマクドナルドのような値上げといった先行事例も含め、各企業は増税対策を行ないつつある。日MJ((8/21号)は百貨店の対応策について取材結果を報じている。その主要な内容として、増税後には売上が下がると予測し、リスクはあるものの自前のMDとしてSPA(製造小売業)によって利益確保を目指すと。これはスーパー各社が利益体質を目指したPB(プライベートブランド)の拡充を行なうのと同様である。そして、落ちる客数をなんとか下げ止めるべく行なうのが「デパ地下(食品)のリニューアル」である。それでも売上が落ちると予測しており、高島屋の場合は3%減を想定した経営を行なうとしている。

ところで、今から5年ほど前になるが、価格帯市場というテーマで、まさにデフレ時代を象徴するファミレスについて書いたことがあった。それは業界トップのすかいら〜く業態の最後の1店がクローズしたというニュースに触れてであった。というのも、すかいら〜くを始めとした飲食業界では「価格帯業態」について明確な考え方をとっており、その業態が崩れ去ったからであった。すかいら〜く業態は顧客単価1000円であったが、経営が立ち行かず業態転換したガスト業態は顧客単価750円。ちなみに当時は500円業態はテイクアウト業態(お弁当+お茶)、ファストフーズ、コンビニ、スーパー、町の総菜店など大激戦市場となっていた。すかいら〜くの閉店は1000円から750円へと顧客要望が変わったその象徴であった。
そのすかいらーくを含めデニーズ、ロイヤルホストは不採算店をそれぞれ500店、200店、100店ほどの店をクローズし、昨年から業績が回復してきている。この復調はリストラ効果によるところが大であるが、注目すべきは7月に入り高価格メニューを導入し始めたことにある。デニーズ史上初めて2380円の「アンガスサーロインステーキ ラザニア添え」を発売し、ロイヤルホストも史上最高価格である2604円の「熟成ロイヤルアンガスリブロースステーキ」を発売した。結果、客単価を1000円台へと戻すことへとつながったという。つまり、新しい市場、少々高くてもそれなりのステーキを食べたいという市場を産み出したということである。
大手3社で800店以上の店をクローズしたことになり、ファミレスの過剰さが解消したと言えば、それで話は終わってしまうが、この高額メニュー路線もマクドナルドの1000円バーガーと同様で、円安=原材料高といった背景を踏まえた消費増税対策としての意味合いも含まれていると思う。簡単に言ってしまうと、市場(客数)は縮小するが、客単価を上げて利益を確保して経営の継続をはかるということである。これも経営戦略の一つではある。(但し、こうした戦略とは正反対にあるユニクロのgu、あるいは進化し続ける100円ショップや外国人観光客を取り込んだドンキ・ホーテなど増税に対する戦略についても以降取り上げていくつもりである。)

このように百貨店も、スーパーも、飲食業も、顧客接点をもつ業種・業態は、消費増税後は等しく客数減、売上減を見据えた経営方針を採り始めている。つまり、消費は落ち込み、それでも経営を維持させていかなければならない、サバイバル時代に入ったということだ。そして、この夏までの消費傾向を見ていくと、以前にもブログに書いたことがあるが、都市部、特に東京においては消費は旺盛、あるが、地方との格差が更に開くことが予測されると。

『エリア間の競争は更に激しくなる。モノ集積、情報集積、人の集積、金融の集積、それら集積力が都市部の魅力として人を引きつける。その魅力とは常に変化という刺激を与えてくれることに他ならない。新しい、面白い、珍しい「何か」と出会えるのが都市であり、商業はそうした「未知」を提供する競争の時代となっている。』

地方がもつ「未知」、逆にいうならば都市が失ってしまった「何か」をいかに発掘・再現し、それらを都市部へと売っていくかである。残念ながら過去の延長線上にあっては、増税分を商品やサービスへと価格転嫁することはできない。住宅における駆け込み需要を見ても分かるように、「少しでも安く」という長く続いたデフレ体質の消費者が圧倒的に多いのが現実である。都市部においては高額メニューマーケットは一定の規模として存在するが、地方には極めて小さな規模でしかない。そして、今年度は補正予算による追加の公共工事もあり、なんとかなっているが、来年度は極めて少なくなる。つまり、消費増税後特別な施策・計画を持たない限り、地方経済においてはシャッター通り商店街どころか、商店街そのものが無くなっていく。買物弱者どころかコミュニティそのものの崩壊である。(続く)   
タグ :消費増税


Posted by ヒット商品応援団 at 10:12Comments(0)新市場創造