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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2013年08月12日

消費増税時の価格表示とお得感

ヒット商品応援団日記No559(毎週更新)   2013.8.12.

早い梅雨明けと共に猛暑が襲った東京であったが、忙しく動き回ったこともあり先月末にはとうとう熱中症気味となりダウンしてしまった。ブログを書き始め8年目を迎え、消費増税対応という重要な時期に至っており、なんとかブログを更新したいと思っていたが1か月もかかってしまった。。
その消費増税であるが、来年4月に予定されている消費増税について先送りや税率の段階的実施など慎重論が出ている。参院選前までは政治上のリップサービスによるものと今までは理解してきたが、最後の実施に向けて多様な意見が交錯している。そこには1%づつ段階的に消費税を上げていくといったとんでもない意見まで政府内にあるようだが、そんなことをしたらシステム変更をはじめとした多大な費用と時間がかかるだけでなく、現場での混乱、メーカーも、流通も、勿論消費者も大混乱に陥るのは必至でまるで分かっていない議論まで出ている。

収入が増えない限り好況感などあり得ないのは当然であるが、消費増税は景気を更に悪くするのではないかという大きな心理的課題をどのように越えるのか、そんな時期に至っている。前政権が3党合意のもとで「社会保障と税の一体改革」の名の下で、消費税を上げることでそれまでの政府借金1000兆円超を次代につけ回さないことのないようにと、消費税を8%、10%にすればあたかも明るい社会保障という安心イメージをもって提案してきた。しかし、先日の国民会議の報告書の内容はそれとはまるで異なる負担増が大半を占めるものであった。
やっと本来のテーマである社会保障が論議されてはいるが、4−6月のGDPがプラス2.6%(年率換算)という予測よりは低かったものの上向いた数値でもあり、政府は着々と増税実施へと進めてきてると解釈できる。そうしたことの表れであろうか、スーパーマーケットの業界団体である日本チェーンストア協会が消費増税による価格表示について統一したものとして実施する旨記者発表があった。顧客接点を引き受ける小売り業にとって「価格表示」は最大のビジネス生命線であり混乱を起こさないための統一表示である。

周知のように、政府は「総額表示」だけでなく 「税抜表示」も可能にするとした2通りの表示方法をもって実施するという。但し、2017年3月までの特例であるが、税抜表示と総額表示の併存は間違いなく消費者を混乱させることになり、そうした混乱を避けるため日本チェーンストア協会が統一した表示で実施する記者発表であったと思う。
今まで、いわゆる総額表示に慣れてきたものを何故外税方式を認めるのか、政府の説明では、8%、10%と2度の消費税率変更で事業者の値札の張り替えなどの手間をはぶくためであると。そして、日本チェーンストア協会は「税抜表示」(外税方式)で統一したいという方針を加盟各社に伝えたと報道されている。

ところで3月には「消費税還元」といったセール表現は禁止とするといった議論もあったが、政府としてはとにかく「価格転嫁をスムーズ」に行ないたいということであろうが、過度な価格競争は誰も望んではいないが、価格の設定とその表示は自由競争経済の大前提である。そして、小売り業は小さなお得業として値づけをする。その値付けは如何にお得であるかを表現するのだが、消費者は店頭での総額表示を見てお得感を持って購入の判断をする。通常のスーパーの場合はレシートを見れば分かるが、単品ごと総額表示され、合計され、更に「内消費税××円」と表示されるのが普通である。

さて、消費者は増税後「価格」にどう向き合うのであろうか。小売業のみならず全てのビジネスマン、企業であれば課題とすべき最大テーマとなっている。週刊東洋経済(7月20日号)は増税に際する価格表示について消費者調査を行なっている。当然であるが58.3%が総額表示とすべきと答えている。ちなみに税込みと税抜きの併記が32.2%、税抜き、といった表示はわずか5.8%である。今までの総額表示の延長線上に価格判断をしたいというのが消費者の意見である。もし、税抜きという外税方式で実施するとなると間違いなく混乱する。この外税方式の方が安く感じられるからなどと採用理由をコメントする企業もあるが、顧客が見るのは「総額」に対する判断であり、そのお得感である。もっとシビアに言うならば、5%から8%への増税分をどう努力しているかを「総額」で評価・判断するということだ。
こうした消費者意識を踏まえ、あの日本マクドナルドは値上げと消費増税のダブル負担は顧客を更に離れさせてしまうと仮説しテストを踏まえ値上げに踏み切った。同時に、単なる値上げにとどまらず、次のマックのメニュー構成のシンボルとして高額「1000円バーガー」を発売した。価格帯の軸を全体として上げ、デフレの旗手からの転換をはかろうという戦略である。こうした戦略も、どこまでうまくいくか見ていきたいと思うが、これも消費増税を一つの契機として脱皮していこうという試みの一つである。

ところで、多くの流通においてポイント制が導入されている。貯めたポイントを還元する仕組みであるが、会員だけの優先的なお得提供を行なうところも当然出てくるであろう。既に、エブリデーロープライスをポリシーとしローコスト経営を続けているOKストアでは食品の単品ごとの価格設定として1989年導入された当初消費税3%を割り引く仕組みが導入されている。割り引かれた商品(本体価格)の合計に現行の5%の消費税をのせて請求するという方式である。1998年の消費税5%導入時、ヨーカドーやイオンが消費税分還元セールというプロモーションを実施し顧客の圧倒的な支持を得たヒット商品となった。OKストアの場合は1989年から会員限定の仕組みとして消費税分割引を行うという手法を実践してきたわけである。その名のごとく毎日がバーゲン、毎日割り引くというポリシーを会員制の仕組みとして実施しているということだ。総額表示の安さで競争している多くのスーパーに対し、何故OKストアがこうした手法で消費者に理解浸透し成長を果たしているか、増税への対応のヒントが隠されていると思う。

「わけあり」というキーワードは十数年前からたらこの「切れ小」のTV通販で使われてきたが、単なる表現としてのそれではなく、システムとして実施してきたのがOKストアである。その「わけあり」であるが、安く仕入れ、安く販売するという「わけ・理由」をオネスト(正直)カードとして店頭表示し続けてきた。かなり前になるが、世界最大の小売業ウオルマートを見に行かなくてもOKストアを見に行けばその内容が日本においても具現化されているとし、リーマンショック以前であったが、こうした販売システムに着目し次のようにブログ(2008年5月4日)に書いたことがあった。

『例えば、「日照時間が少ないため少し糖度が低い」といった従来では表現しなかった情報を店頭POPで明確に表示している。安い訳を全て公開しているということだ。この情報公開の裏側には、いわゆるサービスコンセプトとしてオネスト(正直)を掲げている。良いことも、悪いことも正直に伝え、顧客に判断してもらおうということだ。エブリデーロープライスという顧客への約束をシステムとして実行し始めたのは2000年以降のようであるが、それは特売というセール設定を無くすことでもある。このことによって、特売の折り込みチラシといった経費を無くすこととなり、これもローコスト経営へとつながる。オーケーの経営の原点は「売上高総経費率を15%以下に抑える」というローコスト経営にある。』

こうしたオーケーストアのように会員制とういう仕組み・システムのなかに増税対応策が組み込まれているが、恐らく多くの小売業はこうしたシステム変更は極めて難しいと思う。今考えられているとすれば、「○○曜日はポイント×倍」といったポイントプロモーションのように、増税分をポイントとして増やし、実質割り引く方式が採られていくものと思う。もし外税方式が採用される場合、総額による価格設定のアイディア、例えば298円とか1980円といった価格設定のお得表現は難しくなる。つまり、ユニクロのように現行価格を据え置いた値ごろ感ある価格設定を行う以外は、ポイント付与のなかでお得競争が実施されていくであろう。
こうしたポイントシステムはSCのようなデベロッパーも、専門店も、多くのサービス業も、勿論百貨店もであるが、顧客接点をもつ多くの企業・団体で行なわれると思う。そして、重要なことはポイント提供のシステムの裏側にある顧客データ、ビッグデータを含めた情報活用がビジネス成長の鍵になる。ところで、街の商店街はどうなるのかという声が聞こえてくるが、基本は同じである。回数利用や利用金額に対するスタンプでも良いし、小さなお得競争、そのアイディア競争になる。そして、お馴染みさんであれば、「今日はこれが一番のお得」とその場で提供することだ。
何か、デフレが続くかのような前提で増税対策を考えてきたが、次回は予測される景気を踏まえた対策を更に考えてみたい。(続く)   
タグ :消費増税


Posted by ヒット商品応援団 at 17:17Comments(0)新市場創造