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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2013年05月02日

賢明なデフレ型消費

ヒット商品応援団日記No554(毎週更新)   2013.5.2.

三井アウトレットパーク木更津が1周年を迎えたが、当初目標であった320〜340億円を大きく上回る410億円強の売上となったと発表があった。その背景について、来場客の7割を都内や神奈川から、残り3割を千葉から集客するとしていたが、実際には5割近くを県内の地元客が占め、しかも地元客は来場頻度が高く、売り上げ拡大につながったと説明があった。その記者会見でTVレポーターからアベノミクス効果によるものですかとの的外れな質問があったが、さすがに担当者も苦笑していた。想定以上の売上を残せたのは、「アウトレット」という業態が日常利用業態へと広がったということである。少し短絡的表現をするならば、アウトレットというデフレの象徴である業態がより浸透し日常化したということである。結果、地元顧客の集客が多く売上増はこうした顧客によってでつくられたということだ。

ここ数回来年4月の消費増税対応としての流通再編、イオンの戦略など書いてきたが、そうした大きな変化以外にもテナント編集や売り場改装など個々の対応が既に始まっている。例えば、首都圏の中堅スーパーであるサミットストアでは惣菜部門において店内調理を進め売り場を拡充し、更には単なる一般書店を外しデフレの象徴でもあるブックオフを入れるなど、ある意味デフレは当分変わらないとした対策を講じている。更にわずか500mほどしか離れていない場所にあったクイーンズ伊勢丹が撤退し、その跡にサミットストアが入るといった想定顧客を睨んだスクラップ&ビルドが進んでいる。

また、1月から九州での値上げ実験を行なってきたマクドナルドが「100円バーガー」を始めとした大幅な価格改定を5月7日から実施するとの発表があった。結論から言うと、収益性を高めるために「100円バーガー」をはじめとした100〜200円の低価格帯商品を見直しだたけでなく、特定地域ではあるが、4月19日から290〜320円だった「ビッグマック」を330〜360円に引き上げ、ほかに270〜280円だった「てりやきマックバーガー」も290〜320円に値上げする。また、420〜490円だったハッピーセットは410〜480円に値下げ。バリューセット(460〜790円)の価格は据え置く。こうした価格改定は収益性を高める方法として、どこでも行なう一般的手法であるが、「顧客単価を上げる」ことによって目指す戦略である。

さて、マクドナルドの価格改定はかなり大幅な値上げである。昨年度既存店の売上が低迷したのも、お得感が薄れ顧客離れしたからで、その多くは牛丼専門店やコンビニへと移ったからであった。遅まきながら「朝マック」など朝食メニューにも取り組み、新たな売上づくりをトライしているが、この朝食メニューも既に数年前からファミレスや牛丼専門店が実施しており、今や駅前のラーメン店までもが「朝ラー」をメニューにしているぐらいである。私の見立ては、勿論顧客単価は上がると思うが、客数は間違いなく減ることになる。そして、その掛け算としての売上は若干落ちることになると思うが、収益は改善の方向へと向かう。但し、このまま円安が続くと輸入原材料が上がり、収益は圧迫される。いずれにせよ消費増税を踏まえた「次」を目指した価格戦略である。

ところでこの価格改定に就いてマクドナルドの原田会長が日経MJのインタビューに答えており、100円バーガーが120円になってもまだまだ安くお得感はあると断言していたが、100円バーガーの主要顧客は低年齢層の子ども達であり果たして顧客離れを食い止めることができるかどうかである。また、この課題と共に懸念されるのが、ザ・マクドナルドである「ビッグマック」の値上げである。これまで成功させてきた「ビッグマック200円プロモーション」と同様の期間限定の200円〜250円程度の価格プロモーションを行なうものと想定されるが、果たしてどう展開されるのであろうか。デフレ下にあるなか、マクドナルドの価格戦略がどのような結果となるか注視すべきであろう。

2か月程前のブログであったと思うが、円安・株高の進行によっていわゆる資産デフレは解消できるであろうと書いた。その傾向は消費面においても好調な百貨店売上に表れており、一方スーパーなどのチェーンストアは相変わらずマイナスとなっている。マクロ経済の専門家ではないが、4月26日に総務省から発表された物価指数を見る限り3月の消費者物価指数(いわゆるコアCPI)は前年同月比-0.5%でマイナス傾向が続いている。日銀による「異次元緩和」の効果は出ていないということだ。また、現在の株価上昇は海外投資家によるものであることを考えると、より利益が得られるものが他にあればすぐさま資金は移動する。国内の個人投資家が株式市場に戻って来ているようだが、現在の株価水準はちょうどリーマンショック前であり、さて各企業の決算がどのようなものとなるか、株価もそれ次第であろう。

なんでもかんでもアベノミクス効果による景気回復が進み、安売りがさも問題であるかのような論調がTV1メディアを中心に1か月以上続いている。実はデフレという現象についても、物価下落がIT技術による術革新や生産性の向上などによって物の値段が下がる、いわゆる"良い物価下落"と、需要不足により発生する"悪い物価下落"がある。この二つを明確に峻別することは難しいが、現在起きている物価水準の下落は、需要不足によるもので、いわゆる需給ギャップによるものである。どう需要を作って行くか、日銀や政府がやれることは少ない。問題の多くはバブル以降リスクをとろうとしない企業側にあり、2か月程前のブログにも書いたが、北野一氏が「デフレの真犯人」において指摘されたようにROE(株主資本利益率)重視経営という安全経営にシフトしてしまっているからである。

さてその実体経済はどうかと言えば、マスメディアが報じる景況感とはかなり異なっている。その象徴例になるかと思うが、日本自動車工業会によれば輸出を牽引してきた自動車も3月は前年同月比10.1%減となり、8か月連続で前年を下回っている。勿論、円安により輸出採算の改善がなされ良い決算を迎えたことは言うまでもないことだが、日本経済全体が浮かれるにはほど遠いということだ。
また、GWの最中であるが、どの行楽地も人でにぎわっている。これは円高であった年末年始が海外旅行に出かける人が多かったのに対し、円安によりかなりの人が国内旅行へと移動したからである。そして、どこの観光地も飲食施設には長い行列ができている。極論を言えば、交通費と飲食費プラス若干のお土産消費のみ。これも私がキョロキョロ消費と呼んだように、所得が増えない以上極めて賢明な消費行動となっている。私に言わせれば、「明るく賢明なデフレ型消費」が続いているということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 14:55Comments(0)新市場創造