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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2013年03月01日

デフレ時代の消費心理、そのメカニズム 

ヒット商品応援団日記No547(毎週更新)   2013.3.1.

日経MJ(2/27号)に注目すべき面白い記事が載っていた。面白いとはマーケッターとしてであるが、デフレ下における価格への消費心理についてである。100円バーガーに象徴されたデフレの旗手マクドナルドが苦戦しているという記事である。周知のように全国チェーン店にあっていち早く地域価格制を導入したマクドナルドが福岡をはじめとした九州地区と山口県で1月から値上げの実験を行なっている記事である。ちなみにその値上げ価格例であるが
・100円ハンバーガー→120円
・チーズバーガー120円→150円
*但し、フライドポテトやマックナゲットなどは値下げをしている。
こうした実験の紹介と共に、昨年度が9年ぶりの減収減益となり既存店の不振が続いていると報じている。また併せて不振の背景を探るために、日経MJが独自に消費者調査を行ない、その調査結果は以下となっている。

1)一年前と比べてマックはどう変わった?
・マックの価格が高くなった:31.5%
「高くなった」というマイナス評価が一番大きく、その世代別では若い世代がより高いマイナス評価となっている。(10代:33.4%、20代;47.7%、30代:43.4%)そして、結果マック利用が減った消費者が19.3%。
2)マックの代わりに行くのは?
・牛丼店等のファストフード:40.1%
・コンビニ:37.1%
3)マックでいくら支払いますか?
・300円〜500円未満:41.3%
・500円〜700円未満:26.8%
・101円〜300円未満:17.1%
4)マックに期待することは?
・低価格:63.5%
・味品質の向上:54.4%
・割引:41.0%
そして、代表的な顧客の声を紹介している。例えば、「マックの売りはやっぱ安さ。」(中学生) 「500円払っても十分お腹が満たない。これなら牛丼食べに行く。」(大学生)こうした調査結果を踏まえ、競争市場にあって、顧客は相対的に「マック高くなった」とコメントしている。

さて、こうしたデフレ下での価格設定をどうすべきか、特にマクドナルドの値上げ実験の理由の一つと思われる来年4月に予定されている消費増税への対応策も含めた課題としてある。
この調査結果からも明確に出てきているのが、「価格は相対的」なもので、しかも「ハンバーガーに代わる食」はいくらでもあるということである。その象徴として顧客の声として牛丼とコンビニが挙げられているが、周知のように大手牛丼チェーン3社は「並盛り250円」キャンペーンが常態化しており、更にメニュー変化を取り入れて牛丼、豚丼、鳥丼と多彩である。また、確か4年程前であったと思うが、ヒット商品となった300円を切るお徳弁当はコンビニへと広がり、例えばファミリーマートではチルド弁当に力を入れ、更に「今お得」というキャンペーンが常態化している。

1年以上前から東京の飲食店ではランチはワンコイン(500円)が常態化しているとブログにも書いた。更に、自前のお弁当族が増え、ロフトや東急ハンズのお弁当容器売り場がにぎわっているとも。日経MJが「マック 高くなった」とコメントしているが、消費者が高いと感じるのは至極当然であろう。
他にも多くの同様の事例がある。例えばミスタードーナツの「100円ドーナツ」キャンペーンも同様である。キャンペーン期間中は多くの集客成果が得られるが、キャンペーンが終了したとたん急激に客数が減り、勿論売上も減少する。こうした傾向は以前から見られることであるが、問題はキャンペーン終了後の売上減少幅が次第に大きくなる傾向についてである。

そして、これも4年程前から指摘してきたことであるが、こうした割引やわけあり低価格の常態化とは、あのウオルマートのポリシーである「エブリデーロープライス」(毎日がバーゲン)と同じ経営を目指しているということである。マクドナルドの戦略は「100円マック」を「120円マック」にして増税前に値上げして、来年4月には価格変更はしない、という事前策であると原田社長は日経ビジネスオンライン(3/1)で発言している。
ところで1998年4月の消費税5%導入時にはマクドナルドは「半額バーガー」キャンペーンを行ない圧倒的な顧客支持を得て、その後デフレの旗手のポジションを得ることが出来た。そして、今回の値上げ実験を成功させることが、消費増税への対応策とする戦略である。これは推測の域を出ないが、来年4月には同じように「半額」キャンペーンをするのではないかと思う。「120円マック」は「60円マック」になるということだ。

今回のマクドナルドの戦略は、消費増税前に経営の基礎となるメニュー価格(値上げ、値下げ)を再確立させ、顧客満足度を睨みながら「割引」を使って売上を確保するということにつきる。既にこの手法はザ・マクドナルドであるビッグマックの「200円」キャンペーンで驚異的な売上という成果を得ている。普通に考えると安くすることによってブランドイメージを毀損するかもしれないとして、周辺商品を対象とするのが普通である。しかし、マクドナルドの卓越した戦略性は看板商品、ザ・マクドナルドであるビッグマックを200円にするという極めてインパクトのあるキャンペーン、期間限定という手法の巧みさにある。こうした割引という手法を使うためにも「120円マック」を成功させたいということであろう。もっとあからさまに言えば、120円とすることによって、「マック 高くなった」として利用回数が一時期減っても、割引キャンペーンによって再び顧客を呼び戻せるということだ。これも消費増税をチャンスに変える顧客心理戦略である。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 17:09Comments(0)新市場創造