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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2011年04月16日

毀損されたジャパンブランド

ヒット商品応援団日記No497(毎週更新)   2011.4.16.

震災後1ヶ月が経ち、マスメディアもやっと福島原発事故がいかに大きな影響、特に世界各国への影響があるかを報じ始めた。2010年度(1月〜12月累計)の日本を訪れた外国人客は約861万人であった。先月3月の訪日客数は約35万人で、前年同期比▲50%である。放射能によって汚染された日本への渡航制限によるものであるが、前回のブログを読んでいただけたらこの数字も納得してくれると思う。国内では事実に基づかないうわさの類を風評と呼んできたが、今回の福島原発事故の評価レベルを7に引き上げたことに対し、海外メディアは1ヶ月も経ちやっと認めたとの論評が多かった。しかも、レベル7相当の判断情報は既に3月23日には分かっていたということである。海外メディアがこぞって情報公開をしない日本を非難するのは至極当然である。つまり、決定的な情報公開の遅れが不信を招いたということだ。そして、その結果が訪日外国人が前年同期比▲50%という数字に表れたということである。
「うわさの法則」にも書いたが、うわさや風評は「不確かな情報」に基因し、それが命にかかわるような重大なコトである場合、掛け算となって急速に広がる。国内ばかりか、海外においてもしかりである。

1990年代から2000年代にかけて、ブランドというものの存在が無形の経営資源であり盛んに研究がなされた。例えば、シャネルやロレックスが他の商品と異なる顧客期待値を創造できたのは何であったか。それは経営に独自な利益を生み出してくれる資源であることが広く認識されるようになった。期待を裏切らない、その繰り返し継続によって揺るぎない信用が創造される。ブランドと言わなくても、日本には暖簾という商売の心得がある。その暖簾が福島原発事故、その情報公開を遅らせた日本への信頼が壊れ始めた。残念ながら、福島はチェルノブイリやスリーマイル島と同じように世界中の人の心に深く刻印されてしまった。
つまり、福島県産品が毀損されたのではなく、日本そのものが毀損、いやもっと厳しい見方をするならば、信用のおけない国と理解され始めているということだ。それは自分の身に置き換えたら分かると思うが、観光旅行は安心な場所が大前提であり、その上で魅力の日本を楽しみたいということである。危険や不安と隣り合わせの国では楽しめる筈がない。至極当然の結果である。

ただ、海外メディアもいち早く被災地へ入り、全てを失っていることに耐え、普通であれば暴動や略奪の一つも起こるのに、日本は秩序をもって立ち上がろうとしていると賞讃の報道もしてくれている。そうした結果として多くの支援を受けてきたことも事実である。しかし、先日そうした支援を受けた世界の国々へ政府は感謝のメッセージを送った。それは良し、しかし、同時に福島原発の放射能に汚染された水を海へ流したことを謝罪しなければならない。しかも、それが汚染度の低い水であると記者会見されているが、その汚染水がどの程度のどんな放射能の汚染水なのか詳細は不明のままである。海外メディアはこうしたことを指摘しているのだ。結果、信用のおけない国であると認識されてしまうのである。

さて、クールジャパンと評価を受けてきた日本はダーティジャパンへと180度反転しようとしている。周知のようにマンガやアニメといった日本のポップカルチャーから誕生したのがクールジャパンである。そんな日本固有の文化を世界へと広げたのは宮崎駿監督による作品であったが、同時並行的にカリフォルニアロールで一躍注目を浴びたのがsushi barであった。そうした日本文化への注目は禅や侍へと広がり、sushi bar以外のラーメン等ジャパニーズレストランは世界へと広がった。そうした広がりのなかでも世界ブランドとして愛されてきたのが、国民食でもあるカップラーメンである。
また、最近ではその品質の良さと安全性から高価格にも関わらず、中国や中東へと日本の農産物や水産物が輸出され始めてきた。クールジャパンはsonyやTOYOTAと同じように世界ブランドとして認知され始めてきたということである。その矢先、福島原発事故が起きたのである。残念なことではあるが、まず食に関するビジネスは極めて大きな損害を受けると思われる。いや、既にキャンセルなどが始まっているかもしれない。原発事故が2次災害であれば、こうしたジャパンブランドの毀損は3次災害と言えるであろう。

ところで、政府による復興構想会議が始まったが、震災復興というテーマと原発事故の対策とを分けて進めたいとの会議主旨に対し、そのメンバーの一人である福島県の佐藤知事は会議終了後、原発問題も構想会議で共有し扱うべきとコメントしていたがまさにその通りである。原発問題抜きには日本の復活、毀損したジャパンブランドの再生などあり得ない。縦軸には地震・津波があり、横軸には原発という課題がある。それらを踏まえて東北・関東各県をどのように位置づけるかである。防災都市づくりといったことは勿論であるが、消費都市首都圏への食やエネルギーの供給基地としてだけで良いのか。毀損したジャパンブランド再生には何が必要なのか。福島原発の1〜4号機は廃炉とするとのことだが、それら電力を補うためにどんなエネルギー政策を用意するのか。廃炉された跡地はどんなものへと生まれ変わるのか。それら全てが次なるジャパンブランド再生の戦略となる。世界が注目しているのは、地震・津波といった自然とどう向き合うのか、そして人類が産み出した原子力発電に対しどんな英知をもって臨むのか、それら全てを見ているということだ。

この復興構想会議には特別顧問として梅原猛が参加されている。少し前に作家五木寛之との対談「仏の発見」(平凡社刊)のなかで五木寛之から希代の越境者として、その人物評が語られていた。会議参加メンバーの専門分野を越境する知性を持った唯一のメンバーであると思う。20世紀文明の象徴である原子力発電とその事故に対し、梅原猛がどんな越境する知見を見せてくれるか興味深い。
周知のように、今梅原猛がテーマとしているのが法然で、五木寛之は親鸞である。共に、平安時代末期から鎌倉時代にかけて、この世とも思えない戦乱の世に、既成仏教の本山である京都比叡山を下りて、救いを求める民衆のこころのなかに現れたのが法然であり、後を追うように現れたのが親鸞である。そして、この二人こそ、中国から渡来した仏教を日本仏教へと変えた歴史上の人物である。日本が原子力発電という人類が作った文明のシンボルに対し、どんな日本固有の文明として原子力を扱うのか、世界も注目するテーマである。ここで議論されたメッセージが毀損したジャパンブランドを再生する視座となる。そして、日本とは何か、豊かさとは何か、一つのヒントを与えてくれるであろう。(続く)   


Posted by ヒット商品応援団 at 13:32Comments(0)新市場創造