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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2011年04月03日

未来を語る時 

ヒット商品応援団日記No493(毎週更新)   2011.4.3.

大震災後の消費動向の数字が次第に明らかになってきた。その傾向であるが、自己抑制というこころの振り子が大きく振れ、過剰なまでのエキセントリックさを見せている。いや一種の神経症的様相を見せ始めているといった方が適切であろう。「光と音を失った都市」というタイトルで東京の消費動向について書いたが、駅の商業施設デベロッパーにヒアリングしたところ、3月11日の翌日以降1週間ほどの間は、生鮮三品の売上は通常売上の160〜200%という異常な売上数字であったという。そして、その後の駅SCの全体売上推移として以下であると、
1WK後;通常売上の40%(ファッション衣料や身の回り品は30%)
2WK後;通常売上の70%(ファッション衣料や身の回り品は45%)
3WK後;通常売上の70%(ファッション衣料や身の回り品は60%)
現在はどうかというと、食品においては購入した商品のストック消費期間となって、通常売り上げの70〜80%で推移しているという。そして、私がレポートした通り、ファッション衣料を始めアクセサリーといったオシャレ商品は前年対比60%のまま推移してきている。また、SCの売上比率が高い飲食売上も最初の1WKは通常の40%、2WK以降はなんとか持ち直して70%程度で推移している。
つまり、小売業のなかで唯一好調さ保ってきた駅SCも冬眠状態の消費となった、いやそれ以上の表現、消費氷河期といっても過言ではない。勿論、東京都が浄水場の水が放射性物質に汚染され、乳児への摂取制限を行った直後も同様の売上傾向、商品棚からミネラルウオーターが消えたといったことは言うまでもない。

ファッション衣料や身の回り品といった不要不急型商品が消費都市東京において売れないであろうとの予測から株価も急落している。特に、世界にあって日本での売上比率の高い高級ブランド、ティファニー(米国)、ルイ・ヴィトングループ(仏)、コーチ(米国)などがその代表例となっている。
また、計画停電の影響から休園となっている東京ディズニーリゾートの親会社であるウオルトディズニー株も急落していることは言うまでもない。不況期の典型であるが、オシャレ関連、遊び、外食、こうした業種は未だかってない消費氷河期に入ってしまった。
また、この数日間新聞各紙やTVにおいて報道されているが、春祭りといったイベントが自粛・中止され、それらイベントは東日本ばかりか地方においても広がっている。
つまり、リーマンショック後の内向き消費に再度戻った、いやその比ではないような極端な自己抑制消費に向かったということである。そして、消費の指標となる移動はどうかというと、近場となり、家庭を中心としたホームグランド消費となる。例年4月に入るとJTBからゴールデンウイークの旅行予測が発表されるが、勿論東北への旅行は壊滅状態となるが、それよりも心理的に旅気分にはなれないということだ。ただ、こうした旅行の代替消費が出てくる。リーマンショック後の2008年の年末は、旅行を止めて、チョット贅沢なおせち料理に代わったように、今回の震災後のGWや夏休みも異なるものとなる。既に政府は今夏の電力需要を満たせないとして25%の節電を考えているようだが、民族大移動のようなお盆休みは止めて、企業も工場も休暇期間をずらしてとるようになっていくと予測される。当然であるが、夏休み旅行も期間ばかりでなく、内容も変わるということである。

言葉を失う、被災した人達には及ばないが、そんな経験の一部をした首都圏生活者にとって、やり場のない気持ちが内側へと向かっている。医療の専門家ではない私が言うべきことではないが、極論ではあるが、強さ・軽さはあるものの、多くの人がPTSD的(心的外傷後ストレス障害)なこころの傷を負っているように見える。それは特に若い世代に多いように思えるのだが、商業施設の多くは照明を落としているが、いつも通りの照明の店舗に対し、何故節電しないのかと非難を超えた暴言の限りを行う生活者が増えていると聞く。
しかし、そうした持って行き場のない気持ちが内側へ内側へと向かう一方、外側へと向かう人達もいる。既成のボランティア組織ではない、いわばかって連のように街頭に立っての募金や被災現地へのボランティアへと向かわせている。あるいは政府に、東電に言われるまでもなく、ネット上で自然発生的に始まったヤシマ作戦のような「計画節電」へと向かっている。昨年暮れ、ランドセルを贈るタイガーマスク運動はシニア層が主体であったのに対し、ヤシマ作戦は若い世代が中心となっている。無縁社会にあって、シニアも若い世代も等しく役に立ちたいという思いは共通するものだ。そんな匿名の「縁」がネットワークされ得る社会が未だ存在しているということであろう。

小売業や専門店においても企業版ヤシマ作戦が既に始まっている。その中でもなるほどと思う計画節電を行い売上を回復させているのが日本マクドナルドである。マクドナルドは大震災後は東電管轄エリア内の約700店舗の内、24時間営業店を20店舗まで縮小し、あとの店舗も営業時間を限定する措置をとった。しかし、その後24時間営業店は205店まで拡大し、残る店舗も営業時間を拡大しているという。電力需要の少ない深夜時間を中心に営業時間を拡大させ、その代わりに店内照明は50%に落とし、階段等には危険があるため従来通りの照明を行う。そして、何よりもヤシマ作戦と同様に、外が明るい日中には店長判断でこまめに小さな単位の照明を落とす計画を実施。そして、その計画節電の目標は従来電力使用の50%であるという。(日経MJ 3/28より)

3.11によって、個人も、企業も、不安定なエネルギー供給のなかで、計画経営を行うこととなった。どんなエネルギーがこれから必要とするのか、根源的な課題を引き受けてその模索は始まっている。そして、誰もが考えているように、長期にわたる計画である。未来へより確かなモノやコト、より安定・継続できるモノやコト、自己抑制という固い扉を開けるには従来手法とは異なる施策、いやポリシーが必要となる。それは新しい自治、新しい公共性、それも無名の人達の参加によって創られるものであると思う。死者・行方不明者2万7000名余の思いによって、失われた20年という時を経て、初めて「未来」という言葉が実感をもってこころのなかに生まれてきた。個人も、企業も、外側へ向かって、勇気をもって未来を語る時がきたということだ。そして、語られた未来によって、ライフスタイルが変わり、消費も変わる。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:57Comments(0)新市場創造