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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2010年01月13日

サービス価値再考

ヒット商品応援団日記No435(毎週2回更新)  2010.1.13.

前回、ノスタルジー消費という虚構世界の消費傾向について書いた。これは価格競争下の消費におけるリアリズムの変質の一つであるが、デフレの大波によって隠れてしまったサービス価値の今、その変容と在り方について考えてみたい。というのも1990年代後半、物が類似化する時代にあって差別化するにはサービス価値をどう高めるかがマーケティングの大きなテーマであった。しかし、今日サービスに価値を認め、それに値するお金を支払う市場は極めて小さくなったことも事実である。(10年間で100万円所得が減少したことを書いたブログを参照)
こうした中で、日本のサービス業が選択すべき一つの着眼を提示してくれたのが、星野リゾートによる2号店「星のや 京都」のオープンであり、石川県和倉の名旅館加賀屋の台北進出である。
この2つの旅館に共通していることは、日本のサービス・おもてなしを海外の富裕層へ売っていこうという試みである。

1/11の日経MJに、その「星のや 京都」の概要について取り上げている。「星のや 京都」は海外富裕層を主要顧客に想定しており、勿論和のコンセプトであるが、その「おもてなし」の入り口として専用の船による10分間の送迎という演出がなされるという。日常の世界からリゾートという非日常世界へと明確に切り替えるための仕掛けである。部屋は海外客にくつろぎやすくするためにソファースタイルとなっているが、畳座敷の時の目線と同じ位置になるように床の間やインテリアが考えられているという。この10年間で7万軒あった旅館は5万軒ほどに減少するなか、宿泊と食事の分離、24時間ルームサービス、こうした顧客の自由度を提供することによって自社の旅館ばかりか、苦境に立つ老舗旅館の再生に人材を送り込み日本旅館のこれからの道筋の一つを提示してくれている。そんな星野リゾートによる海外富裕層市場へのチャレンジである。

以前、ブログに「クールジャパン」について書いたが、日本食レストランやSUSHIBAR、禅やサムライ、コミックやアニメ、・・・・・こうした日本ブームには日本の精神文化への興味・関心、更にはその魅力に傾倒する市場があることを物語っている。コミックやアニメの聖地は秋葉原であるが、日本食レストランやSUSHIBAR、禅やサムライといった日本精神文化の聖地はやはり京都である。富裕層の長期滞在客市場を創造してきた世界のリゾートと言われるアマンリゾートも京都にリゾートホテルを創る計画であった。しかし、1年半ほど前になるが提携先のアーバンコーポレーションの破綻によって計画は頓挫している。つまり、世界、外からの目は日本人の想像を遥かに超えて、日本の精神文化、日本美に注がれている。

製造業の東・東南アジアやインドへの工場移転、あるいは既に多くの流通が進出しニュースとなっているが、実は飲食業も欧米以外に、上海、バンコク、シンガポール、といった主要都市へと続々と進出している。古くは大戸屋、ラーメンチェーン店、サイゼリアのようなファミレス、こうしたチェーン店以外にも個人経営の日本食レストランも多数活動している。それら飲食業は基本的には日本に於ける調理法に準じた、メニュー、味などとなっている。そして、最大特徴であり、海外の現地客が最も新鮮に受け止めてくれるのがサービススタイル、おもてなしである。飲食業の海外出店ではあるが、日本食文化、日本の精神文化の輸出といっても過言ではない。

ところで、コミックやアニメの聖地である秋葉原に常設劇場を構え、オタク達へのライブショーを演じているのがAKB48である。オタクはアイドル(憧れ)を消費するために劇場に集まる。歌やショーを観劇し、憧れという心を交換し、ステージに立つメンバーも成長する。仕組みという視点に立てば、オタクがアイドルを育てるサバイバルゲームである。このAKB48は周知の秋元康氏がプロデュースするエンターテイメントビジネスであるが、顧客参加ゲームにおけるライブコンテンツ、TVコンテンツ、インターネットコンテンツ、そして周辺のMD商品を一つのビジネスパッケージにして、いわゆる世界へとコンテンツ輸出を行おうといった試みまで始まっている。コミックやアニメの主人公は時を経ても変わらないが、AKB48のアイドル達はオタクによって育てられ成長するキャラクターであり、自分の分身アバターとしてある。そして、その本質はアイドル育成ゲームであり、劇画的である。

さて、サービス価値の今であるが、一つのヒントは星野リゾートの星野桂路社長が答えてくれている。それは一号店である軽井沢の「星のや」は大不況もあって法人需要が落ち込んだという。しかし、売上の多くを占める個人顧客は変わらずリピーターとして利用してくれていると。つまり、個客を大切にするサービスによってということだ。
もう一つは対象とする顧客の想定に沿って、ビジネスの在り方を決める。つまり、サービス価値を認めてくれる顧客を顧客とするということだ。価格競争によって真っ先に削ぎ落とされるのが人件費、人的サービスである。しかし、価値を認める顧客は存在している。その顧客を顧客とする規模で経営すれば良いのだ。ちなみに、「星のや 京都」の客室数は25室、1室あたり7万円、宿泊人数は1室平均2.2人、アラカルトの夕食&朝食の費用を含めると1人当り4万5000円〜5万円になるという。
加賀屋の台北進出については、計画より大分遅れ今だ工事中のようである。その概要の情報が得られたらまたブログにてレポートしたい。いずれにせよ、地球は小さくなり、同時代性、同地域性という世界が進んでいる。つまり、もはや内も外もないということである。であればこそ、水村美苗氏の「日本語が亡びるとき」ではないが、伝承された日本文化、今の日本を表現するサブカルチャーの如何を問わず、その価値を再考すべき時に来ている。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:16Comments(0)新市場創造