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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2008年05月28日

付加価値という幻想

ヒット商品応援団日記No269(毎週2回更新)  2008.5.28.

過去「付加価値」というキーワードを使ってきた私であるが、この半年ほどいや1年ほどほとんど使わなくなった。ここで使っている「付加」の多くは、新しい、面白い、珍しい、といった情報としての価値である。つまり、新しい、面白い、珍しい、これらも一度経験すればそれで終ってしまうという一過的な価値でしかなくなったという背景からだ。しかも、その終わるスピードは極めて早いという時代である。以前、クリスピー・クリーム・ドーナツの限定戦略について触れたが、価値を認める顧客だけを継続させるためにも「限定」は必要となる。誰も彼もが利用してしまえば、新しい、面白い、珍しいという「情報鮮度」は一挙に喪失してしまうということだ。ベストセラーではなく、ロングセラーの時代にあっては、情報鮮度を保つためにも限定が必要ということである。

ところで、少し前までは付加価値の多くは「こだわり」という「訳あり」によって支えられてきた。しかし、そうした情報はすぐ競争相手に伝わり、「類似したこだわり」が生まれる。結果、「こだわり」の再生産がなされ、市場に充満していくこととなる。こだわりは文化という固有性にまで時間をかけて昇華されないかぎり常に一般化してしまうということだ。確か4年半ほど前だと思うが、別件でサントリーを訪問した時、伊衛門のプロジェクトリーダーが話してくれたことを思い出す。飲料においては、缶コーヒーや烏龍茶ではシェアーNO1を維持していているサントリーであったが、お茶は伊藤園に対し連戦連敗でほとんど最後のつもりで開発したという。私は京都の老舗福寿園との共同開発に触れ、よく口説き落としましたねと言ったところ、彼は老舗の文化を引き受けることは並大抵ではないと語っていた。伊衛門という福寿園の創業者の名前を商品のネーミングしたこともあり、今まであった製造ラインを全て変えること(莫大な投資)から始めたと。文化価値を引き受けるとは、単に名前を貸してもらいデザインを変える程度のコラボレーションではないということだ。(このテーマはブランディングにもつながるので後日私見を書きたいと考えている)

ちょうどこのブログを書いている最中にTV朝日の番組で「OKストア」の急成長が取り上げられていた。TVというメディア特性からその低価格とオネスト(正直)コンセプトに焦点を当てた取材であったが、このエブリデーロープライスも一朝一夕に出来上がったものではない。詳しくは私が書いたブログを参照していただきたい。(「エブリデーロープライス」/2008/05/04)この時にも触れたがOKストアでは徹底した情報公開がなされている。価格が高い理由、安い理由という価格に着目しているのがOKストアであり、例えばエコロジーに着目し全ての情報を公開しているのがカタログハウス(通販生活)である。両社共に、「情報」に対し、誠実に真摯である点が共通している。いくらでも簡単に嘘をつくことができるのが情報の時代である。であればこそ、「情報は重たい」、と強い意志をもって向き合っている良き事例だ。

もう一つ事例を挙げるとすれば、やはり一昨年春オープンした「ららぽ〜と横浜」のフードコートであろう。通常、デベロッパーは手のかかることはしたがらないものであった。フードコートは1社にまかせ、専門店の組み合わせ編集などしないことがほとんどであった。つまり、顧客が食べ終わった後片付けからクリーンアップまでのオペレーションの在り方を決めていくことは煩雑で難しい。しかし、「ららぽ〜と横浜」では、顧客が求めていることを実行しなければならないと強く考えている。その専門店の一つに老舗の鰻店「宮川」があるが、通常では煙の出る鰻等は排煙設備を必要とし、フードコートには導入しないのが常であったが、そうした設備を用意し、出店要請をしたと聞いている。顧客が求める価値を追求するとは、このように煩雑さと投資を引き受けるということだ。

少し前に、新しいスタンダードが模索されていると私は書いた。価値が価格を決める、次の新しい価値時代を迎えるということである。それはデベロッパーも、流通も、メーカーもである。最早、付加価値などといった幻想に踊る顧客はいないと考えなければならない。もし、これからどんな価値かと問われれば、当面は「本質価値」と答えることにしたいと思う。まだ、良いキーワードを定めることができないというのが本音である。その本質とは、食べ慣れた、使い慣れた、着慣れた、住み慣れた、といったある意味戻っていく価値のようなものである。これからの時代は、一枚一枚「付加」という衣をはがして戻っていくと思う。らっきょでは困るが、はがして最後に残るもの、それが本質価値ということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:46Comments(0)新市場創造