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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2008年05月11日

スタイル消費の創造

ヒット商品応援団日記No264(毎週2回更新)  2008.5.11.

前回スタグフレーション下の「やせがまん消費」について蕎麦を例に挙げ、粗食を豊かにしてきた先人の工夫について書いた。その続きであるが、蕎麦は江戸っ子固有のスタイルと言われているが、質素ではあるが美意識に裏打ちされた豊かな消費スタイルである。着眼すべきは美意識に裏打ちされた一つのスタイルにまで創り上げたことである。周知のように屋台によって急激に広まったのが蕎麦であるが、それまではお米の代用食として雑炊や蕎麦掻きにして食していた。屋台という流通にのってブームを引き起こした新メニューが蕎麦切りという麺状にしたものであった。以前このブログにも書いたと思うが、この蕎麦切りは上方の麦きり(うどん)から着眼したもので、上方文化に対抗した江戸の代表スタイル食であった。

「江戸前」という言葉には鮨を思い浮かべる人が多いと思うが、鮨、蕎麦、天麩羅、鰻を「四大江戸前」と呼び、最初に江戸前と呼ばれたのが鰻で「鰻の大蒲焼き」であった。鮨では江戸の前にある東京湾でとれた子魚を寿司ネタにしたことから東京湾を指す言葉の意味だと思っているが多いと思うがそうではない。男前や腕前といったように一つのスタイルを指す言葉だ。江戸前は江戸スタイルのことで、好みや趣味の世界で理屈っぽく言えば江戸文化スタイルである。つまり、お腹が減って必要に迫られて蕎麦を食べにいくのではなく、暇があるからチョットそば屋へ行くかという趣味食ということである。

このように江戸は上方に対抗、つまり負けず嫌いから次々に新しいスタイルを創っていく。ある意味で良きライバル関係にあったからこそ新しい市場が生まれた訳である。その対抗エネルギーは、やせがまん、負けず嫌い、といった気質が市場を支えていたが、現代においてはこのような大きな市場構図にはないように見える。しかし、よくよく考えれば、江戸時代もそのほとんどが地方出身者であり、今日の東京はあらゆるものが集積されてはいるが、元はイタリアからであったり、時に地方からのものである。つまり、都市とは寄せ集め国家のようなものだ。

昨年秋、「ミシュランガイド東京」が発売され話題を集めたが、来年には日本の観光ガイド本を発売すると発表があった。昨年、外国人の日本への観光は800万人を優に超えており、今年には1000万人を超えると予測されている。ミシュランがレストランガイドではなく、観光ガイド本をつくるのはうなずける話だ。発売されればまた話題になると思うが、飲食店と同様に日本人の知らない日本ガイドになると思う。食も観光もその根っこには日本文化があり、多くの外国人を惹き付ける。海外での日本食ブームもそうであるが、例えば供される和食には箸が使われる。外国人にとって食べやすい道具ではないが、箸は和のスタイルであり、日本文化そのものと感じるからである。

私が「今、地方がおもしろい」と考えるのも、こうしたスタイルが地方にはまだ残っているからだ、コラムニストの天野祐吉さんが「気質の方言地図」を作っている(まだ半分のようであるが)。私が好きな沖縄の代表的な方言は「なんくるないさあ〜」である。投げやりな意味ではなく、やせがまんでもなく、少しだけ前向きな肩肘のはらない「なんとかなるさ」という明るい気質である。東京で生まれ育った私にとって、一晩眠ればまた違った明日をむかえられる、そんなくったくのない感がする。だから、未だ手つかずの自然が残る亜熱帯地域として、こころもからだも和むリゾートとして観光客が訪れるのだ。例えば、全てを否定する訳ではないが、万座ビーチホテルの海辺の白砂は他の場所から持ってきて作られた人工ビーチである。好きで何回も訪れる観光客は次第に人工か自然なものか見極められるようになる。スタイルは文化であり、意図を持って作れば一過性のブームに終わる。それが時を重ねた文化というものだ。

さて、このスタイルづくりをどう着眼するかである。勿論、都市生活者に対してであるが、江戸時代の庶民を喜ばした着眼点は「奇」「珍」「怪」と言われている。言葉通りに言えば、奇をてらった珍しいチョット怪しげなものと言えよう。但し、ここ2年ほど前からの様々な情報偽装体験を踏まえており、上滑りな「奇」「珍」「怪」ではない。既に、しっかりとした文化という履歴のあるもの、地物に注目が集まっている。地の水から始まり、酒、塩、醤油、ソース、更には地魚、地野菜・・・・・ただ、まだまだ物レベルでスタイルにまで達してはいない。沖縄にも沖縄スタイルという雑誌や土産物店はあるが、スタイルとは言い難い。逆に言うと、新しい市場創造は始まったばかりということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:46Comments(0)新市場創造