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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2016年04月30日

進化する自己防衛市場、経済から生命へ 

ット商品応援団日記No643(毎週更新) 2016.4.30、

前回、大地動乱というキーワードを使って熊本地震について書いた。やっと、自然と向き合う科学者、研究者は100年程度の過去ではなく、1000年単位の歴史にも向き合い、地質学や歴史研究という横断的なものとして学び直すことが必要であると書いたが、そうした「考え」がマスメディアにも取り上げられるようになった。前例がない地震、想定外の地震といった「考え」がいかに狭いものであるかが次第に分かってきたと思う。このブログはそうした科学をテーマとしたものではない。さて本論に戻ることとする。

ところで、5年前に起きた東日本大震災は生活価値観にどんな変化をもたらしたか、そしてどんな新しい消費が現れてきたか、震災数ヶ月後のブログに次のように書いた。

『東日本大震災によってより鮮明となった市場が自己防衛市場である。「絆」とは真逆のように見えるかもしれないが、自然災害などに対しては自らを守る志向が極めて強く出てきている。防災グッズは言うに及ばず、電気自動車を蓄電池代わりとする。帰宅難民化に対処するために自転車が飛ぶように売れ、避難住宅にもなるとしてキャンピングカーまで売れ行きを伸ばした。また、主婦感覚とでも言うべきなのか、賞味期限の長い日持ちする商品が売れている。ソーセージなどがその代表であるが、従来鮮度価値の日配品と言われてきた牛乳やお豆腐にも賞味期限の長い新商品が出てきた。こうした商品以外にも、レトルト食品や缶詰も再認識されている。』

こうした消費傾向は都市、特に東京がそうであるのだが、「計画停電」という無計画停電がこうした自己防衛的備えをより強くした。被災した熊本・大分の人たちは活断層が地下に眠っていたことは周知していたようだが、東日本大震災の被災地と同じように「まさか」という受け止め方であった。地震後2週間ほど経ったが、大きな地震が断続して起きていることもあって、数日間は混乱があったようだが、登山家の野口健さんの呼びかけで多くのキャンプ用テントが被災者に提供されたり、ユニクロは夏に向けた支援として涼感衣類を送ったように、いやな言葉だが、経験、学習の成果が支援する側にも生まれている。また、東日本大震災の時もそうであったが、コミュニティが崩壊した後、孤立し支援を受けられずにいた被災者にはSNSという新たなコミュニティメディアによって救われている。

熊本地震は、「どこにでも起こる」、「誰でもが被災する可能性がある」というだめ押しをしたかの感を強くさせた。「自己防衛」というキーワードが本格的に使われるようになったのは、実は2008年のリーマンショック後からである。当時は家計収入は増えない中、翌年の春には一斉に「副業」に走る人が増えた。主婦は勿論のこと、サラリーマンも休日には副業へと向かい、勤務先企業もこれらアルバイト収入を認めるところも出てきた。未来に楽観できないということの証左であった。ちなみに2008年度の日経MJの「2008年ヒット商品番付」の概要について以下のようにブログにも書いた。

『東西の横綱には「ユニクロ・H&M」と「セブン&アイとイオンのPB商品」、大関は「低価格小型PC」と「任天堂DSのwiifit」、関脇には「ブルーレイ」と「パナソニックの電球型蛍光灯」と続く。東芝のDVDレコーダー「ブルーレイ」が入ったのは、HD-DVDレコーダーの市場からの撤退によってシェアーが伸びたもので、それ以外は全て価格価値に主眼を置いた商品ばかりである。「お買い得」「買いやすい価格」、あるいは「パナソニックの電球型蛍光灯」のように、商品自体は高めの価格であるが、耐久時間が長いことから結果安くなる、「費用対効果」を見極めた価格着眼によるヒット商品である。そうした自己防衛市場への消費移動として理解すべきである。』

単なる節約という言葉とは少し異なる、つまり自己抑制的でデフレマインドが表に出た消費であった。それは今までのどちららかというと「生活経済」を反映させた防衛意識であったが、2011年3月の東日本大震災はライフスタイル価値観の転換を促すほどの衝撃をもたらした。その一つが「絆」であり、消費という側面から見ていくと「絆消費」と呼ばれた新しい消費が出現した。例えば、婚約指輪が大きく需要を伸ばしたり、母の日ギフトや誕生日ギフトなどいわゆる記念日消費に注目が集まった。また、それまでは一人鍋が日常であったのだが、家族や友人といった複数の人間が一つ鍋を挟んだ食事は、家庭でも居酒屋でも日常風景となった。
そして、何よりも自己防衛に向かったのが福島の原発事故による放射能汚染であった。特に子育て中の母親を中心に「生命」の防衛として認識され、避難先は遠く北海道や沖縄にまで及んだ。流通現場においても風評被害を踏まえ、「汚染の見える化」が小売店頭において始まった。ちなみに日経MJは2011年上半期には東西横綱に該当するヒット商品はないとした。
このように「生命」そのものを防衛するというライフスタイルへと変化していく。それは特に地震のような人智が及ばない自然に対する強い認識としてある。予知が難しい以上、自己防衛として「何ができるか」、これからの消費の根底に「生命価値」を置くということを意味している。

生命とは、その日常のあり方を言葉にするとすれば、「安全」ということになる。熊本地震が再度気付かせてくれたことは、「安心」を超えて、自ら安心を求め「安全」という自己確認によって防衛されるということである。つまり、日常生活にあって「自己確認」が日常化されるということである。これは食べて安全か、これは安全に使えるか、さらには楽しみとする遊びすらも安全か、ということを意味する。これまでは「快適」「便利」「お得」といったキーワードが住まいを中心とした生活価値観を形成してきたが、そこに「安全」が加わることとなる。オール電化、スマート家電といった生活が、電源を喪失することによって全く意味をなさないことを実感してしまったからである。勿論、震災後には家庭用蓄電池も売れ、耐震構造化についても全てを行うには多大な費用がかかることから、部屋単位での耐震化、いわばシェルター作りも行われ、自治体でもそうした耐震化にも助成をし、普及し始めている。こうした直接的な生命防衛・「自助」が進んでいる。

ここ数年、「食」を中心としてだが、日本マクドナルドの期限切れ鶏肉問題をはじめ「安心」がビジネスの最重要キーワードとなってきた。こうした心理市場下の時代ならではのキーワードであるが、2011年の東日本大震災以降、「安全」が最重要キーワードとなってきた。それは自然災害に対するだけのことではなく、経済優先、効率優先といったビジネスへの警鐘としても出てきている。「安全」にコストをかけない、「安全」を軽視する、そうした商品やサービスはビジネスにとって致命的なものとなっていく。1月に起きた若い学生向けの日帰り夜行バス事故のように、詳細な事故原因は不明ではあるが、安全にコストをかけない安易なバス運行事業などは淘汰されていく。また、昨年横浜都筑区の大型マンションが傾き、その原因が建築にとって最も重要となる杭打ちにおける施工不良・データ偽装によるものであったことをデべロッパーは認め、住民との話し合いから立て直し案が進んでいる。これも生命を脅かす可能性が明らかになった以上、安全であるべき住居を建て直すとし、「生命」が守られた例である。生命に関わる「安全」を最重要視した結果ということであろう。
安心から安全へと時代のパラダイムは進んでいく。その本質は経済から生命への転換である。そして、このパラダイムは内向きな防衛的なものであると同時に、より生命的なポジティブなものへの希求として、消費の舞台にも上がってくる。(続く)


タグ :熊本地震

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:29│Comments(0)新市場創造
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