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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2016年04月10日

既に日常定着化しているデフレ

ヒット商品応援団日記No641(毎週更新) 2016.4.10.

4月になると消費傾向の「今」を見ることにしている。4月という時期は新しい仕事、新しい学び、新しい人生がスタートする時期であり、ほとんどの企業はそうした時期を市場機会として認識し、新しい顧客獲得競争へと向かう。2月の家計調査における消費支出はうるう年ということで対前年比プラスになったとの速報が報道されたが、1日多いからで実態はマイナスである。こうした昨年秋からの消費傾向を踏まえた「価格」を中心に置いた発表が相次いでいる。

そのトップバッターがデフレの騎手の一社であるユニクロを展開するファーストリテイリングで、柳井会長がテレビ東京WBSのインタビューに、記者会見で発表した今年2月の中間連結決算の大幅減益の理由に答えていた。純利益が1年前と比べ55.1%減り、470億円と大幅に落ち込み、その純利益の減少は、中間期としては5年ぶりとのこと。柳井会長は、円安や原材料価格の高騰を背景に秋冬商品の通常価格を高く設定したことが業績の不振につながったとし、今後は、通常価格を低く抑える方針を明らかにした。少し短絡的に言うならば、高めの価格設定が顧客支持を得なかったということである。そして、インタビューの最後にユニクロも大企業病にかかっているとも付け加えていた。

また、あの牛丼の吉野家が豚丼を4年ぶりに復活させたことである。価格は4年前と同じの税込330円だ。これは牛丼よりも50円安く設定されている。現在は復活キャンペーンとして300円となっており、外食離れが進む中での明確なデフレ戦略としてある。つまり、客単価志向ではなく、客数志向で、ユニクロと同じで価格を下げる戦略を採ったということだ。というのも豚丼が誕生した背景にはBSE問題の影響で牛丼を提供することが出来なくなったことによる。ある意味で、豚丼は窮地に陥った吉野家の救世主で、吉野家フアンであれば周知のことである。

さてデフレの騎手のもう一社である日本マクドナルドはどうかというと周知のように売り上げの減少が止まらない状況となっている。昨年業界内では閉店した跡立地や人材の争奪戦が繰り広げられたようだが、この売上減少幅を見ていくと誰もが驚くこととなる。2015年12月期通期の連結決算は、減損損失や店舗閉店などに伴う特別損失72億円を計上したことなどで、最終損益が347億400万円の赤字(前期は218億円の赤字)となった。2001年の株式上場以来、過去最大の赤字額に上る。これは100円バーガーの廃止から一転して復活させるなどの価格設定の迷走など多くの理由が挙げられるが、やはり中国食品工場における期限切れ鶏肉使用問題に端を発したことが一番大きな理油であろう。つまり「見えないところでつくられた食」への不信感が決定的であったということである。これはマクドナル固有の課題としてだけでなく、セントラルキッチン方式を採っているチェーン店は等しくその可能性があると自覚しなければならない。そして、こうした背景とともにあるのはユニクロ同様、マクドナルドの大企業病であろう。ただ、最近の動向としては3月の客数が前年同月と比べ既存店ベースで7.9%増となり、3カ月連続で前年を上回ったと発表した。また、売上高も18.3%増と4カ月連続プラスで、好調を維持していると。
1990年代後半デフレの旗手と呼ばれた3社の「今」を見てみたのだが、言葉の正確な意味におけるデフレではなく、デフレマインドがいたるところで横溢しているということである。企業もそうであるが、個人金融資産は1700兆円を超えたと発表があったが、それらが消費には向かってはいないし、マイナス金利を更に進めようとしても消費者の反発を招くだけで、これからも消費に向かわないことは確かであろう。

一方で4月1日から東京ディズニリゾートの入場チケットの値上げが実施された。これは年間3000万人ものゲストが来園されるキラーコンテンツによるものであるが、キラーコンテンツであるが故の課題、例えば人気アトラクションなどの待ち時間緩和策が用意されてはいるものの解決とはならない。つまり、来園者の抑制が必要となってきているということである。これは推測であるが、東京ディズニーランド時代の売り上げ構成は入場チケット売り上げ30%、グッズやレストラン売り上げ70%という構成であった。しかし、消費増税の影響によってグッズやレストラン売り上げはどんどん下がってきていると推定される。経営上、来園者を抑制しつつ、値上げをして売り上げを確保するということであろう。東京ディズニーリゾートはリピーターによって経営が成立しており、値上げによってそのバランスが崩れるか否か、注視していく必要がある。

ところで本題に戻るが、1〜2年ほど前からシェアリングエコノミーというキーワードで住まいや車の新しい「使用価値」について話題が集まった。「シェアー」という考えは以前からあって、リーマンショック以前から、従来プロ需要に応えるための業務用スーパーにご近所主婦が共同で購入しシェアーすることが浸透していた。こうした素人消費が伸びていくことを背景に、実は「わけあり」お得消費がいたるところに浸透したのである。そうした意味でデフレマインドは消費の底流として既にあった。そして、こうした「物」としての形あるもののシェアーから、形のない技術や経験といったソフト価値のシェアーへと広がってきている。この使用価値重視の価値観からは、例えばLEDのように購入時は少々高いが使用耐用年数を考えたら、結果「お得」という新しい合理的生活へと広がってきた。

こうした価値観、所有価値から使用価値への転換が行われてきたのだが、「所有」が無くならないことではない。誰でも1つや2つ「お気に入り」を持っている。既に死語なっているが「一生物」という商品があった。例えば、紬の着物がそうで、親から子へ、子から孫えと引き継がれていくような商品で、年数が経って汚れや補修が必要な時には一度1枚の布に戻して洗い張りや仕立て直しをするという作業を行って「一生」着ていくもの。ある意味、使い捨てという価値観とは真逆の考えに基づいた商品である。少々高くても他に代えがたいもので、それが物であったり、場合によってはサービスであったりする。例えそれが日常消費型商品であったとしてもである。他は節約しても、これだけはという消費である。
他に代えがたい固有価値を持つ商品、アートな商品、文化型商品であるが、それらは高額商品に限らない。以前からヒット商品は街場の中にもあるとブログにも書いてきたが、例えばあの親父が作る550円のラーメンがなんとも好きで好きでたまらない、そんな「差」のある商品がデフレ時代に生き残るということだ。(続く)



Posted by ヒット商品応援団 at 13:38│Comments(0)
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