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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2008年07月09日

価格心理の今

ヒット商品応援団日記No281(毎週2回更新)  2008.7.9.

ここ数週間都内の渋滞があまり感じられなくなったという人が多い。データに基づかない「感覚」ではあるが、いわゆるマイカー通勤や買い物に車でという人達がガソリン価格高騰によって控えているのではと理解する人が多い。昨年後半から、私はどんなに優れた魅力ある商品でも、「価格」というハードルを超えない限り売れないと言ってきた。生半可な付加価値などは幻想にすぎないとも言ってきた。そして、ワンコイン(100円&500円)マーケットといったプロモーションも有効な手段の一つであるとも。更には、従来の基準外、規格外商品を低価格で販売している生産者や流通についても注目すべきとも書いてきた。

結果、日経MJのヒット商品番付ではないが、値段の高いNB(ナショナルブランド)商品から、安いPB(プライベートブランド)商品への消費移動が起きた。こうした消費傾向の原因は給与所得者の収入が伸びないことが最大理由である。5月の現金給与支払総額(全産業、対前年同月比)は+0.2%と前月の+0.8%からさらに鈍化している。一方、富裕層はどうかというと、世界的な株価下落、更には都心不動産価格の下落により、環境的には消費へとは向かってはいない。ブランドの中心顧客の動向は百貨店売上の動向とパラレルであり、推して知るべしだ。

ちょうど夏休みシーズンに向けた各旅行代理店の最後のセールが展開されている。恐らく、前年度を割る海外旅行者数になり、旅行先も近場で滞在日数も短くなると思うが、格安海外旅行で成長してきたH.I.S.が思い切ったバーゲンセールを展開している。全ての旅行代金を「燃料サージャー代込み」の設定としている点だ。格安旅行と思っていたが、追加される燃料サージャー代が高く、割高感が残る心理を逆手にとった戦術である。既にネット上では路線毎の燃料サージャー代が明らかになっているが、価格に多くの目が注がれていればこその価格設定である。また、H.I.S.が顧客心理をよく分かっているのは、旅行商品を小売業として見ている点にある。ワンコインマーケットならぬ、どの旅行コースでも「15万円」といった具合である。顧客を見て、店頭の商品や価格をこまめに変えていく小売業的感覚はこの時代では重要だ。

ちょうど1ヶ月ほど前に、週刊ダイヤモンドで取り上げていたが、日本人の価格心理の代表例として寿司屋のにぎりの価格設定がある。よくある設定で、特上、上、並と三段階あるうち、ほとんどの顧客は上を選ぶ。商売人は、この上寿司で利益を得るという仕組みである。しかし、特上、上、並、それぞれの価格を見て、別の食へと変える人が増えてきたのが実体であろう。
面白いことに、既に江戸時代でも価格を根底に置いた商売があった。庶民の人気を博した小料理屋江戸橋際の「なん八屋」では、何を頼んでも一皿八文で皿数で勘定する仕組みだ。回転しない回転寿司のような業態である。また、浮世絵にも描かれている「ニ八蕎麦」だが、その店名由来には二説ある。一つは小麦粉と蕎麦粉の割合を2:8とする説。もう一つは蕎麦の値段が二×八が十六文という説である。前者の方を正解とする人が多いようであるが、「ニ八蕎麦」以外にも「一八蕎麦」や「二六蕎麦」あるいは「三八蕎麦」があったようで、価格をネーミングとした後者の方が正解のようである。

おそらく、「100円ショップ」とは異なるユニークな価格の業態が出てくると思う。たこ焼きの「銀だこ」で知られているホットランドが、たい焼きと焼きそばを加えた3つのメニューを季節によって変えていく三毛作の業態を進めていくという。時間帯(季節)毎にメニューを変えていく業態は今までもあったが、それ以上でも以下でもない。つまり、コストパフォーマンスをいかに高めるかという内部の問題解決策の一つである。今顧客から求められているのは、価格の二毛作・三毛作ということだ。例えば、ポイントやマイレッジはほとんどの業種で採用されているが、例えば航空会社が行っているマイレッジはマイレッジを使う特別メニューの他に、カード利用額によってクラスを何段階かに設定し、それなりの特典が用意されている。回数多く、利用金額多く使ってもらえれば、より高いポイントやマイレッジを取得できるという「エスカレートポインティングシステム」の一つである。あるいは一定の利用回数や金額を使ってもらうと、ボーナスポイントがもらえるとか。こうした手法は一時期米国カード会社が実施したものであるが、いずれにせよ「顧客還元」のアイディア競争の時代である。

ここ数ヶ月、サライやダンチュー、ブルータスといった雑誌の特集は、その多くが「食堂」や「下町」、あるいは「カレー」といった日常がテーマとなっている。これら雑誌の着眼点ではないが、「普通が一番」ということだ。つまり、価格も普通ということである。原材料アップで経営が成り立たないのであれば、普通に値上げをすればよい。恐らく、今回の魚秀のような国内産と中国産との価格差をねらった偽装ビジネスに代わって、これからは「売り惜しみ」あるいは「買い占め」、といったキーワードに代表されるビジネスが出てくると思う。しかし、一部にはどうしても欲しいというマーケットは存在するが、多くの生活者は「普通が一番」であり、そんなビジネスは成立しない。そんな知恵を働かすより、「どんな普通がよいのか」を考え、顧客還元する時代だ。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:44│Comments(0)新市場創造
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