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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2014年12月07日

2014年ヒット商品番付を読み解く 

ヒット商品応援団日記No599(毎週更新) 2014.12.7.

2014年は消費増税導入の年であり、数年前の「わけあり低価格」といったデフレ型消費マインドから、同じわけありでも合理的なわけあり価値消費、例えば「最初は少々高くても、結果お得」といった合理的な消費マインドへと進化してきた。そして、消費増税はこの進化を更に加速させている。私のブログを継続して読んでいる方は分かると思うが、この進化は賢明な消費に向かっていると理解すべきである。そして、この賢明さの根底にあるのが、家計支出における消費性向に見事に表れている。1980年代から中間所得層(5分位のなかの2,3,4階級)においてはこの値が70数%台と一定している。つまり健全な家計経営をしているということである。2014年度の消費性向は発表されてはいないが、消費増税+円安による物価高を踏まえた消費、「収入-(消費増税+物価高)=支出」という図式となり、結果消費は押さえることとなる。消費性向も同じような数値、平均消費性向の平均値はほぼ72%前後を示すことになると推測できる。

さて2014年度の日経MJによるヒット商品番付であるが、上期番付の延長線上にあり、あまり新鮮みのあるものとはなっていない。当然のことではあるが、ヒット商品の不作は消費増税が大きな要因になっていることは言うまでもない。ちなみに2014年の年間の主なヒット商品番付は以下となっている。

東横綱 インバウンド消費、 西横綱 妖怪ウオッチ
東大関 アナと雪の女王、  西大関 ハリーポッターUSJ
東張出大関 錦織圭、 西張出大関 羽生結弦
東関脇 格安スマホ、 西関脇 i Phone6
東小結 デミオ、  西小結 ハスラー

顕在化した新市場

やはり2014年度最も注目すべきはインバウンド消費、訪日外国人市場拡大の急進であろう。2013年度にもビザ緩和などによりタイをはじめとした東南アジア観光客が西の大関にはいっていたが、その延長線上に市場拡大がある。5月のブログ「消費増税の壁を超える」にも書いたが、その大きな契機となったのが新消費増税導入にあって唯一前年比1.1%アップを果たした銀座三越の活動である。数年前からの免税品サービスの充実によるもので、その結果訪日外国人による免税品の売り上げが前年同月比93%増と大幅に増えたことがプラス成長に寄与したとのこと。そして、免税品の売り上げが売り上げ全体に占める割合は10%程度と、初めて2ケタ台に乗ったという。
この事実から政府は10月以降免税品の金額を下げ、対象品目も広げ多くのにわか免税店が生まれた。更に、東京の街を歩けばいかに多くの外国人と出会うか実感する。百貨店だけでなく、家電量販店はもとよりドン・キホーテや100円ショップ、あるいはドラッグストアなど多岐にわたる店に外国人が押し寄せている。
更に、京都が米国「Travel+Leisure」誌による人気観光都市ランキングが5位から世界1位になり、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたこともあり、 アニメやコミック、禅、侍、といったジャパンカルチャーのクールジャパンから、食のクールジャパンへと広がる可能性が出てきている。また、米国大手金融会社ゴールドマンサックスのアナリストによれば来年末には1ドル130円という円安に向かうと予測されている。今年度の訪日外国人は既に10月には1100万人を超え、年間では1300万人前後になると予測されている。地方の人には実感できないと思うが、日本の産業構造自体が変わってきているということだ。

久々の物語消費の登場

もう一つの横綱が妖怪ウオッチであるが、妖怪メダルの販売枚数は1月~9月の累計では1億枚を超え一大ブームとなった。この加熱ぶりを表す良き事例については9月のブログ「極端消費の時代」にも書いたが、あの期限切れ鶏肉を使い問題となっていたマクドナルドの期間限定で発売された「ハッピーセット」のキャンペーンについてである。そのマクドナルドの店頭には子供達の行列が見られ、違う意味での話題となった。実はそのハッピーセットにはバンダイナムコの人気コンテンツ「妖怪ウォッチ」「アイカツ!」の限定カードが付いたもので「おまけ」を求めての行列であった。
「妖怪ウォッチ」は、「ポケモン以来の社会現象」とも紹介されるほど子供たちの間で大ブームとなっているコンテンツであるが、1980年代に最初の社会現象となった「ビックリマンチョコ」を想起させるほどのヒットである。

心理効果を更に必要とする時代へ

東西大関の「アナと雪の女王」と「ハリーポッターUSJ」は周知のウオルトディズニーとユニバーサルジャパンという2大コンテンツ企業によるものであるが、ある意味消費増税に物価高という重苦しい気分が広く横溢し、先行き経済もまだまだ不透明な時代ならではのヒットと言える。こうした時代に求められていることは、明るさと楽しさであり、ファンタジックな世界として提供され、共に大ヒットとなった。
また、こうした気分を軽減してくれたのが、東西張出大関の錦織圭と羽生結弦である。この二人の活躍による経済効果ということよりも、暗くなりがちな社会に少しの元気をもたらしてくれた気分効果と言えよう。その効果は新語・流行語大賞となった日本エレキテル連合による「ダメよ~ダメダメ」と同じ心理効果である。
消費を促す現場という視点に立てば、未来塾で取り上げた砂町銀座商店街で学んだように、看板娘・名物オヤジがますます必要になったということだ。

デフレ型商品の進化

東西関脇の格安スマホと i Phone6は、いわば単機能(低価格)商品と高機能(高価格)商品という図式となるが、前者はスマホを使いこなせないシニア層に対し、後者は根強いマックフアンを中心とした若者世代という明確なスマホ市場の棲み分けをつくったことに意味ある。
また、東西小結のデミオとハスラーであるが、昨年からの傾向として挙げられるのが、新車販売に見られる明確な潮流である。普通車・小型車が売れず、軽自動車が売れ続け、販売台数トップ10のうち軽自動車が7つ占めるといった状態が続いている。この発端は3年ほど前のホンダのN BOXで燃費の良さばかりかそのデザイン性からヒットした車である。以降、こうしたデフレ時代のコスパ型商品として軽自動車が売れてきたが、デミオ(マツダの小型車)はディーゼルエンジン搭載という軽並みの燃費という新しいエコモデル車であり、ハスラー(スズキの軽)は多目的スポーツ車でワゴンタイプというこれも新しい発想による車であり、共に小型・軽自動車の進化系自動車である。ある意味、デフレ時代のコスパ型商品の進化系自動車と言えよう。


ここまでやるか、超専門店の出現

株高という高揚感は消費増税によって吹き飛び、従来の家電製品やファッションといったヒット商品はほとんど誕生してこない1年であった。それら商品は昨年から今年の3月にかけての駈け込み消費で購入済みとなっている。消費増税が無ければ、大分購入しやすい価格帯にまで下がった4Kテレビなどがヒット商品になっていた筈である。
ところでヒット商品番付には載らないが、今東京では面白い消費現象が出てきている。ちょうど2年ほど前の「俺のフレンチ銀座」の行列を思い起こさせるような話題の店が銀座1丁目にオープンしている。その店は食パン専門店セントルザ・ベーカリーで2013年6月にオープンさせているがほとんど口コミだけで広がり1年後には行列店となったいわゆる高級食パンの超専門店である。美味しく、しかも自分好みの食パンを食べるためのバターやジャム、更にはトースター選びなど、こだわりを超えた「これでもか」といった専門スタイルが人気となっている。
ここ数年、東京では小さな手作りパン工房が至る所でオープンし、自家製酵母や小麦粉の違い、パン生地に練り込んだ素材の違い、といった程度の「違い」では最早差別化できなくなってきたという背景がある。例えば、サラダ専門店などはデパ地下をはじめ多数存在するが、ポテトサラダ専門店はまだまだ少なく注目されるといった市場環境に入ってきたということである。こうした専門店の進化は既にラーメン業界が果たして来た世界であり、この傾向は他のメニュー分野においても波及していくということである。リーマンショック以降、居酒屋をはじめ「ここまで安いか」といった価格の違いから、メニューそのものの違い競争へと変化してきたということである。つまり、価格競争からオリジナルメニュー競争への転換である。

更に垣根を越え、業種・業態の区分の無い時代へ

過去もそうであったが、市場の垣根を超える台風の目となっているのがコンビニである。コンビニ発展の歴史を見ても分かるが、常に顧客変化に応え、業態を変え、新たな商品やサービスを誕生させてきた。最近のヒット作はチルド弁当とコンビニカフェである。特に、各社力を入れているのがカフェでこのカフェと対にした商品としてドーナツを位置づけている。若い女性もさることながら、ファミリー層をも狙った商品戦略であると思う。つまり、ミスタードーナツやクリスピークリームドーナツなどの専門業態との垣根が無くなるということだ。
また、数年前からファミレスの戦略として朝食メニュー市場を開拓してきたが、更にサラリーマン向けの夕方からの「ちょい飲み市場」の開拓に力を入れている。消費増税のこともあり、居酒屋のようなヘビーな飲み方ではなく、帰宅前の気分転換としてチョット飲んでという市場である。数年前、激安居酒屋で話題となった市場の垣根を超えたファミレスの生き残り策、あるいは日高屋といった中華食堂までもが、ちょい飲み市場に参入している。つまり、価格で勝負してきた居酒屋は次なる「何か」の創造が問われているということだ。(続く)



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