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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2014年11月25日

不器用な昭和が、また一つ終わった

ヒット商品応援団日記No598(毎週更新) 2014.11.25.
 
昭和がまた一つ、不器用な俳優高倉健さんが亡くなった。亡くなって多くの人が高倉健という人物、素の姿を含め語っているので、ああそうだなと思うことも多く、同じことをブログには書こうとは思わない。ただ高倉健さんは3年ほど前に亡くなったミュージシャンの柳ジョージの大フアンであったことを想いだした。そして、柳ジョージもまた不器用であったことを思うと、互いにどこかで共感することがあったことと思う。
若い世代にとって柳ジョージといってもほとんど知らないと思う。R&Bのミュージシャンであるが、独特なしゃがれ声で歌うブルースは高倉健さん同様誰も真似することができない固有の世界であった。私たちの前に現れたのは時の不良グループと言われたザ・ゴールデンカプスのメンバーの一人であった。1970年に柳ジョージが参加するが、柳ジョージを始め4人が大麻取締法違反で逮捕される。事件の影響もあってカップスは72年に解散する。柳ジョージにとってこのドラッグ事件の挫折は大きく、後に1975年に柳ジョージ&レイニーウッドのバンドメンバーにはドラッグはしていないことを前提にメンバーの参加を認めるという徹底ぶりであったという。

R&Bをベースにした音楽性は、当時としてはまさに異端であったが、1979年に萩原健一主演のテレビドラマ「死人狩り」(1978年度版)のテーマ曲に使われた「雨に泣いてる‥」が大ヒットする。以降、「酔って候 」といった無頼酒の詩 にあるようにそんな孤高の世界、ブルースを歌っている。高倉健さんが任侠、ヤクザ映画といういわばアウトローを演じていた異端児スタートとまさに同じである。健さんのそれは演じる世界がアウトローであったばかりか、不条理に耐えかねて切り込むスタイルの様は殺陣師のそれではなく、これも独自なもので一種の様式美をもつものであった。

健さんもそうであったが、柳ジョージも謙虚な言動・物腰で知られている。「自分がだらしないので、歌だけはカッコイイ男の歌を歌ってるんです」と答えていた。そんな昭和のかっこ悪い男の復権を願ったのが、あの作詞家阿久悠さんであった。阿久悠さんは「時代おくれ」という曲を若くして亡くなった河島英五に歌わせている。1986年の曲で時代はバブルへと向かっていく時代にあって、”時代おくれの男になりたい”という歌詞に込めた思いは昭和の寡黙で不器用な男の姿を描いた曲である。その歌詞であるが
”目立たぬように、はしゃがぬように
似合わぬことは無理をせず
人の心を見つめつづける
時代おくれの男になりたい・・・・・”「歌謡曲の時代」阿久悠 (新潮文庫より)
昭和男の素の世界、寡黙でシャイな男の姿であるが、ごく普通の人間模様を描いた曲である。晩年、阿久悠さんは「昭和とともに終わったのは歌謡曲ではなく、実は、人間の心ではないかと気がついた」と語り、「心が無いとわかってしまうと、とても恐くて、新しいモラルや生き方を歌い上げることはできない」と歌づくりを断念する。歌が痩せていくとは、心が痩せていくということである。

ただその平成の時代にあって、阿久悠さんの後を引き受けている作曲家であり歌手でもあるすぎもとまさとが歌う「吾亦紅(われもこう)」は、昭和から平成へと変化する時代に追いついていこうとする男を描いている。北海道のライブコンサートで歌ったところ、その母親への想いと旅立ちに観客の多くが号泣したという曲である。「吾亦紅」の歌詞はまさに時代おくれの昭和男の旅立ちの歌である。
”親のことなど 気遣う暇に
後で恥じない 自分を生きろ
あなたの あなたの 形見の言葉
守れた試しさえ ないけれど
・・・・・・・・・・
来月で俺 離婚するんだよ
そう、はじめて 自分を生きる
・・・・・・・・・”

「網走番外地」などの任侠映画から「幸福の黄色いハンカチ」を転換点に「鉄道員」や遺作となった「あなたへ」を通底するものがあるとすれば、それは「時代との向き合い方が不器用で寡黙な男」となる。全てが過剰な時代であるが故に、この寡黙さのなかにざわめく言葉、無くしかけているものに気づかされる。それを昭和という時代おくれを通し、日本人とか男といったアイデンティティを、あるいは生き様といった生ききる人生を想起させてくれた。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 14:59│Comments(0)新市場創造
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