プロフィール
ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
インフォメーション
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 16人

2008年06月01日

ブランドのこれから

ヒット商品応援団日記No270(毎週2回更新)  2008.6.1.

ブランド論となると、商品ブランドは勿論のこと、国家ブランドから地域ブランドや街のショップブランドまで多様で多面な要素をもつ大きなテーマとなるので、ここでは身近な商品ブランドについて取り上げてみたい。ブランドという考えがビジネスに導入されてきた背景には、同じ機能を持つ商品がA社では100なのに、何故B社では120なのかという心理的価値に着眼してきたことによる。ちょうど、モノ不足の時代を終え、豊かさを求めるようになった1990年代初頭から急速に浮かび上がってきたテーマである。前回も取り上げた付加価値を生む最大のものが、ブランドであり、無形のブランド資産として、マーケティングやビジネスの主要な課題となった。つまり、心理的な「違い」をどう創造していくかが経営課題になったということだ。

ブランド論が盛んになった背景は、極論ではあるがこの「違い」を求める顧客が市場の中心を占めるようになったからである。資本主義の本質は、あらゆるものを商品化していくことであり、以降エリア(場)ブランドや方法・手法(やり方)ブランド、あるいは人(あの人だから)ブランド、更には時(この時)ブランドなど無数のブランドが市場競争をすることとなる。過剰な情報が行き交う時代にあって、あっと驚くようなネーミングやデザインによるブランドも生まれてきた。また、あらゆるものが情報を発信できる時代では、商品ばかりか街も人も勿論店舗も何もかもが「違い」を発信するメディアとなる。これを劇場化社会と私たちは呼んできた。

ブランド創造という言葉がビジネス舞台から消えていった最大の背景は顧客の成熟による。個性化というキーワードが1990年代半ばから一般化していく。この個性化とは、ブランドという心理的物差しから、顧客自身による好みへの変化である。好みは多様であり、ブランドもその中の一つだけとなる。「違い」は、顧客自身が学習体験に基づく美的感性によって、自ら創る方向へと大きく変わった。これがセレクトショップやマイブームへとつながっていく。極論ではあるが、顧客がクリエーターに、デザイナーになったということだ。これが顧客の成熟といわれている主たる内容である。


そして、この「違い」が情報という表層だけをなぞった場合、その顧客心理は一過的となる。これが情報消費の本質である。チョット面白いネーミング、デザイン、スタイルだけでは継続は難しい。一過的という課題を解決するには、常に違いという「変化」を市場に投入しなければならない。この仕組みを週単位で実行し、今なお「変化」を提供し続けているのがあの渋谷109である。
数年前話題となった隠れ家ブームも一種の「違い」を求めたマイレストランであり、最近の百貨店や商業施設が地方に埋もれた無名の商品や店を出店させているのも、この「違い」を表現するためである。しかし、この「違い」を評価するのは成熟した顧客であり、答えが出るのに時間はかからない。継続できるか、退店せざるを得ないかの分かれ目は商品MD力以外にはない。

ところで、この「違い」をブランドにまで高めようとした試みが残念ながら破綻した分かりやすい事例がある。その事例とは「大山どり」のことで、以前から三大地鶏の次の地域ブランドとして候補に挙がっていた。知る人ぞ知る地鶏として、生産量が少ないことから、その希少性に支持があった商品である。地元紙や関係者によると、破綻の理由は都市市場でのブランド確立をはかるために生産&流通の拡大をはかったが、鳥インフルエンザ問題による相場の下落や飼料の高騰、特に都市において価格が通らなかったことから資金繰りに困り昨年秋破綻したとのこと。ここで着目しなければならないのは、ブランド化できれば付加価値として収益率が上がると認識していたことにある。「違い」が明確に分かる嗜好性の高い商品の場合は確かに高い価格は通る。しかし、こうしたマニアックなコレクション市場においては該当するが、食という日常における商品の場合はその多くは通らない。三大地鶏と大山どりをブラインド(目隠し)テストして、その違いが分かる顧客・マーケットはどれだけ存在するのかということである。

少し前に「新富裕層市場」について触れたことがあったが、アパレルやバッグ、靴といったファッションブランドを支えていたのは崩壊した中流市場とその流通を担っていた百貨店であった。多くのマーケッターは新富裕層市場を構成する独身キャリア女性とDINKS(子供をもたない二人世帯)という2つの市場を梃子にブランド再創造を考えていると思う。恐らく固有である文化価値、芸術価値がブランドの中心を占めていくことになる。そして、その先行するブランドとしてはサブカルチャーの中からではないかと予感している。(続く)


同じカテゴリー(新市場創造)の記事画像
マーケティングノート(2)後半
マーケティングノート(2)前半
2023年ヒット商品版付を読み解く 
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半 
春雑感  
同じカテゴリー(新市場創造)の記事
 マーケティングノート(2)後半 (2024-04-07 12:53)
 マーケティングノート(2)前半 (2024-04-03 13:42)
 2023年ヒット商品版付を読み解く  (2023-12-23 13:30)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半 (2023-07-05 13:15)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半  (2023-07-02 14:01)
 春雑感   (2023-03-19 13:11)

Posted by ヒット商品応援団 at 13:49│Comments(0)新市場創造
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
ブランドのこれから
    コメント(0)