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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2014年06月25日

未来塾(6)「商店街から学ぶ」砂町銀座編(後半)


未知を楽しむ食べ歩きツアー未来塾(6)「商店街から学ぶ」砂町銀座編(後半)

砂町銀座商店街というキーワードでネット検索すると多くのブログに出会うが、そのほとんどが商店街を歩きあれこれチョットづつ食べ歩きをする、そんな出来事をブログにアップしたものが多い。しかも、その多くは若い世代でデートスポットとして活用している。
そんな顧客用であると思うが、焼き鳥1本でも気軽に買うことが出来、お店のおばちゃんも歩きながら食べられるようにしてくれる。あるいは店の脇にテーブルを置き、そこで食べられるようなそんな工夫をする店もある。
時代に取り残された商店街どころか、今やトレンドの都市商業観光、しかも昭和レトロ観光となっている。若い世代にとってはOLD NEW(古が新しい)である。東京にはまだまだ「未知」の発見があるということだ。

食品だけでなくファッション販売店やチェーン店も
未来塾(6)「商店街から学ぶ」砂町銀座編(後半)
食品が中心の商店街であるが、日常利用の激安ファッション店もある。勿論、シニア向けのの専門店であるが、これも小さな商圏のなかで経営として成立していると思う。
他にも呉服店、眼鏡店、美容院、・・・・・・一通りの店が軒を連ねている。そうした店の一角にはコーヒーチェーン店のドトールもある。

また、イオンの小型スーパーまいばすけっとも出店している。更にはあの100円ショップのダイソーも何十年も前からあったかのようにとけこみ、商店街の一角を構成している。


(注)文中にある商品価格には一部増税前のものが含まれています。



 砂町銀座商店街に学ぶ


1、モノマネをしない商店

情報の時代とは類似をしようとすれば簡単にできるモノマネの時代のことである。その象徴であると思うが、コピペ(コピーペースト)は博士論文どころか、ネイチャーやサイエンスに提出する論文にすら活用される時代だ。私たちは過剰なまでの情報に囲まれているが、一番重要なことはそれら情報をどのように使い新しい何かを生み出すかである。
未来塾(6)「商店街から学ぶ」砂町銀座編(後半)
「モノマネをしない」という言葉からは、今は低迷・苦戦しているソニーのソニースピリッツを思い浮かべる。周知のように、創業者井深大氏、盛田昭夫氏以来、引き継がれているのが「ソニースピリッツ」。 誰も踏み込まない「未知」への挑戦を商品開発にとどまらず、あらゆる分野で実行してきた企業である。今や当たり前のこととなったロボット開発であるが、ソニーが最初に作ったAIBOに触れて、当時のプロジェクトリーダー土井氏に対し、井深氏は“土井君、創造性とは人に真似されるかどうかで評価される。人に真似されるものを作りなさい”と。
こうした考えは、以降類似を超えるオンリーワンやオリジナリティ、あるいは本物志向といった言葉となって今なお続いているが、真似をされてもなお、更に真似をされるための「何か」を創り、磨きつづけなければならない時代である。
ソニーを持ち出すまでもなく、仙台秋保温泉のスーパー「さいち」のおはぎもそうであるし、「街から学ぶ」(吉祥寺編)でも取り上げた40数年間行列を欠かしたことの無い羊羹の小ざさ、そして砂町銀座商店街にも小さな名物総菜、他には無い煮卵やシュウマイ、おでんに焼き鳥が私たちを迎えてくれている。
このことは今なおビジネスに関わる全てのことが目指さなければならないことである。かくいう私たちマーケッターも心しなければならないことである。

2、多様化する都市商業観光の一つとして

「都市商業」に一度は行ってみたいと、観光地としての魅力を感じる人が多くなっている。都市に住む人以外の多くの人、全国からそうした商業に人が集まるのは何故であろうか。人が集まるには必ず未だかって見たことも無い、経験したことの無い、一度経験してみたいという理由から「観光」的集客が始まる。私の集客のキーワードとしていうならば、新しい、珍しい、面白い、という興味関心が都市観光のコンテンツとなる。
東京スカイツリーや関西のあべのハルカスはその日本一の高さ・眺望が観光的興味を刺激する。そんな「未知」への興味関心だけでなく、生活者は日常のチョットした「変化」であっても、興味は必ず持っている。例えば、砂町銀座商店街で言えば、お惣菜の「さかい」の名物はシュウマイである。そのシュウマイの横にはマグロのメンチカツがある。手頃な値段でもあり、”一度食べてみるか”といった気持ちは起きるものである。砂町銀座商店街の場合そんな小さな未知への「お試し」が至る所で行われている。これも「食べ歩きツアー」が組まれる理由の一つとなっている。
過去「知ってるつもり?」という長寿TV番組があった。あるいは「世界ふしぎ発見」は今なお高視聴率を上げ、継続されている。実は知っているようで知らないことはいくらでもある。「街から学ぶ/秋葉原・アキバ編」でも書いたが、サブカルチャーの街といってもその世界は極めて広く深い。フィギュア(人形)一つとっても、例えば懐かしい不二家のペコちゃん人形から最新アニメのフィギュアまで、恐らく数万点以上になる。興味関心は入り口で、その先へ行くと誰もがオタク候補(お気に入り)ということになる。砂町銀座食べ歩きツアー参加者は「昭和レトロ探検隊」、あるいは「百年商店街探検隊」といった表現につながる話としてある。興味関心を喚起させる手法の先駆者はあのドンキ・ホーテであるが、熱帯雨林陳列という手法、宝探しを楽しんでもらうことを提案し今なお成長を果たしている。こうした「未知」を楽しむ芽をどう育てていくかがこれからの課題であろう。

3、「安さ」は日常となり、・・・・・一つの「豊かさ」でもある

「安さ」だけを比較するのであれば、砂町銀座商店街以外にも数多く激安店はある。「安さ」を売り物とするもう少し大きな商店街という視点に立てばアウトレットも激安モールとなる。三井アウトレット木更津が一周年を迎え、その想定以上の売り上げ結果(当初目標であった320~340億円を大きく上回る410億円強の売上)について以下のようにブログに書いたことがあった。

「来場客の7割を都内や神奈川から、残り3割を千葉から集客するとしていたが、実際には5割近くを県内の地元客が占め、しかも地元客は来場頻度が高く、売り上げ拡大につながったと説明があった。その記者会見でTVレポーターからアベノミクス効果によるものですかとの的外れな質問があったが、さすがに担当者も苦笑していた。想定以上の売上を残せたのは、<アウトレット>という業態が日常利用業態へと広がったということである。少し短絡的表現をするならば、アウトレットというデフレの象徴である業態がより浸透し日常化したということである。結果、地元顧客の集客が多く売上増はこうした顧客によってつくられたということだ。」

未来塾(6)「商店街から学ぶ」砂町銀座編(後半)

砂町銀座商店街が地元客の日常価格に沿ったものとしてあるのに対し、アリオ北砂は休日を中心とした広域集客を目指し、中途半端なMD編集(テナントリーシング)や回遊性を考えないゾーニングなどを行い、当初目標の売り上げを大きく下げたのと対照的で砂町銀座商店街を歩いて実感するのだが、「安さ」はあっても単なる激安だけではない。日常利用価格としての安さがあるということである。商品によってはアリオ北砂の方が安い商品もある。それを可能としているのがモノマネをしない名物商品である。
そして、商店街に面している専門店にあと1~2店あったらいいなと思っていたパンや蕎麦は実は近隣住宅地のなかにしっかりと存在している。北砂の生活者にとって過不足の無い日常が作られている。こうした「豊かさ」こそが砂町銀座商店街の固有の価値であり、結果競争力となっている。

4、楽しい回遊導線

未来塾(6)「商店街から学ぶ」砂町銀座編(後半)
いわゆる町の商店街の場合、通りに面した地権者が商売を行い商店街を形成しており、新しく作るショッピングセンターとは異なる。10数年前の導線の考え方は、例えば入口からレジ・出口までを買い物目的に合わせ一巡するいくつかのコースを設定する。私たちはそうしたコースを回遊導線と呼ぶが、そのコースをたどることで買物が効率よく完結するように作られる。しかし、必要に迫られた買い物以外にも気になる商品を求める時代では関連商品や時々の変化を提供すること、あるいは休憩を含めた時間の楽しみ方をも商業は求められてきた。そして、商店街や商業施設を回遊し、滞留時間が長ければ長いほど消費金額が増えることが分かっている。
未来塾(6)「商店街から学ぶ」砂町銀座編(後半)

砂町銀座商店街は多くの町の商店街と同じように通りに面した商店によって構成される。つまり、面での構成ではないため、回遊性は乏しい。しかし、「食べ歩きツアー」を始めとした商業観光が自然発生し、そうした回遊性を促す店舗配置といったゾーニングが実は自然に作られている。明治通りに面したところには行列の出来る魚勝があり、もう一方の丸八通り入り口にはおでんの竹沢商店がある。商店街の端と端に集客の磁場(アンカーテナント)がある。そして、半ばには銀座ホールといった来街者が食事や甘味を楽しむ社交場がある。全長670mという商店街の長さは、北砂住民以外の人にとって、直線としての長さを感じさせない楽しい回遊導線となっている。

今一度、町の商店街を学んでみようと思ったのも漠然ではあるがショッピングセンターに欠けているものを感じていたからでもあった。それは歩いて5分ほどの所にあるアリオ北砂という巨大商業施設には無いもので砂町銀座商店街にはあるものがより鮮明に感じることとなった。それは一言で言えば、必要に迫られた消費以外のもので形の無い「生活文化」のようなものであった。生活文化は人によって創られており、その人とは商店街のおばあちゃんであり、一言声をかけて商品を買う顧客によって創られたものである。

都心・地方問わず商店街がシャッター通りとなってしまう理由の一つがこの生活文化の喪失にある。商店街はモノの売り買いにとどまらず、多くの人が交流し合うことによって名物商品が生まれ、看板娘も創られる。ある意味コミュニティの中心の「場」として商店街が存在しているということだ。コミュニティは一般的平均的なものではなく、時間をかけて交流し合う人々によって創られる、つまり固有のものとしてある。砂町銀座には砂町銀座固有の生活文化があるということである。この文化を昭和レトロ、懐かしさ、あるいは人間くささという言葉をもって表現され観光地にもなっている商店街である。前回の「小売りから学ぶ」で取り上げた横浜港北ニュータウンとは対照的である。砂町銀座商店街がストック(文化)に特徴があるとするならば、港北ニュータウンの商業施設はフロー(変化)が特徴となっている。これからもそうした多様な商業施設のいくつかを取り上げてみたいと考えている。(続く)



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