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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2014年05月18日

未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(前半)

ヒット商品応援団日記No580(毎週更新) 2014.5.18. 

今回の未来塾は「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編を公開します。少子高齢社会にあって、港北ニュータウンは多子低年齢市場という東京郊外ならではの商圏です。この子育てファミリーを対象市場とした商業施設が乱立するなかでの「小売り」です。消費税導入を踏まえた小売りならではの「視座」と「ノウハウ」を学びます。

未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(前半)




小売りから学ぶ

時代の観察

港北ニュータウン


■消費税8%

昨年末までは97年の消費税増税に比べて駆け込みは少ないだろうと読む関係者が多く、実際歳末商戦ではまだ動きが鈍かった。しかし3月は97年同様20日あたりから駆け込みが顕著になり、前年同月比120~130%と予想を上回る需要が発生した。特に百貨店の多くは130%前後と健闘したが、案の定4月に入ってから10~20%減少。GW明け時点でのプラマイがひとつの評価となるだろうが、概ねプラスのまま平時に戻っていくのではないかと強気の読みをする事業者は多い。
今回は総額表示が義務付けとならなかったことから、価格表記の対応が分かれた。お互い探りあいの状態が続き、3月に入ってもスタンスを決めきれずギリギリまで悩む零細事業者も少なくなかった。結果、最も多い表記方法は税抜を大きく、税込を小さく表記する方法だが、一見以前より安くなったように勘違いする生活者も多い。一方、百貨店などの高額品はもともと単価が高いため従来どおり総額表記も多く見られる。ややこしいのは同一店内に税込と税抜の札が混在している店舗だ。1,980円などの目玉商品は総額だが、他は税抜(税込)、しかし商品についているタグプライスは従来の総額表記などといった生活者の理解力を試すかのような店舗もある。
価格訴求が強い家電量販の新聞折込で比べてみると、ヤマダは税抜価格の隣に税別と表記し総額表示なし、エディオンは税抜が大きく、税込を下に小さく、そしてノジマは税込のみと対応が分かれる。ノジマは店頭でも総額表示を徹底しており、またそれを生活者寄りのスタンスとして店内POPでも訴求している。
価格の決定権が本国にあるといわれるAppleもこれまでの総額表記から税抜表記に変更した。増税直前の3月18日に旧モデルのiPad(第4世代)を廉価版として税込39,800円で再発売したが、4月になると税抜37,800円に変更され、実質約100円値下げされた。
反対に増税時に税抜価格や税込価格をキリのよいものに変更し、わずかながら値上げしたものも見受けられる。4月1日付けでメーカーから価格変更の案内があり、作り替えたばかりのプライスカードやPOPが無駄になったものも少なからずあった。
また、増税のタイミングで価格を変えると便乗値上げといわれかねないと、3月下旬までに値上げしたメーカーもある。これも小売側は短期間しか使えないプライスカードを作る羽目になり、また生活者にとっても3月に値上げ、4月も増税で再び総額が上がるという2段階値上げしたような感覚を与え相当な割高感を伴った。
いずれにしても、大手小売業からの反発もあり総額表記中心とならなかったことは、生活者に対しては非常に不親切な状況を生みだしたといえる。生活者が今の表記に慣れる頃にはこの総額表記を義務付けない特例が終了するため、再び混乱が起きる可能性も残されている。

■少子高齢化ならぬ多子低年齢化の街

筆者が出店している横浜市の港北ニュータウンは初期の分譲がバブル末期に始まった比較的新しい街だ。高齢化が進む多摩ニュータウンとは町の様相が異なる。中心となる横浜市都筑区の人口は平成26年1月時点で21万人弱、平均年齢40.1歳と横浜市18区の中では最も若い区だ(横浜市全体では44.4歳)。

未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(前半)



平均年齢は4歳しか変わらないのでインパクトは少ないかもしれないが、年齢別分布をグラフにするとその特異性が良くわかる。日本で最も多い団塊の世代が少ないのだ。横浜市全体では団塊ジュニアを100としたとき親である団塊世代は約95だが、都筑区では団塊ジュニアのほぼ半分しかいない。(上記図1)

ベビーカーの街

都筑区にはニュータウン開発以前からある町名と開発後に生まれた町名が混在している。例えば南山田町は開発以前、南山田○丁目は開発後だ。開発以前からあるエリアは高齢化が進み、横浜市の平均に近い年齢分布だが、開発後のエリアは20代後半から40台前半の子育て世代が多く都筑区の平均年齢よりもさらに若い街となる。かつてテレビ「アド街ック天国」で初めて港北ニュータウンが取り上げられたときは、「ベビーカーの街」というキャッチフレーズが付けられたほどベビーカーの往来が目立つ。
未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(前半)
バブル期に決して安くはなかった住宅に40代~50代前半で移り住んできた人はすでに定年を迎え、街の平均年齢を持ち上げているはずなのだが、それ以上に20代後半~30代の子育て世代の転入が多く平均年齢はあまり上がっていない。

当初は商業施設もなく、あるのは計画された広大な保存緑地帯とそれをつなぐ10数kmにおよぶ保存緑道という優れた自然環境が魅力だったが、平成10年頃から百貨店核の大型商業施設が次々と進出し、大店法改正前の駆け込みである平成19年~20年にはさらに4つの商業施設が加わり、超・オーバーストアの様相を帯びてきた。
未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(前半)
商業施設側がボリュームゾーンである子育てファミリーをターゲットにしたリーシングをするのは理解できるが、物事にはバランスというものがある。主要な商業施設が同じ世代、同じマーケットを主戦場にしたため、ファッション、コスメ、グルメ、スイーツ、インテリアなどが子育てファミリーに偏り、可処分所得が比較的高い年配層に対応するテナントが少なくなってしまった。ついには核であった百貨店が事実上撤退し専門店に転換されると、そこにも同系のテナントを誘致するため、年配層は行き場を失い、買回り品はたまプラーザや二子玉川、横浜といった近隣商圏に通うようになる。こうしたことから田園都市線エリアや都心へ転出するリタイア層も少なからず現れはじめた。バブル期物件は築20年以上経て割安感が出てきており、転出したリタイア層に代わり30代ファミリーがリフォームをして暮らし始めている。
中心部であるセンター南駅(2012年乗車客数:約37,000人)、センター北駅(同34,000人)は約1kmしか離れていないためホームから隣駅のホームが見えるほどだが、両駅の間には早淵川が流れているため商圏が重なりつつも異なる商圏を形成している。

商業施設の開発競争

未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(前半)その2駅周辺に店舗面積4万平米以上ある3つの大型商業施設をはじめ10の施設が顔を突き合わせるように建ち、南北戦争などと揶揄されるほど「勝ち組不在の消耗戦」を繰り広げてきた。その結果、南のA館から北のB館に移転するといったエリア間移動のテナントが出始め、さらには同エリア内でC館から隣のD館へ移転するという、館を見限るかのような「仁義なき戦い」も頻繁に起きている。

未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(前半)

年齢分布の特異性もあるが、属性の偏りも見られる。ファミリー中心なので、社会人や学生の単身世帯が少なく、ましてや「おひとりさま」はほとんどいない。むしろ30代子育てファミリーだらけの休日は、単身者やお一人様には居場所が少なく、求めているものも手に入りにくいだろうと思う。
郊外で複数の大型商業施設と住宅地が近接している街として吉祥寺や町田などがあるが、どちらも幅広い属性の人が混在しており、それが街のMDを広げている。顕著に現れるのは街を歩く人のファッションの幅だろう。近い属性に偏るとヒットするものはドンと売れるが、売れないものはほとんど売れず、ロングテールのテールは短くなる。
ファストフード店を例に挙げると、ニュータウンのエリア内にマクドナルドは実に9店舗、吉野家や松屋はロードサイドに各1店舗あるだけで駅の周辺は未出店。同様にリーズナブルな外食としてはサイゼリアが6店舗、王将、日高屋はともに未出店。スターバックス4店舗に対しドトールはGS併設店が1店舗のみ。これだけでもこの街の性格が窺えるはずだ。

2011年春にセンター南の港北東急SCの中に109アウトレットがオープンした。その時点で109はピークアウトしており外資ファストファッションを相手に苦戦してはいたが、郊外にアウトレットを開業する意味合いはあったように思う。ただし、港北ニュータウンではなかった。残念ながら2年を待たずにクローズしてしまう。
前述のように属性に幅がないため、もともと109ファッションを身に着けて地元を歩いている子はほとんどいない。母親が許さないということもあるだろう。開業当時こそ日頃横浜ビブレあたりで購入しているような女の子達が来ていたが、館の中で浮いた存在となり、さらに渋谷109に比べ品揃えや価格設定が甘いため次第に来なくなった。可哀想なことに109ファッションに身を包んだ店舗スタッフは、平日、自分の母親くらいの女性客に対して商品案内をすることになる。

吉祥寺や町田と異なるもうひとつのポイントは商店街が存在しないことである。田畑や雑木林を更地にして作った街なので、路面店から発展するというフローをたどっていない。何もないところに幹線道路が引かれ、市営地下鉄ができ、商業施設が建ち、それから路面店が生まれた。未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(前半)

計画都市なので車道と分離した歩行者専用道路が広く分布している。生活者には優しい設計なのだが、路面店にとっては商売がしにくい構造である。また、商業施設の徒歩圏内に住んでいても車で来館し、館から一歩も出ないまま帰る人が多いため、周辺の路面店があまり潤わないという傾向もある。車社会なので道路に面した路面店は女性や年配者のドライバーでも入りやすい駐車場が必須となる。駐車場が弱いコンビニなどはほぼ淘汰されたといっていいだろう。
未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(前半)
未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(前半)

開発初期には幹線道路に面した大きな区画に企業誘致が行われ、大手企業の研究所や研修施設などが並んでいたが、2000年代に入った頃から売却する企業が増え始め、リーマンショック後は加速してマンションに建て替えられた。駅周辺は大型商業施設を除くと、地権者が等価交換で得た小区画の土地が多く、賃貸用のペンシルビルが立ち並ぶため法人事業所も少ない。つまり企業が少ないため、平日の昼間は子育てママとリタイア層が大半という街になる(スーツ姿の女性は希少な存在)。アフタータイム需要が少ないため、居酒屋チェーン店の進出が限られており、駅前でも赤提灯やカラオケの看板などは見られない。
逆にボリュームゾーンである子育てファミリーに合うコンセプト、MDを持つテナントにとっては出店意欲を刺激するエリアとなり、ベビー用品ではアカチャンホンポ、ベビーザラス、トイザラス、西松屋と揃い、子供服もブランド物からパシオス、しまむらまで、ファニチャー&ホームセンターはニトリ2店舗、コーナン2店舗、くろがねや、イケアなど、100円ショップはダイソー4店舗、セリア2店舗、大型~中型書店も5店舗以上ある。過去に全店中1位になったことがあるテナントとしては、ユニクロ、サーティワンがあり、トイザラスも2位だったことがある。贅沢を言わなければ、何でも揃う街といえるだろう。
平日の昼間人口は夜間の約1/4なので、土日の来館者数は多いところで平日の4倍。フードコートなどは巨大な保育園状態となり、席を確保するのも困難となる。

また、子供が多いので教育産業が活発だ。私立中学への進学率も横浜市の中では青葉区についで高く約25%。4人に1人が私立中学に進学する(横浜市の平均は19%)。塾などの新聞折込は月曜日に集中しやすいが、多いときは15枚以上入っている。進学塾だけでなく、ダンススクール、熊川哲也のバレエスクール、水泳、音楽スクール、理科教室、幼児教室など幅広い。住居費の次に教育関連費が高い家庭も多いのではないだろうか。

最後に、都筑区で忘れてはいけないのが農業。横浜市の中では田畑面積で2位、原野は1位、そして農家数でも1位である。(続く)
*保存緑地と緑道「グリーンマトリックス」
未来塾(5)「小売りから学ぶ」港北ニュータウン編(前半)







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