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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2008年03月26日

極時間

ヒット商品応援団日記No251(毎週2回更新)  2008.3.26.

今年も森山直太朗の「さくら」が卒業式で歌われ、桜前線が北へと上がってきた。ところで、お花見には梅見、桜見、桃見の3回あるが、なかでも日本人が一番好きなのは桜見だ。開花から1週間で満開となり、瞬く間にその美しい花を散らす、そんなあでやかではかない桜は日本の精神文化につながっていると思われてきた。確かに多くの人はそのように桜を見てきているが、実は庶民の間で花見が盛んになったのは江戸時代中期からであった。今日の桜である染井吉野は幕末から明治時代にかけて開発された桜で、それまでは大振りで色の濃い山桜であった。江戸時代の人達は梅見、桜見、桃見の3つの花見を愛でることで「春」を満喫していた。

江戸時代に園芸が盛んになったきっかけは三代将軍家光で、植物に傾倒し、吹上御殿を花畑にするほどであったという。庶民が住む長屋でも植木や鉢植の花が飾られ、園芸に関する本も200冊以上発刊され、どれもベストセラーになったと言われている。
植物、とりわけ花を生活に取り入れるという文化度は当時の世界でも群を抜きんでていた。江戸時代の園芸は、椿、ツツジ、菊、楓(かえで)といった植物が中心であった。観賞用として渡来した月見草は夕方の咲き始めは白色であるが、翌朝しぼむ頃は淡いピンク色となる。花を生命美の象徴であると考えられてきたのも、こうした時と共に命があるからだ。幕末の頃からは朝顔がブームになる。朝顔も改良され、昼顔なども生まれ、花の咲くこの「時」、一瞬の美学といったものを楽しむようになっていく。

都市生活者が失ったものの一つが四季・旬である。中国製冷凍餃子事件によって、冷凍という便利さに隠れてしまっていた自然の持つ生命そのものに気づかされた。勿論、冷凍食品が無くなる訳ではない。しかし、五感で感じることの少ない都市の日常にあって、桜は一瞬の美しさを際立たせ生命力を気づかせてくれるものだ。
江戸時代の庶民のように、梅見、桜見、桃見の3つの花見を楽しむ時間の余裕はない。逆に、この時、この一瞬の出会いが予想以上の感動を生む時代になったということだ。

24時間化という言葉が使われ始め20年ほど経つが、最早当たり前の日常となった。24時間化とは、自然の生命リズムとは相反する、ある意味境目がなくなった日常時間のことだ。朝らしい朝、夜らしい夜、といった「らしさ」を取り戻す時代にいる。例えば、最も朝らしい朝は日の出の一瞬であり、最も夜らしい夜は漆黒の闇に広がる満天の星空のような夜だろう。一瞬という、この極時間をどうビジネスに取り込んでいくかが大きなテーマとなっている。

最早旬は旬の持つ生命力を感じない時代となってしまった。そのためには、今まで以上に「限定時」という売り出し方となる。この時、この一瞬を逃したら、桜のようにまた一年待たなければならないという売り出し方である。後の350日はどうするのかという質問が来そうであるが、桃の季節の後には牡丹もあるということだ。また、こんな発想をしても良い。2月に始まる沖縄の桜をスタートに、九州熊本から順次北へと上がり、5月には北海道へと渡る桜前線の極時間を追いかけていく。つまり極時間という超限定時だけを提供するサービスだ。自然が相手だから、極時間を逸することもある。だから、感動が生まれるのだ。時間、特に自然時間をどうマーチャンダイジングしていくかが極めて重要な時代となった。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 11:32│Comments(0)新市場創造
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