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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2014年01月03日

妄想せよ、そして行動せよ

 ヒット商品応援団日記No567(毎週更新)   2014.1.3.

新年明けましておめでとうございます。
毎年元旦の主要新聞各紙を見ながらマスメディアはどんな年度として期待し予測するのか、そんな記事を踏まえながらブログを書いてきた。新聞のみならず多くのメディアが注目するのがやはり「消費増税」であるが、今年は大きなテーマになってはいない。日経新聞だけが1面で「常識を超え新しい世界へ」とし、あのスティーブ・ジョブズの言葉”ハングリーであれ、愚かであれ”を入り口にして、創造と破壊の「イノベーションの歴史」を見開きで特集している。実は消費増税を通じ、こうしたテーマを考えるのが本来なのだが、一般論としての意味でしかない元旦号であった。

ところでその消費増税であるが、どのメディアも経済の専門家も3月までは駈け込み需要となり、4−6月は消費は落ち込み、7−9月期には回復基調に戻り、10月以降は昨年後半のような景気、リーマンショック前の経済に戻るという予測である。
こうしたマクロ経済としてのいわば一般論ばかりで、アナリストが指摘しない重要なことが1つある。それは円安、株高の実体で、日本株買い、円売りの主役は昨年1年間を通し、外国投資家、特にヘッジファンドによるもので、国内の投資家が11兆円の売り越しであるのに対し、外国投資家は137兆円の買い越しであるという事実である。その外国投資家は主に米国の金利と為替によって動くという事実である。日本の実体経済が株価を押し上げているわけではない。浮かれてはならないということである。そして、4月以降の消費増税によって日本国内の消費は落ち込む。結果どんなことが予測されるか。間違いなく、日銀は更なる金融緩和策、つまり国債を買い増すことになると予測される。結果、円安が更に進むというシナリオである。

日本経済が回復基調にあるのは事実であるが、リーマンショック以前と比べ産業構造自体はそれほど変わってはいない。あるとすれば貿易赤字を海外での所得収入で補うという製造業主体の貿易立国ではなく、輸出入の内容自体が変化し始めているという点にある。その分かり易い例が日本への観光誘致であり、昨年やっと外国人観光客が1000万人を超えた。これも円安とともにビザ発給を緩和したことによるものである。そして、注目すべきは東アジア、東南アジアからの観光客が増え始めたことによるもので、中国以外の国においても所得水準が上がってきたことに着眼しなければならない。
そして、観光客を引きつける日本の魅力であるが、クールジャパンと総称される日本固有の精神文化にある。マンガ、アニメ、禅、サムライ、・・・・・サブカルチャーから富士山と共にユネスコに文化遺産として登録された「和食」まで、その広がりに着眼すべきであろう。面白いことに、昨年日銀がゆるキャラ「くまモン」の経済波及効果は2年で1244億円に及ぶという発表があった。実はそうした発表だけではなく、ゆるキャラはマンガ、アニメといったサブカルチャーの裾野を創っているということにビジネス着眼すべきである。また、「和食」もそうした視点に立つと、数年前始まったご当地グルメ「B1グランプリ」も「和食」の裾野を創っているということだ。こうした発想の先には、ゆるキャラも輸出アイテムにもなるし、イベントだけに終わらず通販ビジネスへと広がった「Bー1グランプリ」を始め、ご当地グルメにも海外からの観光客誘致にも使えるということでもある。そのビジネス可能性であるが、既に数年前からあの「AKB48」はアジアへと輸出を始めていることを思い起こせば十分である。
重厚長大型輸出産業以外にも新しい文化型ビジネスの芽が出てきたということである。ちょうど江戸時代の浮世絵がヨーロッパの画家たちに大きな影響を与えたように、文化経済が次のビジネスをリードしていくということだ。

しかし、円安が更に進んだ時、資源を持たない海外に依存している日本においては、当然エネルギー価格を始め物価が上がることが予測される。既に電気料金やガソリン価格、あるいは食品が高騰しているがこの傾向は更に進むということである。消費増税×物価高騰というかけ算の消費心理、しかも3%アップというがそうではなく8%の消費税である。8%の消費税は予想以上に消費を萎縮させ、厳選志向は減選へと向かう。ハレ(特別な)の日とケ(日常)の日という言い方をするならば、ハレの日のプチ贅沢は更にプチとなり、回数も減る。そして、ケの日は更に質素にやりくり算段するという消費生活になる。
こうした自己防衛的認識はコスパ型消費を更に進行させる。例えば、軽自動車への増税に多くの反対があるのも、地方の生活者にとって良きコスパ型商品であるからだ。つまり、大増税時代に入ったという消費実感である。この傾向は昨年後半からの駈け込み需要、省エネ・コスパ型家電製品の売り上げ好調さにも鮮明に出てきている。あるいは数年前からシニアマーケット狙いの旅行ビジネスとしてクルージングが話題となっていたが、売れたのは外国籍クルーズ船による台湾などへの安い船旅である。航空会社におけるLCCと同様の格安船旅で1泊1人1万円台という価格である。まだまだデフレ型新市場が生まれるということだ。

そして、こうした増税実感は自己防衛的消費として表れてくる。特に若い世代においては「学び」と「お金」の認識転換が迫られていくこととなる。税負担は大きくなったが、果たして年金を受給できるのであろうかと。「学び」も「お金」も自己投資という視点で再編集される。欲望を喪失したかのように言われ草食系と揶揄される若者であるが、肉食獣として狩りに出かけざるを得なくなったということだ。極端な言い方をするとすれば、貯蓄ではなく、借金をしてでも「自己防衛のための何か」を手に入れるために投資をするということである。例えば、グローバルビジネスとしては不可欠となる海外での語学研修留学は当たり前となり、更に今後伸びるであろう専門分野での海外留学となる。お金の面においても貯蓄ではなく、リスクを背負った利回りの良い債券や株式、場合によっては不動産投資にも向かう。ある意味、内向きな世界から外の世界へのシフト。デフレの時代からインフレの時代への価値転換が若い世代から始まるかもしれない。消費増税はこうした価値観の転換を促すということだ。但し、数年間はデフレを基調としインフレが混在するまだら模様の市場、外側と内側とを行ったり来たり、といった市場構造になる。

さて、こうした傾向に対しどう取り組まなければならないかであるが、冒頭のスティーブ・ジョブズの言葉”ハングリーであれ、愚かであれ”。この言葉を身近で具体的なことに置き換えるとすれば、発想を変えろ。いやもっと極端な表現をするとすれば、常識から離れろではなく、妄想せよ、となる。
1997年の消費税5%導入時にもこうした「妄想」は至る所で現実化されてきている。その後続くデフレ時代を見越したマクドナルドや吉野家、SPAという方法をもって市場に参入したユニクロや渋谷109のエゴイスト、インターネット上に新しい商店街をつくった楽天、更にはエブリデーロープライスによって世界一の流通業となった米国ウオルマートを見に行かなくても日本のスーパーオーケーを見に行けば良いと言われた業態。こうした革新的な、いや妄想と呼ぶにふさわしい企業群である。そして、数年前から同様の芽が出始めている。このブログにも何回も書いてきたが「俺のフレンチ」もそうした新業態、妄想業態の一つである。その「俺のフレンチ」は海外に展開し北米NYに海外本部の拠点を置くという妄想計画の発表が昨年あった。

そして、前回の消費増税導入以降の勝ち残り組である企業群も次なる変革を迫られている。例えば、昨年1年間増税対策としての「値上げ」を実施し、客単価を上げるメニュー戦略として1000円バーガーを出したマクドナルドも良い成果は得られてはいない。昨年11月度の売り上げ内容を見ても客数離れは依然として続き、客単価アップによっては補いきれない売り上げとなっている。楽天市場も出店料0円を掲げたYahooの追撃と、その向こうには最大の競争相手であるamazonがいる。つまり、この2014年はより過酷な競争市場になるということである。そして、この困難な状況を突破するには、妄想せよ、そして行動せよ、である。(続く)

タグ :消費増税

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Posted by ヒット商品応援団 at 14:41│Comments(0)新市場創造
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