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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2006年11月22日

記憶と体験 

ヒット商品応援団日記No118(毎週2回更新)  2006.11.22.

前回膨大な情報が駆け巡る時代での視座,目線についてふれた。情報を遮断するという方法も時には必要とは思うが、私たちにとって情報は生活の、仕事のお米のようなものだ。以前、PCの上書きのように次から次へと新たな情報によって書き換えられていくと書いたが、養老孟司さんに言わせると、記憶ほど当てにならないものはないといっている。確かに、子供の頃家族で動物園に行った20年前の時の記憶と10年前の時の記憶とは「同じもの」ではない。常に変わっていくのが意識で、変化を促していくのが情報と実体験(実態)である。犯罪心理学者の作田明さんは、凶悪犯罪にふれてここ10年ほどは横ばいでそれほど多発してはいない。1960年をピークに犯罪は減少しているが、過剰報道によってあたかも犯罪が急増し治安が悪化しているとの錯覚を与えていると指摘している。(http://www.sakuta-akira.com/)作田さんは風説という明確な表現をしているが、全てが心理市場化している今日、「情報」に対しても自己防衛的にならざるをえない。SNSのミクシーが500万人以上の会員を集め、発展しているのはこうした背景からである。

今年の春以降、様々な回帰現象について書いてきた。どこに帰るにせよ、その「もと」と意識化された記憶による「もと」とは異なる。昨年の今頃、映画「Always 三丁目の夕日」を見たが、当時の風景を巧みなCGによって合成していたが、明確にその「違い」は分かるものであった。ただ、そうした違いを超えて、いや違いがあるからこそ、映画の中に入っていけるのだと思う。9月に行われた「拓郎×かぐや姫」の嬬恋ライブにおける拓郎の最後の曲が「ここまで生きてきました」というデビュー曲であったことは象徴的だ。これから5年後、10年後、また会おうというメッセージだけは記憶に残る。常に変化し続けることへの再確認のメッセージである。人は環境に生きる生物であるから、5年後、10年後の環境によって、意識化される記憶もまた変わる。ただ、今という時代環境が「回帰」という大きな潮流を生み出していることは間違いない。洋に偏りすぎたライフスタイルに対する和回帰、おふくろの味やたたみ座敷の見直し。あるいは核家族どころか、個家族化している住まい方への見直し。多くの見直しは、今という環境に対する疑念、これで良いのだろうかといった問いかけとしてある。

ところで、意識変化を促す要因のもう一つが実体験であると書いたが、回帰現象と同じように「体験市場」は大きな潮流になっていく。情報に翻弄された10年でもあり、多くの学習もしてきた。体験こそが納得できる唯一の方法であると、多くの生活者が気づき始めた。このことは年齢に関わらず、若い人であれば沖縄へ紅型の修行へと出かけたり、宮大工といった匠の世界へ、あるいは中年になっても若い頃思い描いた漁師になりたいと水産高校に通う人もいる。実感という最も納得、共感できる方向へと進んでいく。例えば、サントリーオールドの発売は、団塊世代に対する青春フィードバックという「追体験市場」を狙っている。昭和40年代以降のサラリーマン時代の記憶を追体験する商品としてポジションされている。ウイスキー以外にも、当時の平凡パンチがテーマとしていた商品をリ・モデルすればいくらでもヒット商品は生まれる。但し、冒頭に書いたように昔のままだけでは売れない。そこに、今という時代の「何か」を必要とし、ヒットの分かれ道となっている。サントリーオールドは今頻繁に行われている団塊世代の同窓会という「場」が想定されている。「ここまで生きてきました」という拓郎のメッセージの象徴としてある。ただ、その世界だけでは継続的飲用は難しいと思う。例えば、温故知新、OLD NEWである。若い世代にとってNEWである世界を同時に創ることがサントリーオールド、低迷するウイスキー市場の復活の鍵だ。また、体験というと、すぐお試しといったことになるが、そこに工夫・アイディアを必要とする時代である。有料体験があっても良いし、期間と料金の設定を昼間と夜とに分けるといった丁寧さも必要と思う。いずれにせよ、旧来のお試しというやり方や対象を変えることによって、思わぬヒット商品が生まれてくる。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:36│Comments(0)新市場創造
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