プロフィール
ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
インフォメーション
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 16人

2013年06月10日

ミニバブルが終わった

ヒット商品応援団日記No555(毎週更新)   2013.6.10.

忙しさもあってブログの更新か1か月ほど経ってしまったが、この間株価が急激に下がり、いや下がる等といった表現どころではない下落である。ミニバブルが崩壊したと指摘する専門家と、急激に株価を上げたための調整局面によるものだと両極端の意見が交差している。しかし、立場の違いはあるが、昨年末からの株高はヘッジファンドを中心とした海外投機マネーによるものであることが分かってきた。そして、リーマンショックの時もそうであったが、金利変動や円相場の動向を瞬時に判別し売り買いするコンピュータ・システムが作動した結果で一斉に売りへと向かったと。上がるにせよ、下がるにせよ、変化にビジネスチャンスがあるとした投機マネーにとって、この1か月半ほどは商売の絶好の期間であったと思う。ある専門家に言わせると、リーマンショックで損した投機マネーをこの1.5倍以上に膨らんだ日本株を売り抜くことによって埋め合わせたとも。

そして、先日国交省から1月〜4月の主要都市の地価の動向が発表された。リーマンショック以来、約5年ぶりに上昇している地区が横ばいの地区を上回り、過半数を占めている。特に東京と大阪の都心部にある商業地区と東京の住宅地で地価の上昇傾向が強まっていると。金融緩和による資金が不動産に向かい地価を押し上げていたのであろう。しかし、異次元の金融緩和によって長期金利が下がると思っていたが、逆に金利は上がり、結果不動産バブルも終息したようである。
こうした光景を目にして、やはりそうであろうなと変な納得をしてしまうが、同時に「いつか来た道」の感が拭いえない。3か月程前のブログで株や不動産といった資産デフレは解消できるかもしれないと書いたが、アベノミクスの第三の矢・成長戦略の概要を見ても、実体経済にインパクトある計画ではなかった。更に、海外の投資家が喜ぶような規制緩和を超えた構造改革的なものでもなかった。結果成長戦略の発表と同時に一気に株価を下げた。その株価が12,00円台でおさまるのか、円ドルレートが95円程度に収まるのか、専門家でもない私は分からない。しかし、株価15,000円台というミニバブルは終わり、消費について言えば、当分の間デフレ基調は変わらないということだ。

ところで医者が果たす役割の世界では臨床と病理に分かれているが、消費をテーマとしたマーケティングを仕事とする私の場合は、無論好きなことでもある現場消費、臨床の立場での仕事を中心としている。ブログのタイトルに「消費地図」という表現をしたのもここ数ヶ月の激変への表現、既存の平面地図では描ききれない険しくしかも時間経過と共に新たな未知の変化が生まれ、まるで曇り空の天候が急に突風と共にヒョウが降ってきたかのような時代である。そんなことから「消費地図の歩き方」としてみた。
というのも、来年4月の消費増税を控え、何に投資すべきか、どんな価格で4月を迎えたら良いのか、どう顧客関係を築くべきか、多くの企業、ビジネスマンは判断に困り躊躇していることと思う。数ヶ月前から消費増税対応策として、100円バーガーの値上げに踏み切ったマクドナルド、一方280円に値下げをした牛丼の吉野家。人気の回転寿司においても同様で一皿300円といった高い価格の寿司を組み合わせたところもあれば、一皿94円(平日)というかっぱ寿司も今年の夏には105円にすると発表があった。円安による原材料費のアップが外食企業の4割にも及んでいることからである。こうした対応策が見出し得ない様子見の外食企業は60%に及んでいると日経MJ((5月22日号)は報じている。今回はそんな険しい山岳登山をどう登るか、一つのヒントとなる市場着眼について書いてみたい。

このブログを書き始めてから8年近くなるが、私の視座は常に顧客であり、特にその消費変化である。そして、その変化は一過性のものであるか、以降も継続されるような一種の生活価値観に裏付けられた変化であるのか、それらを見極めることをテーマとしている。
勿論、消費は所得とは不可分であり、今回の金融激変によって影響も出てくる。シニア世代が保有する金融資産の一部は株式に流れてきていたと思う。百貨店売上の好調さの一要因としてこうしたシニア層の購買があることは事実ではある。その代表的商品としてジュエリーや時計などの宝飾品が売れていると。更には今年のお中元商品には1万円クラスの商品に人気が集まってもいると。日経トレンディを始め多くの経済誌はアベノミクスによって消費が変わったと指摘しているが、果たしてそのような変化が起きているのであろうか。しかし、それこそ一部の一過性の消費そのものであると指摘をしておく。
3週間程前の毎日新聞の世論調査でば、景気回復の実感を聞いたところ「実感していない」との回答が80%に達し、「実感している」は13%にとどまったと。その他の新聞各社も同様の傾向を示しているが、調査結果を見るまでもなく、実体経済が好転してもいない、収入も増えてもいないのに景気実感が良くなったなどということはあり得ない。しかも消費に結びつくことなどない。

さて様子見の企業が6割に及んでいると言われているが、単なる様子見ではない。為替の動向や長期金利の変動といった変化もさることながら、変化受信アンテナの向きは顧客、消費者である。既存のお客さまの変化を受け止めることは勿論であるが、顧客の本音がどこにあるかを探り、見出すことが重要となる。大企業の場合は必ず消費者調査が行なわれるが、中小・零細企業の場合はそうした調査費用を捻出することは難しい。しかし、出来ないことはない。既存顧客の未来満足度を調査するのであれば、例えばアンケート依頼に対するお礼としてポイントを提供したり、あるいは1000円相当の商品券や割引券などインセンティブを持ってお願いする。そして、出来る限り本音を引き出すために記入後郵送してもらう受取人払いとする。そして、フリーアンサー部分で聞きたい本音を書いてもらう。そして、そこに書かれた主要な点をキーワード化し、そのキーワードで集計し、その分布を見る。一種の手作りクラスター分析になり、本音の背後にある価値観にたどり着くことが可能となる。
そして、消費は情報によって揺れ動く。例えば、メディア接触の有無と共にランキング情報の利用についても聞いたら良い。過剰情報時代、一見選択肢があると錯覚してしまいかねない時代ならではの本音を探るということだ。そうしたこともヒアリングの一つに加えたらと思う。そして、一番重要なことは、そうして得られた数字と共に、顧客からの書かれた文章を読み、そこから立ち上る顧客像を実感することが重要となる。一度トライしてみてはどうであろうか。

もう一つは既存のライフスタイル情報を集め分析することから本音を探る方法である。それは消費の在り方、特に自由時間や余暇時間にどの程度の費用でどんな楽しみ方をしているかを明らかにする方法である。自分で自由に出来る時間の過ごし方に「生活の本音」が出てくる。今年のGWの過ごし方、消費の在り方について次のようにブログに書いた。

『どの行楽地も人でにぎわっている。これは円高であった年末年始が海外旅行に出かける人が多かったのに対し、円安によりかなりの人が国内旅行へと移動したからである。そして、どこの観光地も飲食施設には長い行列ができている。極論を言えば、交通費と飲食費プラス若干のお土産消費のみ。これも私がキョロキョロ消費と呼んだように、所得が増えない以上極めて賢明な消費行動となっている。私に言わせれば、「明るく賢明なデフレ型消費」が続いているということだ。』

円安は電気やガスといった生活インフラへの影響だけでなく、多くの商品が値上げとなって表れてきた。そして、これから夏に向かって食品を中心に値上げに向かわざるを得ない。消費者はキョロキョロしながらより安い商品やサービスへと「移動」する。もしくは消費頻度を減らすことへと向かう。つまり、顧客離れという「顧客移動」が更に進むということである。円高の時は海外旅行へと、しかもLCCを巧く使って旅行する。円安の今は、国内の旅行、勿論「わけあり旅行」へと「移動」する。これも賢明な消費である。
収入も増えないデフレ下で10か月後には消費増税が予定されており、企業が「様子見」をするのと同じで、消費者も様子を見ながら「消費移動」するということである。これが心理化した市場時代の「売り手」と「買い手」の関係である。「三方よし」ではないが、険しい消費地図の歩き方は売り手もキョロキョロ、買い手もキョロキョロ、世間もキョロキョロ、消費を促す価値観を見極めるにはもう少しの時間が必要である。(続く)


同じカテゴリー(新市場創造)の記事画像
マーケティングノート(2)後半
マーケティングノート(2)前半
2023年ヒット商品版付を読み解く 
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半 
春雑感  
同じカテゴリー(新市場創造)の記事
 マーケティングノート(2)後半 (2024-04-07 12:53)
 マーケティングノート(2)前半 (2024-04-03 13:42)
 2023年ヒット商品版付を読み解く  (2023-12-23 13:30)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半 (2023-07-05 13:15)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半  (2023-07-02 14:01)
 春雑感   (2023-03-19 13:11)

Posted by ヒット商品応援団 at 13:43│Comments(0)新市場創造
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
ミニバブルが終わった
    コメント(0)