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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2013年04月14日

再び、消費税還元セールの禁止?

ヒット商品応援団日記No553(毎週更新)   2013.4.14.

少し前のブログで指摘したが案の定というか、至極当然のこととして、政府が提出した「消費税還元セール禁止」法案に対し、ユニクロやイオンをはじめ小売り、流通業界がらの反対表明が次々と出てきた。ユニクロの柳井正会長兼社長は11日、安倍内閣が「消費税還元セール」を 取り締まる法案を閣議決定したことについて「そんな法案を作ること自体が理解できない。自由に価格を決めたりセールをしたりするのを政府が規制するのはおかしい」という主張で、「とても先進国のやること ではない」と激しく非難した。 そして、来年4月に 増税されても、ユニクロなどでは価格を「据え置きで売っていくと思う」と述べ、値上げしないよう努める考えも示したと報じられた。

この法案の価格表示は、いままでの「価格(税別)」という表示が「価格(税込み)」になるという案である。消費者は確か2004年からの総額表示を踏まえ、本体価格と消費税額を睨み、総額を検討して購入してきた。小売り側は少しでも小さくても「お得感」を出すような総額金額を作ってきた。例えばお弁当の種類についても290円、390円、あるいは490円のように値付けをし消費者の側もそうした総額表示に慣れてきた。しかし、今回の法案では内税になるため価格表示は390円といったお得感のある表示は難しくなる。たとえ出来たとしてもアップした増税分はお得感を出すにはどこかで吸収しなければならなくなる。例えば次のような変化となる。

◆今まで「本体価格371円+税5%19円」=「390円」 →◇これから 「本体価格371円+税8%30円」=「401円」

お得感を出す為に従来通り390円とするには11円分をどこかで吸収しなければならなくなる。そして、この11円分をどうするかで更に激しい価格競争が生まれることが予測される。逆に、ユニクロが表明しているように、従来価格に抑えデフレを更に加速させかねないということだ。そして、これでは売れないと小売業界からの指摘があり、法案が修正され限定的に外税表示、例えば「371円+(8%30円)」を認めるということになるとのこと。
つまり、政府の本音はアベノミクスが順調に進展しており、デフレを促進させるような価格競争、「お得感」を一掃させたいということであろう。そのまま401円で売ればよいのではと考える政治家は消費心理を知らないだけでなく、小売りの実態を知らないか、もしくは知りたくないのではと思う。ちなみに、消費税が8%になっても従来通りの価格390円で販売する場合は、「本体価格361円+税8%29円」=「390円」となる。本体価格371円が361円となり、10円をどこかで吸収しなければならなくなる。この差額を下請け業者に押し付けるのではないかというのが政府の考えであるが、いまどきそんな仕組みでビジネスをしているところは無いとは言わないが極めて少ない。小売業は顧客だけでなく仕入れ企業の信用が大前提となっている業種である。

このお得感というのは単なる低価格ということだけではない。有価証券報告書を見るまでもなく、小売り、流通業の営業利益率は他の業種と比較しても低い。勿論そうした現実にあって低価格競争は避けたいとほとんどの小売業は考えている。しかし、価格を含めそれらを決めるのは顧客、消費者である。この営業利益率を改善するためにどれだけ努力しているか良き事例がある。
少し前にその陳列の卓越さを含め全国の小売業関係者が見学&研修しにいくスーパーとして福岡のハローデイを挙げたが、実は人口4700人の小さな温泉町に、1日平均5000個、土日休日は1万個以上、お彼岸になると2万個もの「おはぎ」を売る店がある。その店の名は「主婦の店 さいち」。思い出していただけたと思うが、和菓子屋ではなく、仙台秋保温泉の小さなスーパーである。
業界関係者の多くに知られている小さなスーパーであるが、年商6億円、その内50%が惣菜部門。どうしてそんなに惣菜が売れるのか学びに行くのである。詳しくは『売れ続ける理由〜一回のお客を一生の顧客にする非常識な経営法〜』(ダイヤモンド社刊)を読んでいただければと思うが、そのダイヤモンドオンライン(http://diamond.jp/articles/-/9445)で二人三脚で経営する佐藤夫妻のインタビュー記事がある。お得感という小売りの実態が理解できると思うのでポイントだけ記事内容を紹介したい。

さいちは家庭で食べるお惣菜をスーパーで初めて販売するのだが、できるだけ人手を減らし、合理化して商品を安く提供するのが、スーパーだと考える時代にあって、非常識経営を進めるのだが、そんな理由を次のように答えている。

『絶対に人マネをしないというのがさいちの原則です。マネをしたら、お手本の料理をつくった人の範囲にとどまってしまう。・・・・・先生や親方の所に聞きにいかずに、自分たちで考える。そうすると、自分がつくったものに愛情がわく。自分の子どもに対する愛情と同じです。』

さいちのお惣菜は500種類を超え、多品種・少量ということから、手間がかかり、利益が出ないのではという質問に対し、

『全部売ってくれないと困る。そのためには、「真心を持って100%売れる商品をつくるのが、絶対条件ですよ」と、言っています。うちではロス(廃棄)はゼロとして原価率を計算しています。いくら原価率を低く想定しても、売れ残りが出てしまえば、その分、原価率は上がってしまいます。』

そして、それでも売れ残りがある場合には

『平日夕方5時45分から、惣菜全品半額セールを行う。時間と様子を見ながら、1品1品値下げのシールを貼り替えて行く普通のスーパーとはやり方が違う。5時45分にしたのは、まさに主婦が夕食を準備するストライクゾーンの時間帯だから。それに人手もかからない。そしてすべてを売り切る。』

最初は3種類のおにぎりからスタートしたさいちであるが、顧客からの要望で500種類以上の惣菜部門になったことは、鹿児島阿久根の仏壇から車まで販売するAZスーパーセンターと同じである。こうしたスーパーは毎日の小さなお得の積み重ねによって、一回のお客が一生の顧客になり、結果経営が成立する。こうした例は全国至る所に存在する。回転寿司並のにぎり寿司やちらし寿司を提供する兵庫県のスーパーには出来上がるのを待つ顧客で行列ができるほどの人気だ。あの大手のイオンも確か数年前から島根県の漁協と提携し、一船買いの魚を仕入れ、それらを店頭で調理の説明をしながら販売している。自然相手だからどんな魚が水揚げされるかわからない、毎回どう調理したら美味しく提供できるか、ロスを出さずに100%売り切る努力はさいちと同じである。

顧客が求める小さな「お得」を提供するのが小売業である。街の商店街の零細総菜店も大手のスーパーも顧客に対する原則は同じである。イトーヨーカ堂創業者の伊藤雅俊氏は次のように語っている。
『政府みたいに借金の埋め合わせに好きなだけ国債を刷ったらやっていけるような企業などありません。頼りになるのは現金しかないということが骨身にしみていましたから、バブルのときも一切投資話などには乗りませんでした。』
そして、モノが売れない時代、安くしないと売れないのではなく、売れないのはお客さまを見ていないからだ、とも。これが小売業である。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:52│Comments(0)新市場創造
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