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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2013年03月11日

デフレ、増税、隙き間市場への着眼

ヒット商品応援団日記No548(毎週更新)   2013.3.11.

前回消費増税へ向けて、マクドナルドが九州地区と山口県で値上げの実験を行なっていることの意味合いをブログに書いた。そして、日経MJ(3/8号)ではJフロントが増税前に傘下の食品スーパー「大丸ピーコック」の「見切り売却」を行なったと報じている。周知のように食品スーパーは最も価格競争の激しい業界であり、Jフロントとして価格対応策を打ちえなかったため増税前にイオンに売却したという内容であった。一言で言えば、セブン&アイやイオンのようなPB商品の開発拡充やスーパーOKのようなわけあり商品のエブリデーロープライスのシステム化による価格対応といった対策を立てることが出来なかったということである。つまり選択と集中策として、グループ傘下の「パルコ」への経営資源を集中させ、「ピーコック」を売却したということである。1年後の消費増税に向けて既に動き始めている。

ところで政府は産業界に対し盛んに賃金アップを要請し、個別企業ではローソンやセブン&アイ、更にはファミリーマートが応え始めている。消費はこうした賃金アップ等の「情報」によって左右される心理市場化されているが、一言で言うならば基本は将来の収入に対し、楽観的であるか、悲観的であるかによって決まる。周知のように、過去10年間で世帯収入は100万円弱減少するなか、2008年秋のリーマンショック後、何が起きたか想起しなければならない。リーマンショックの翌年の春には一斉に「副業」に走る人が増えた。主婦は勿論のこと、サラリーマンも休日には副業へと向かい、勤務先企業もこれらアルバイト収入を認めるところも出てきた。未来に楽観できないということの証左であった。
だが、今年に入り、その収入が少しづつ上向きになり始めている。1月の「勤労統計調査」によれば生活サービスや不動産、医療、福祉で働くフルタイム労働者の賃金が牽引し前年同月比1.3%増となっている。(但し、製造業、電気、ガス、飲食はマイナス)また、百貨店協会による1月度の売上は全国の前年同月比0.2%、東京では0.5%と上向きになっている。この数ヶ月間賃金の動向を見極めなければならないが、過去10数年に渡る賃下げは新興国、特に中国の賃金水準に引きずられてきたものであるが、日本の労働力も国際競争力がつき始めており賃金アップは望めないにせよ横ばい状態が予測される。しかし、残念ながら全体の底上げにはまだまだ時間がかかる。

一方、この春から主に円安による値上げラッシュが多くの消費領域で起きる。このブログで資源小国である日本の構造的課題、上流はインフレ、下流はデフレ、という構造による値上げである。新聞紙上で掲載されているので詳細については書かないが、電気料金、ガソリンといった燃料代に加え、鉄鋼、石油化学、等の産業素材の値上げまで広がってきた。具体的商品名でいうと、トイレットペーパー等の紙製品やポリエステル繊維による衣料、更には鉄鋼では鋼板といった産業素材。勿論、ほとんど輸入に頼っている小麦粉は4月から平均10%弱の値上げになる。
そして、1年後の消費増税を睨み、喫緊の課題である原材料高騰に対する判断が問われている。その判断の基礎は当然のことであるが、消費者の消費心理である。こうした値上げに見合う賃金の上昇はまだまだ難しく、消費レベルでは当分の間デフレは進行する。

昨年秋、消費増税によってどんな変化が生まれるか、あるいは生まれつつあるか、その変化についてブログに書いた。まとめると次のような消費変化が予測される。

1)減少し続けてきた収入に対し、価格価値、同じ商品であれば他より安く、あるいは費用対効果としてコストパフォーマンスの高い商品や業態への消費変化。更なるセルフスタイル化、ブッフェスタイル化の進行。一店、一商品、一エリア、一人への集中現象が起きている。この傾向は更に進行する。
2)東日本大震災の経験を踏まえ、自己防衛的価値観の強まりと新しい合理的価値観、賢明なスマートライフ志向が進む。
3)価格価値以外の新たな価値創造への模索。
・過剰情報時代の「体験」という納得価値。
・「断捨離」の延長線上にある「国民総幸福量」という新しい価値概念。
・ありそうでなかった隙き間市場の発芽。ex、若い世代へのフレンチ。
・新しい価値概念「Reコンセプト」による新業態、新メニューの誕生。

また今後の消費増税対策として参考とすべき業態の一つが「100円ショップ」の動向である。”100円でこんなものが買えるのか”という驚きをもって急成長してきた業態である。周知のように「100円ショップ」の多くは途上国でオリジナル製造した商品の輸入に頼った小売り業態である。各社の仕入先輸入比率は30〜80%と言われているが、輸入比率の高い企業は円安と共に、消費増税への対応をどのように考えているかである。現状では商品の在庫管理を徹底することによって、コストアップを吸収する方向で進んでいるようである。
ところで、「100円ショップ」は100円という「価格の隙き間」を狙ったビジネスであるが、一種のディスカウンタービジネスとして24時間営業という「時間の隙き間」ビジネスを狙ったのがドンキ・ホーテである。また同じ「隙き間」というマーケット着眼であれば、昨年のヒット商品の一つである「俺のフレンチ」は立食いという「スペースの隙き間」であり、「東京チカラめし」は「焼肉丼」という「メニューの隙き間」ビジネスと言えよう。
そして、既存業態においても「隙き間」ビジネスが盛んである。支出を抑える為に「食」においては外食→中食→内食への傾向が進行してきた。しかし、この1〜2年前からファミリーレストランを筆頭に隙き間市場であった朝食を安価なメニューをもって新市場を開拓し始めている。例えば、東京駅を始め、駅のラーメン店では「朝らー」という新メニューでサラリーマン層を開拓している。あるいは野菜たっぷりの長崎ちゃんぽんで女性の気持ちをとらえたリンガーハットも健康という「テーマの隙き間」に着眼したメニューである。今一度、価格の隙き間、時間の隙き間、スペースの隙き間、テーマの隙き間を見直して見るということだ。

こうした新しい市場着眼によるイノベーションと共に、小さなヒット商品が生まれてくる。その着眼であるが、いわゆる「もどき」商品、「もどき」メニューである。食で言うと、古くは「がんもどき」であり、戦後最大のヒット商品では「カニかま」であろう。こうした「もどき」は京都の庶民生活の知恵として今なお受け継がれている。高い牛肉を使わずに、「おあげさん」をその代用食とするといった具合である。「もどき」、「○○したつもり」、「ひととき」こうした工夫ある商品や業態が次々と生まれてくるであろう。デフレの進化は単なる安さ競争だけではなく、このようなアイディア商品と共に進行していく。
デフレとインフレが混在する消費市場にあって、まず着眼すべきは「隙き間」と「代用・代替」である。もっと簡単に言えば、「ありそうで無かった市場」への着眼である。これも消費増税に向かう重要な対策となる。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:39│Comments(0)新市場創造
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