プロフィール
ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
インフォメーション
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 16人

2013年02月10日

加速するキョロキョロ消費

ヒット商品応援団日記No544(毎週更新)   2013.2.10.

2008年9月のリーマンショック1ヶ月半後、「ねじれ現象」というテーマでブログを書いたことがあった。その「ねじれ」とは資源を持たない日本の場合、川上(輸入価格)ではインフレ、川下(消費接点)ではデフレというねじれた構造的問題についてであった。そして、今また円安で輸出企業はトヨタを始め良い決算となるようだが、原材料を輸入に頼る内需関連企業はその狭間で更に苦悩することとなる。興味深いことに、そのリーマンショック翌年2009年上期の日経MJによるヒット商品番付は東西横綱には「インサイト、プリウス」及び「ファストファッション(H&Mやフォーエバー21等)」となっているが、その根底にあるのは「安さ」であった。大関の「gu(990円ジーンズ)」や「下取りセール」以下、そのほとんどが価格の「安さ」がヒットの背景・理由となっている。横綱にランクされた「インサイト、プリウス」も価格設定のうまさとエコカー減税が販売を後押ししていたからである。

そして、更に注目すべき点としては、従来の番付けには必ず入っていた美容・健康関連商品が入っていないという事実である。勿論、全く生活者の消費から無くなったわけではない。その多くは自身で行なう「セルフ式」で、美容関連で言うならば、自宅でできる美顔器のようなホームケア商品や半身浴といった「美容方法」へと移行した。また、健康分野においても同様で、最大のヒット商品はウオーキングであった。亡くなられた地井散歩のような路地裏散歩から、歴史が刻まれた建造物や寺社巡り、テーマを持ったウオーキングであれば鳥や昆虫、植物のウオッチング。こうした軽いウオーキングと共に、山登りやトレッキングといった本格的なものまで幅広く、奥行きもある。ヒット商品には「山ガール」といったファッションスタイルも注目されたが、共通していることは興味テーマをもったウオーキング、しかもお金もかからないということであった。消費者は明確に不要不急商品の在り方に知恵とアイディアをもって対応しているということだ。

更に象徴的な消費として「わけあり商品」がほとんどの消費世界に浸透、マスプロダクト化したということであろう。以前から「たらこの切れこ」などTV通販でヒットしていたが、規格外といったわけあり商品をいち早く取り入れ急成長したのが中堅スーパーのOKストアであった。大手スーパーも次々とOKストアと同様のエブリデーロープライス業態を出店し、PB商品の開発を拡大していく。この延長線上に、従来はプロ用と言われてきた卸売り市場や業務用スーパーにまで、一般生活者が買い物に出かける現象も生まれた。これら全て生活者が望む「価格観」を表している。
こうした流通の他にも、「わけあって安く仕入れ提供」する世界は寿司チェーン店を急成長させ、和牛一頭買いによる焼肉チェーン店にまで広がり、更には旅館やホテルにも波及した。

というのも今回「ねじれ」が再度表面化するのも、日銀が更なる金融緩和を実施するであろうとの予測のもとで市場が円安へと反応したわけであり、2008年の時のような投機マネーによる世界的な石油価格の高騰による「ねじれ」とはその背景が異なる。しかし、「ねじれ」という構造問題はそのままとなっていて、既に原油価格が上がり始め、ガソリン価格だけでなく、温室栽培農家にも影響が出始めている。このまま推移すれば遅かれ早かれ重油等を使用する漁業関係にも影響が出てくることが予測される。
そして、今回のねじれは「円安」ということから、石油製品だけではなく、輸入品目全体への影響となる。つまり、こうしたデフレ下にあって、輸入に頼る商品群、ある意味インフレ商品群が混在する消費はどのような市場変化、特に消費価格を見せるかである。

この変化には2つの視点からの価格予測及び需要分析が必要となる。一つは円安による輸出入に関する主要国(中国&米国)との変化、特に輸入に頼る原価の変化である。そして、それらを含めた消費現場、つまりメーカーや流通による原価低減のための工夫、メニュー戦略の変化ということになる。どの商品が円安の影響によって高くなるのか、それを安く買う工夫にはどうしればよいのか、以前から指摘してきたように巣ごもりから頭だけを出し、どんな「キョロキョロ消費」を見せるかである。またそうした消費心理を考えたメニュー業態、ビジネス業態が必ず出てくる。
もう一つの視点がインフレの進行に伴う購買行動の変化についてである。特に、インフレ体験を知らないデフレが日常化しそれがあたり前であると考える若い平成世代と50歳代以上のインフレ体験、物価も上がるが給与も上がりバブル体験を含め活発な消費を見せた世代とではインフレとデフレへの消費態度は異なるという視点である。

まず前者についてであるが、早速輸入ブランドのルイヴィトンは2月15日から平均12%値上げすると発表があった。こうした輸入ブランド商品については分かりやすいが、食料自給率が40%程度の日本では輸入依存率も高く、しかも分かりにくい。
小麦粉、大豆、といった商品を原材料とするパンや豆腐はその食品履歴について消費者は熟知しており、値上がりに対しては一定の理解を示すと考える。あるいは回転寿司の人気メニューであるサーモンなどもネタが小さくなるのか、もしくは若干値段が上がるかもしれない。しかし、ラーメンなどの麺類の専門店を始めメニュー化された食品の輸入依存率は極めて高く90%以上となっている。前回のねじれの時もそうであったが、例えば畜産用飼料はほとんで輸入に頼っていて生産された牛乳の依存率は57&となっているが、冬期の暖房用重油が上がると生産者にとって極めて大きな負担となる。結果、値上げというカタチになると予測される。

また、恐らく大きな経営課題となるのが、デフレ業態の象徴でもある「100円ショップ」や「牛丼チェーン」である。「100円ショップ」という価格業態から、例えば「110円ショップ」へと転換することはできない。ましてや、1年後には消費増税が予定されていることから、厳しい経営となる。その「100円ショップ」の最近のMD傾向がオリジナル志向となっていることから、海外生産ではあるが更なる原価の低減が必要となり、どうすべきか模索していることと思う。
ここ2〜3年の「牛丼チェーン」大手3社のメニュー開発を見ていくとわかるが、消費者の低価格志向に合わせるかのように、牛丼→豚丼→焼鳥丼と推移してきている。見事なメニュー対応であるが、今後は更に安い原価でどんな丼を開発するのか、これも模索中であろう。

多くのデフレビジネス、デフレ業態はより安いコストで生産・製造できる国へとシフトしていくのか、新たな付加価値に次のビジネス活路を見出していくのか、大きな転換点となる。こうした更に「安く」するためのアイディアとしては「俺のフレンチ」のような立食いフレンチのような業態への模索、あるいは安さで人気となった居酒屋チェーンのように「セルフサービス方式」への転換。つまり、「安さ」を維持・進化させるために、顧客の側にも分担・負担してもらって値上げをしないというサービス業態への転換である。
こうした転換と共に、生産・製造を国内に求める動きも出てくる。既にアパレルファッションでも福島や山形で縫製するメーカーが出てきたり、輸入サーモンの替わりに養殖魚の比率を高めるといった食品スーパーや寿司チェーンも出てくるであろう。あるいは長崎チャンポン(リンガーハット)のように国内産のたっぷり野菜で顧客層を若い女性に絞り込むという一種のリニューアルを行なうという転換も出てくる。
円安がどこまで進むのかわからないが、1年後には消費増税が予定されている。こうしたなかでのインフレとデフレというねじれ構造における消費である。今までは「更に安いところはどこか」といったキョロキョロ消費であったが、これからは円安情報を踏まえながら、「インフレ商品は何か」「インフレ率(値上げ率)はどの程度か」あるいは「インフレ商品に替わるものは何か」「新たなデフレ商品は」・・・・マスメディアやネットメディア、あるいはママ友やSNSといったパーソナルメディアを通じ、キョロキョロ見回し巣から出たり入ったりする消費となる。
長くなったので、次回はもう一つの視点である平成世代とインフレ体験世代におけるキョロキョロ消費の共通と違いをテーマとする予定である。(続く)


同じカテゴリー(新市場創造)の記事画像
マーケティングノート(2)後半
マーケティングノート(2)前半
2023年ヒット商品版付を読み解く 
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半 
春雑感  
同じカテゴリー(新市場創造)の記事
 マーケティングノート(2)後半 (2024-04-07 12:53)
 マーケティングノート(2)前半 (2024-04-03 13:42)
 2023年ヒット商品版付を読み解く  (2023-12-23 13:30)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半 (2023-07-05 13:15)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半  (2023-07-02 14:01)
 春雑感   (2023-03-19 13:11)

Posted by ヒット商品応援団 at 13:51│Comments(0)新市場創造
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
加速するキョロキョロ消費
    コメント(0)