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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2012年08月25日

消費増税と消費変化(4)既に始まっている消費移動

ヒット商品応援団日記No532(毎週更新)   2012.8.25.

前回は消費増税に際し、引き算消費という「過剰さ」を削ぎ落とす消費行動と足し算消費という食べ放題に代表されるコスパ(コストパフォーマンス)型消費という2つの異なる消費がまだら模様のように出現すると予測した。
消費増税がライフスタイルにどう影響するか、この2つの消費の現れ方は極めて「激的」に進行すると考える。その一番の理由は情報の時代の消費は常に「先行」し、徐々にではなく「イッキョ」に変化するということである。その芽と言っても良いかと思うが、増税が可決した直後から、人生にあって最大の買物である住宅への注目が集まった。勿論、長期金利が安いこの時に住宅を購入しよう、更に今後予測される住宅ローン減税やエコカーのような住宅取得補助金などの官製支援を見据えながらの物件選びである。こうした消費行動はまさにコスパ型消費のさえたるものであると言える。
また、住宅に関して言うと、「スマートライフ」というテーマで新しい合理的生活について少し前のブログに書いたが、いわゆるスマートハウスという創エネ&省エネという新しいコスパ型住宅が増えていく。そして、その際キーワードとなっているのが、コスパシュミレーションである。簡単に言ってしまえば、何年後には創エネ設備投資(例えばソーラーパネルの設置等)の回収を終えるというものである。こうしたどちらかと言うと新規住宅と共に、リノベーション住宅も増えていく。格安でしかも自分好みのデザイン住宅は大きな市場となる。
全てコスパ型消費で、既に住宅メーカーやマンションデベロッパーはシュミレーション営業を開始している。

こうしたコスパ型消費は生活の細部に波及していく。LEDがそうであったように、「最初は高いが、結果お得」商品は単なる節電・省エネを超えた冷蔵庫や洗濯機などの白物家電が既に販売を伸ばしている。こうした商品は従来(過去)の商品との比較においてお得感を明示していくのだが、今後は単品としてのお得から、生活全体のお得へとシュミレーションしていくこととなる。つまり、従来(過去)型引き算という消費、単純に節約する行動とは別の発想への転換である。その象徴例であると思うが、猛暑もあると思うが、冷凍庫の需要が大きくなっている。一定の量をつくり冷凍保存するという計画的で無駄を排除するための冷凍専用庫である。

増税実施まで1年半ほどであるが、家計簿を基礎とした日常の節約術が更に盛んになっていく。お父さんの小遣いも減り、サラリーマンのインタビューでおなじみの東京新橋にも更なる変化が出てくる。リーマンショック後、確か朝日新聞であったと思うが、「千ベロ酒場」というキーワードでお父さんの小遣いを表現する記事があった。つまり、千円でベロベロになれる酒場という意味であるが、その内容は立ち飲み居酒屋でおつまみはほとんどが200円未満、缶詰をおつまみとする立ち飲みもある。こうした居酒屋も千円から800円へ、700円へと変化し、昔懐かしいホッピーなんかが主流になるかもしれない。そして、週一回の立ち飲みがニ週間に一回と回数も減る。
若い世代、under30はどうであるかと言うと、男女共に自分で作る弁当族が増え、500円ランチには行列して食べる。団塊世代の若い頃のデートは映画を見て食事をするといった行動であったが、草食系世代のデート先は自宅になり、コンビニでビールを買い、DVDを一緒に見るといった具合である。そして、浮かせたお金はどうであるかと言うと、勿論、貯金へと回る。コスパ世代と言ってもかまわないほど徹底している。

ところでリーマンショックもそうであったが、それ以前の1997〜8年という不況突入時には新しいデフレ業態が出現している。1997〜8年という時期は拓銀や山一証券が破綻した時期であるが、1990年代初頭のバブル崩壊が失業や収入源となって現れた時である。このタイミングで出てきたのがいわゆるデフレの旗手といわれたマクドナルドや吉野家、ユニクロといった企業群である。リーマンショックの少し前からであるが、この時期出てきたのがわけあり商品群である。TV通販によるたらこの切れ子といった食品から始まったわけあり商品であるが、大量一括仕入れの回転寿司や中元・歳暮の売れ残りアウトレット食品、更にはチョット狭い、見晴らしの悪い部屋を特別価格にした旅館・ホテルといった領域まで、どんどん拡大した。そして、今年にはLCC(ローコストキャリア)元年と言われたように大人気となっている。例えば、1990年代半ばユニクロや渋谷109系のアパレルブランドがSPA(製造小売業)という革新的な方法を切り拓いたが、今やSPAではないファッション専門店は選ぶほどしかないのが実情である。つまり、こうしたローコスト業態はビジネス業態としては作り手も消費側も普通になったということである。

今大人気なのが、ガツン系から始まった食べ放題、ビュッフェスタイル、という足し算消費であるが、その種類やコストはどんどん広がり、そして更に安くなってきている。元々ホテルの昼食バイキングから始まり、グルメバスツアーの食事へ、今や街中の飲食店ではあたり前の風景となった。種類によって価格は様々であるが、数年前2000円弱であったものは1500円弱が主流となっている。ちょうどコンビニ弁当がお茶を入れて500円弱であったものが今や400円弱となったのと見事に符号している。
そして、相変わらず人気イベントなのが、つめ放題で、野菜などの食以外の衣類にまで広がっている。

ところで引き算消費の課題であるが、リーマンショックの直後やそれ以前の不況期突入時には不要不急型商品の市場は縮小してきた。その代表としてファッション・身の回り商品と外食が挙げられるが、従来のようなビジネスを継続するのであれば縮小することは間違いない。いや縮小といったやさしい表現どころか激減する可能性がある。また、こうしたカテゴリーの商品群と共に引き算消費として直接的影響を受けるのが旅行や娯楽産業である。リーマンショック後、米国ラスベガスのカジノが破綻したが、日本に置き換えるとパチンコ・スロット業界は厳しくなるということだ。そして、旅行市場であるが、数年前から円高により海外旅行が活性化しているが、円安へと振れた時、海外旅行は激減する。その振り替え旅行としては、LCCを使ったり、JRの青春18切符といった割引制度をうまく活用する。更に、新東名の開通で脚光を浴びたSAのご当地グルメなど新しい娯楽へと消費移動が起きる。そして、一番の消費移動は、お金をかけないで休日を楽しむ、懐かしい言葉であるが「ピクニック」なんかが盛んになる。あるいはそのピクニック先であるが、緑の多い四季が楽しめる公園を始め、例えばリゾート気分が楽しめる三井アウトレットパーク木更津や郊外型SCといった商業施設にも多くの家族連れが足を向ける。

このようにお金をかけないで済む消費移動が行なわれるということである。
そこでどのような対策をとったら良いのか考えてみたい。「売って終わりの商売から、売って始まる商売へ」、不況期に入った1998年頃顧客満足が大きなテーマであった時に使われた言葉である。このキーワードも忘れられて久しい。情報の時代にあっては、ファッション関連商品は特にそうであるが、顧客の目を飽きさせてはならないと現場では次々と変化を導入し、変化という商品を顧客へと販売してきた。常に鮮度ある商品、鮮度ある店頭、これが最重要視され、顧客関係はその次になって今日に至る。増税に備え、顧客を今一度主人公とし、次なる顧客関係を築くこと、このことを販売の基本テーマとしなければならない。顧客はオシャレをしたくて店頭に来る。オシャレに必要なことはモノとしての商品だけではない。既にあるモノをどう魅せるかであり、そのためのコーディネーション、スタイリングこそが求められる。これが「売って始まる商売」であり、販売員は顧客の良きスタイリストになるということである。

引き算されてもなお残るには、これも忘れられて久しいキーワード、オンリーワン、オリジナリティ、ここだけ、固有、・・・・・いくらでもキーワードは出てくるが、理屈っぽく言えば類似を免れる独自商品であり、技術であり、業態は増税という荒波を超えることが出来る。以前、「潰れない会社の持続力」とは何かというテーマでブログにも書いた。そこで数百年の時を経て成長するブランド価値とは何か、というテーマでもあった。ブランドとは使われ続けるという時を積み重ね、何層にも積み重ねられた使用価値集積の結果である。日本人はそれを暖簾と言ってきた。奉公人が独立をする時には、お祝いの品の中に暖簾が含まれており、世間の信用という何よりの資本財として扱われてきた。ブランドとは時を超えてなお社会が「これはいいよ」と言ってくれるものだと言うことだ。前述の顧客関係もそうであり、信用というキーワードを今一度思い起こすことだ。

そして、もう一つが本質に立ち戻るということである。例えば、よく音楽産業が衰退していると言われ、AKB48しかヒット曲はないと言われている。オリコンによる昨年の音楽ランキングではAKB48が上位5曲を占め、大人向けのヒットした曲がなく、相変わらずCDは売れない状態が続いている。しかし、音楽そのものが不況なのではなく、ライブハウスはどこも一杯であるし、ライブコンサートには多くのフアンが押し寄せている。何故なのか、音楽の本質はライブにあるという至極当たり前のことに気づいたからである。上位5曲を総なめにしたあのAKB48も「会いに行けるアイドル」として秋葉原のビルに常設舞台を持っているではないか。

増税に対し、特別なこと特効薬などはない。大切なことは顧客の消費移動がどこに向かっているかを見極めることにある。利用回数が減っているのか、客単価が下がってきたのか、こうした従来手法の変化を踏まえ、直接的な競合を見るのではなく、従来の消費にふり変わった先は何か、顧客変化それ自体を見極めることにある。リーマンショックの前であったと思うが、円安ということもあって年末年始の海外旅行に行くのはやめ、年始は自宅で過ごす人が増えたことがあった。そして、海外渡航費用の一部は5万円以上もする老舗料亭のおせち料理に替わるという消費移動が起きた。今年の正月は旅行に替わって、おせちのプチ贅沢を楽しむということだ。こうした消費移動という変化を見極めるということが一番大切なことである。そして、既に始まっているということである。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:13│Comments(0)新市場創造
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