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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2012年08月16日

消費増税と消費変化(3)引き算と足し算

ヒット商品応援団日記No531(毎週更新)   2012.8.16.

前回「未来」の象徴である子ども、その手当の使い道に触れながら消費増税への「備え」、自己防衛志向について書いた。その「未来」についてであるが、ビジネスの師であるP.ドラッカーは”未来はわからない。しかし、未来を知るには2つ方法がある。既に起こったことの帰結のなかに未来を見る。または、自分で未来を創る”と指摘してくれている。生活経営という視座に置き換えると、”既に起こった未来”とは大きくはバブル崩壊後に現れた消費現象であり、もっと身近な未来ではやはりリーマンショック以降ということになる。特に、消費の多くは日常であり、身近な未来としての数年間に起こった小さな未来の芽を見出すことである。そして、もう一つが”自分で創る未来”であり、例えばリーマンショック後に広く浸透した「副業」もそうした未来の一つとしてある。この2つの視座から、消費増税への「備え」を見ていきたい。

「国民総幸福量」という新しい価値概念をもたらしてくれたのはあのブータン国王夫妻の来日であった。東日本大震災被災地へのお見舞いもさることながら国会での演説に多くの人が共感したことと思う。その演説にブータン人の精神性にふれた箇所がある。”人の心をとらえて離さない歴史が、ブータン人の人格や性質を形作っています。ブータンは美しい国であり、面積が小さいながらも国土全体に拡がるさまざまな異なる地形に数々の寺院、僧院、城砦が点在し何世代ものブータン人の精神性を反映しています。手付かずの自然が残されており、我々の文化と伝統は今も強靭に活気を保っています。”と語っていた。

一方、日本人の精神性はどうであるか、戦後60数年物の豊かさは手に入れたが何かが失われたのでは、と多くの人が振り返ったことと思う。この「国民総幸福量」という概念、人口わずか70万人のブータン国が注目される少し前に話題となったのが、「断捨離」であった。周知の本であるので詳しくは書かないが、一言でいうと、物が溢れる生活にあって整理整頓のためのハウツーを超えた「断ちなさい、捨てなさい、離れなさい」という一つの精神世界のすすめである。
この本を読んで思い起こしたのが、禅語にある「無一物中無尽蔵(むいちもつちゅうむじんぞう)」であった。何一つないところに、すべてのものが蔵(かく)されているという意味であるが、道元禅師は生きていくのに最小限のものがあればいい、「放てば手に満てり」と教えてくれている。断捨離と同じ意味合いであるが、過剰なものを削り、更に削ぎ落とし残るもの、その「先」に何を置くかである。いわば「引き算の美学」的生活で平たく言えばシンプルイズベスト、シンプルライフとなる。
食でいうと、素材を生かす、塩味だけ、手をかけない、ある意味本質・本当に戻ろうという潮流である。この潮流を視点を変えて言うと、例えば現在のデザイン潮流は、ノンデザイン・デザイン、シンプルデザインが求められているということである。あるいは、ノンエイジデザイン、といってもかまわない。そうした潮流の意味は、デザイン主体が顧客の側に移ったということである。

消費増税に際し、こうした過剰さの削ぎ落としは更にすすむであろうか。勿論、表面上は節約、回数減、市場の縮小と表現されるが、削ぎ落としは「進む」というのが答えである。こうした引き算発想に対し、小売り現場、店頭ではどういうことが要請されるであろうか。消費のプロ、プロシューマーというキーワードが忘れ去られて久しいが、生活の全てに対しプロであることは難しい。シンプルであればあるほど、コーディネーション、組み合わせ、が生活のなかに求められてくる。ファッションであればベストコーディネーション、私だけの着回し術、マイスタイリストと呼ばれるぐらいの「私宛」の専門性が要求される。つまり、物の価値と共に、より高いサービスが競争力を持つということである。このことはセルフスタイル業態であれ、接客サービス業態であれ、通販業態であれ同様に求められるということである。増税分を価格に上乗せできない、と言われているが、こうしたサービス価値がデフレ下にあって競争力として浮かび上がってくる。
そして、単純に増税分を価格に上乗せすることは今まで以上難しくなる。従来であれば、より原価の安い新たな商品開発、新たなメニュー開発、新たな技術開発によって利益を補填・確保してきたが、よりアイディアのあるユニークさが求められる。なるほどと頷けさせる新たな「納得価値」が問われるということだ。引き算による消費に対し、足し算のサービスやアイディアをもって顧客に向かうということである。

こうした傾向と共に、まさに逆の消費、足し算の消費が大きな市場として出現する。既にその兆候は出てきており、成功している業態は「デカ盛り」「食べ放題のビュッフェスタイル」「低価格セルフ式」「わけあり商品」「おまけ・付録付き」・・・・・・いわゆるコストパフォーマンス型消費である。この特徴が大きな潮流として現れたのが2007年でリーマンショックの1年前であったことを認識しなければならない。この年の日経MJのヒット商品番付けには価格戦略を中心に据えた新価格(新しい考え方に基づく価格戦略)によるデフレ型商品が多い。「デカ盛りフード(ガツン系)」、ソフトバンクの「ホワイトプラン」、マクドナルドを始めとした「地域価格」、GMSを始めとした「価格据え置きセール」、エコロジーをもったいない精神の発露とするならば「マイ箸」や「エコバッグ」も単に安いということだけではない新しい価格価値認識によるものだ。

数年前までは食べ放題バイキングはホテルの定番メニュー業態、飲み放題は居酒屋の定番メニューであったが、例えば今やスイーツ食べ放題の専門店チェーンが急増し、若い世代で満席状態となっている。最近では1500円弱で食べ放題のスイーツプラスパスタも食べ放題へとエスカレートしてきた。廃刊が続くファッション女性誌にあってほとんど一人勝ち状態のスイート(宝島社)であったが、今や他の雑誌も同じように付録付き雑誌が発刊され、コンテンツ情報の競争ではなく付録競争の感すらする状態である。つまり、市場、若い女性は付録に新しい価値を見出しており、そうした市場は既に多くの生活場面へと一般化している。
100円ショップとして新たな市場を開拓したダイソーはその後に参入した企業と共に進化している。その進化は単なる安さだけでなく、アイディア溢れる便利商品が並ぶ。そして、ワンコイン商店街も全国へと広がり、ワンコイン(500円)ランチは日常風景となったが、本業は中古車販売であるが、10分100円というレンタカーも出てきた。

この夏休みはJTBによれば過去最高である272万人が海外へと向かうとの予測。東日本大震災による内側へと向かった自制の気持ちも外へと向かってきたこともあるが、そんな心理を後押ししているのが円高である。つまり、安い、お得感が海外、特にロンドンオリンピックもあって欧州方面が多いとのこと。数年前であれば、韓国や台湾といった近場が旅行先であったが、円高によっていわば足し算のように遠くへと旅行先が広がった。
JRの青春18切符はシニアの定番メニューになり、今年から本格稼働したLCC(ローコストキャリア)も既に定番メニューとなってきた。入り口は入りやすい価格、そのお得感を踏まえたもうちょっと先へ、もう一品、もう1日、もう一回、足し算を楽しんでもらうような仕組み、プログラムがプランされている。

このように今やデフレ対策は日常化し、特別なものではなくなった。どれだけ安くすれば競争力となるのか、1990年代から始まった地代や人件費が安い韓国や中国での生産から、もっと安い中国沿海部からその内陸部へ、更にはベトナムへ、あるいは最近ではミャンマーへ、こうしたグローバル経済によるコスト競争はいたるところで消費を基点としてマーケティングされている。周知のように2012年上半期の国内市場においてユニクロ既存店の売上は伸び悩んでいる。勿論、のびしろは世界市場で国内市場ではないが、競争相手であるH&MもZARAも日本市場においては苦戦していると聞いている。
これは私の推測ではあるが、ユニクロは素材開発に力点を置いているが、量販型業態は価格の次なる価値創造がまだ見出せない情況にあると考えている。「お値段以上ニトリ」というコンセプトによって北海道から全国へと急速に展開してきているが、次なる価値あるモノ創造へどこまでやりきれるかという課題でもある。例えば、同じインテリア業界で言うならばイケアのように安さもさることながらデザイン力を魅力としているが、同一商圏内で競争した場合、ニトリはどんな戦略をとるかである。このことは、消費増税に対し新たな価値創造を提示しない限り、売上は下げ続ける、消費は下げ続けることと同じである。

どれだけ原価を抑えられるか、規模のビジネスもさることながら脱法的手段によるコストパフォーマンスによる事故も当然増えてきている。ここ1〜2年を振り返っても、富山の焼き肉チェーン店における集団食中毒、あるいは関越自動車道における深夜バス事故、そして、最終の原因究明はなされていないが福島の原発事故も新たな安全、安心のための基準が問われ、消費においても選ぶ理由の一番目に上がり自己防衛志向を強めている。
つまり、コストパフォーマンスの裏側に潜む安全コストをどう引き受けるかという課題が、メーカーや流通だけでなく直接消費者に突きつけられてきている。
引き算消費には新たなサービス価値が求められ、足し算消費については安心を担保する情報開示が今まで以上に必要になるということである。そして、引き算ビジネスと足し算ビジネスは2極化しながら混在していくのが都市市場と言えるであろう。また、次回に詳しく述べるが、引き算市場と足し算市場の中心顧客であるが、前者はシニア世代であるのに対し、後者は20〜30代の若い世代である。こうした市場特性についても次回私見を書くこととする。(続く)


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