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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2007年10月24日

小さな親鸞         

ヒット商品応援団日記No213(毎週2回更新)  2007.10.24.

私に目ウロコさせてくれた一人歴史研究家網野善彦さんは、高校教師時代に生徒から「なぜ、平安末・鎌倉という時代にのみ、すぐれた宗教家が輩出したのか」という質問を受け、何一つ説明できなかった。この質問が後に網野さんの歴史に対する考えを大きく変え、中世日本の既存の歴史観を根底から覆す研究へとつながっていく。中世日本の戦乱による略奪、殺人、飢え、流浪する人々を救うために親鸞、一遍、日蓮という宗教家が生まれたことは周知の通りである。今風にいうと、パラダイム(価値観)が混乱する「何でもあり」のカオスの時代であった。それは戦乱の世という側面と共に、網野さんが指摘するように貨幣経済を含めた日本資本主義とでも言える経済社会が勃興し始めた時であった。そうした時期に「何を規範とすべきか」という社会の物差しが希求され、親鸞のような今日なお生き続けている教えが誕生する。ちなみに、鎌倉時代の荘園経営の多くは禅宗の僧侶もしくは山伏であった。和菓子赤福を始め相変わらず企業の不祥事が続くが、経営リーダーの源流は聖職者であったということを認識しなければならないと思う。

直近のデータはとっていないが、鬱病を始め精神疾患は1990年代後半から増加し、自殺者の主要因となっており、最近ではキレル子供と同じように大人までもがキレル時代となった。そうした疾患には至らないが不眠を訴える人は相変わらず多く不眠解消グッズや癒し系サービスは人気となっている。こうしたストレス社会の根底には複雑な人間関係や生活とビジネスの境界線を無くし、四季という境界すらなく、ただひたすらスピードに身を任せざるを得ない時代にいるということだ。
社会へと問題を投げかけた熊本慈恵病院の赤ちゃんポストは現在8人の子供を預かっているという。しかし、病院関係者は予期せぬ妊娠による電話相談がひっきりなしにかかってくる件数の多さに驚いているという。いかに孤立した女性が多いかということであろう。

中世日本と今という時代を重ね合わせることには無理があると思うが、「何を規範とすべきか」が個人と共に、コミュニティ、企業、更には国家という単位で求められ、こころある人達が活動し始めている。Web2.0を提唱した梅田さんはシリコンバレーのベンチャー精神に拠りどころを求め、元リクルートの藤原さんは教育の再生を目指し中学校の中に地域本部を置いて新しい規範を創り始めている。この10年、ヒーローを待望するような動きが政治から経済、さらにはスポーツに至まで数多く見られた。おそらくその底には親鸞のような宗教家を待望していたのだと思う。
マーケッターやビジネスマンはモノやサービスが買われるメカニズムの解明のために心理学を再学習し、その先の脳科学へと向かっている。勿論、こうした傾向を踏まえ、悪意ある人間・犯罪者は、オレオレ詐欺を始め最近では円天といった詐欺事件を起こす。善くも悪くも、市場は宗教的になったということだ。

ところで混乱の中世日本に現れた親鸞であるが、その教えに悪人正機というキーワードがある。良く知られている歎異抄の一節に「善人なおもて往生す、いわんや悪人をや」がある。善人でさえ往生できるのだから、悪人はいうにおよばないということである。世間の常識からいえば、悪人でさえ往生できるのだから、善人はいうにおよばないとなるところであるが、親鸞はあえて正反対のことを言っている。親鸞は仏に仕える聖職者と庶民との間に大きな落差を感じ、自ら庶民と同じようなところで考えた人物である。なまぐさ坊主の元祖と言われているが、戒律を始め多くの既成を壊し、酒は飲むし妻子を持つといった今日の宗教者のあり方を先見した人物である。その親鸞は善とは無私無欲で下心や見返りを求める心のないことを指しており、煩悩を捨てきれない自らを悪人であるとの自覚のもとに阿弥陀にすがろうとした、と私は理解している。今、悪の権化のような言われ方をしている亀田父子や沢尻エリカであるが、ボクシング界や芸能界で小さな親鸞に出会わなかっただけだと思っている。会えば悪とはいわないが、足りない自覚が生まれていたと思う。おそらく、これからは普通の生活者の中から小さな親鸞が生まれ、そこに小さな次のビジネスが育っていく。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:42│Comments(0)新市場創造
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