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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2011年04月13日

明日のライフスタイル

ヒット商品応援団日記No496(毎週更新)   2011.4.13.

東京都知事に石原氏が4選されたが、当選直後のインタビューで「日本人はもっとつましくしなければならない、年間でパチンコに450万kWも使い、自販機にも450万kWも使い、こんなエネルギーを浪費する都市はない。すぐ止めるべきである」と発言し、震災直後の「我欲に縛られた日本人への天罰発言」と同様に物議をかもしていた。3.11という日を境にライフスタイルが大きく変わると私は指摘をしてきたが、石原都知事の表現の足りなさはあるものの、それほど見当違いの発言ではない。というのも、既に昨年4月から地球温暖化対策として条例によりCO2削減の義務化と共に、以前ブログにも書いたように排出量取引制度が実施されている。つまり、地方にある自然エネルギーを東京の企業が買うということである。その代表的事例であるが、青森六ヶ所村の風力発電と東京新丸ビルにおける電力売買・消費などがその良き事例である。福島原発による電力のほとんどが東京で消費されているが、こうした文脈のなかでのパチンコ止めろ発言である。ちなみに、「都道府県別自然エネルギー自給率」で、最も自給率の高いのが地熱発電、温泉熱利用の高い大分県の25%、第二位はヨーロッパ型の水車の利用といった小水力発電の盛んな富山県、勿論最下位は東京の0.21%である。ところで、原子力発電を含めないエネルギー自給率の各国比較では米国73%、英国113%、中国100%、日本はわずか6%である。

ところで、原子力発電はエネルギーコストが安くすむと考えられてきたが、今回のような2次災害を考えると、原子力賠償法の限度額である1200億円の何十倍にも及ぶと推測される。つまり、事故を一旦起こすと高コストエネルギーになってしまうことであり、それは生活家計にも及ぶということである。パチンコや自販機がなくなる訳ではないが、便利さ、快適さ、そして日常の楽しみが自己抑制に向かい、自らバランスのとれた計画家計に向かうことは間違いない。そして、数年前から始まっている「エコはお得」という価値観への移行が早まる。例えば、

○省マネー/節約術を網羅した新しい家計簿なんかはヒット商品になる。1ヶ月5万円生活といった情報が広がる。こうした直接的な省マネー術やその方法が注目される。
○省住宅/既にあるシェアーハウス、共同住宅が増加する。そして、狭い部屋を広く見せる空間デザインに注目が集まる。更に、車以外にもシェアーする多様なサービスも生まれる。
○省旅行/既にある省旅行メニューが充実されていく。例えば、LCC(ローコストキャリア)を巧く組み込んだ旅行。旅館における泊食分離は標準となり、食もセルフスタイル(自炊)が人気となる。人気の夜行バスやJRの割引切符を使った面白旅行なんかもヒット商品となる。
○省食/うちご飯に代表されるような内食が更に進む。この傾向を後押しするのが電子レンジと冷蔵庫である。例えば、電子レンジで魚を焼くパックのようなものが続々と出てくる。また、省マネーにもなるフェイク食品、もどき食品のなかからヒット商品が生まれてくる。
○省ファッション/ユニクロのヒートテックではないが、暖めるあるいは冷やす新素材による衣料が更に充実する。勿論、3年前にヒット商品となった洗えるスーツといった商品もその範囲が広がる。また、LEDと同じように初回は少々高いが、10年、20年着続けても飽きない、お気に入り商品も出てくる。

こうした省エネ型ライフスタイルと共に、従来の時間行動とは異なる変化が生まれる。まず変化が表れてくるのは休日であろう。既に、今夏の休暇の取り方もいわゆるお盆休みといった一斉休暇から、企業も個人も互いにずらし合う分散型休暇となる。こうした考え方の延長線上にあるのが、電力需要の少ない夜間操業や夜間家事といったスタイルも生まれてくる。就業形態も土日は休日といったことから他の曜日にシフトすることも出てくる。勿論、在宅勤務も今以上に増えてくる。

こうした省のライフスタイルと共に、強く出てくるのが、自己防衛的、自給自足的なライフスタイルである。まずエネルギー面では企業も個人も、自社発電、自家発電が増加する。JR東日本のような電力消費の大きな企業は既に自社(水力&火力)発電を行っているが、大型商業施設なども新丸ビルのように自然エネルギーを個別に購入する方向に進む。個人の家庭においても、政府の助成を必要とするが太陽光エネルギーを取り込む動きは加速する。また、今後の課題として、地域単位あるいは共同でエネルギー開発を行い、シェアーするといったプロジェクトも生まれてくるであろう。震災後1ヶ月が経ち、当初の福島原発事故の評価がレベル4から、次にはレベル5になり、今やチェルノブイリ原発事故と同じ最悪のレベル7へと引き上げる発表があった。そして、既に3月23日時点でレベル7に相当する放射能が拡散していた事実を隠していたということである。パニックを起こさせないためであるとは思うが、コトの重大さを遅らせ、安心ですと言い続けてきたことに対し、福島の被災住民ばかりか首都圏生活者は政府・東電を最早信頼できないところまで至っている。目の前の問題解決には政府・行政の力を必要とするため無策への怒りは表には出さないが、時間経過と共に、自己解決への道が模索される。被災地の行政も同様に被災し機能出来なくなった地域では住民自らが役割分担をしながら生き残る術を実践しているように、新しい自治が生まれている。これらも自己防衛、自給自足といった方向と軌を一にしている。

ところでGW期間中の国内旅行の動向であるが、惨憺たる情況となっている。JTBは、4月の予約数が昨年同期に比べ約3割減ったと発表。特に東北方面は約7割減と深刻な状況だ。関東方面は東京ディズニーランドが15日から開演するという朗報もあるが、約4割減となっている。海外旅行の方は国内旅行ほどの落ち込みはなく、阪急阪神交通社では欧州や台湾、韓国で昨年同期比1〜3割増となったほかJTBもGWは前年同期比95%と、国内旅行ほどの落ち込みはない。ただ問題は海外からの旅行客数の激減、いやほとんどがキャンセルとなっている点である。勿論、福島原発事故による放射能汚染によるもので、東京だけでなく福島から遠く離れているクールジャパンの代表的観光地である京都を始め関西地区では特にひどい情況である。その一例であるが、大阪入国管理局関西空港支局によると、関西国際空港から入国する外国人は1日あたり3000〜4000人だったが、震災後は約1700人に半減している。ちなみにホテル日航大阪では、近年増えていた花見目的の外国人観光客からキャンセルが相次ぎ、3月だけで1000室以上の予約が取り消された。4月以降の海外客も7割がキャンセルになっており、担当者は「渡航制限がいつまで続くか分からず、展開が読めない」と苦悩している」と報じられている。

関西がこうした情況であるということは、首都圏はいうまでもなくそれ以上ということである。まるでクールジャパンがダーティジャパンになったかのようである。今月末には日本百貨店協会から3月度の売上が発表されるが、暗澹たる売上数字になる筈である。というのも首都圏の消費、百貨店売上の一角を中国を始めとした外国人観光客が占めていることが明らかになる筈である。つまり、消費都市東京は外国人観光客によって支えられているということである。消費都市東京の生活者は、野菜や魚、電力といったエネルギーまでもが東北・北関東に依存し消費しているだけでなく、外国人観光客によっても支えられていることを実感している。そして、消費都市東京が収縮することは関西地区の実情を見ても分かるように、日本全国へと広がっていくということである。勿論、だから自粛ムードから脱却しなければなどという短絡したことを言うつもりではない。

どんなライフスタイルになるのか現在進行中である。しかし、1990年代初頭のバブル崩壊後、失われた20年と言われてきたが、答えを出す時となる。「豊かさとは何か」、20年来のテーマを今一度考えることであり、グローバリズムの世界にあって「日本とは何か」を問い直すことでもある。今回の大震災を評し、太平洋戦争と較べる人が多くいるが、荒廃した戦後からホンダやソニーが立ち上がったように新しい何かが生まれる。ここ数ヶ月、消費面においては萎縮し収縮し氷河期のように見えるが、ライフスタイルの根底を為す「生き方」を孵化させる期間となる。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:23│Comments(0)新市場創造
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