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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2011年04月10日

新たな日常のデザインへ

ヒット商品応援団日記No495(毎週更新)   2011.4.10.

例年、夜桜の下で花見が行われる東京上野では桜を浮かび上がらせる照明もなく閑散としている。そうした光景へのコメントとして、過度な自粛は日本経済の活性につながらない、ひいては東日本大震災の支援にもつながらない、という報道がマスメディアから流されてきた。確かに消費都市東京は消費することがいわば生産活動となっている側面はある。しかし、そうした理屈で消費していることではない、花見を楽しむ気分にならないということだけである。
日本には死者を悼み弔う時間を49日とし、それを喪に服するという。親族といった近しい方の弔い方は別として、それが49日でも、30日でもかまわない。各人の思いのなかにあるだけである。

作詞家阿久悠は歌謡曲との関わりについて、流行歌と比較しながら、流行歌には既に型もあれば言葉もらしいものとらしくないものに仕分けされ、自由がなかったと語っていた。それに較べて歌謡曲は「定型や様式から解放され、逆にいえば、永久に伝統芸となり得ない、常に生きもののようなところがあって、それが魅力だった」と語っていた。
消費も歌謡曲よ同じ、いやそれ以上に人のもつ欲望をストレートに表現し、生きもののように日々変化する。歌もよう、人もよう、と阿久悠は言ったが、消費もよう、人もようである。

ところでその消費であるが、上野動物園のパンダは公開されたが、東京ディズニーリゾートは休園のままである。このブログでも以前取り上げてきたが、東京という消費都市、世界中の新しい、珍しい、面白いモノやコトが集積され消費される都市にあって、その象徴的なものの一つが東京ディズニーリゾートである。恐らく必要とする電力が安定供給されることが100%保証されない限り開演はされないであろう。自社発電という話も出ていると聞くが、徹底した顧客第一主義をとる東京ディズニーリゾートにとって、多くのアトラクションが途中停電することなどあってはならないと考えている筈である。楽しみが恐怖に変わることが一度でも起きたら世界中のディズニーの明日はないと考えているからだ。

震災直後から計画停電という無計画さについては大問題であると指摘をしてきた。その時、東京という消費都市の生活者については、計画停電という無計画さ、福島原発事故の汚染拡大に対し、被災地の方達を思い、見守り、そして政府や東電に対し寛容であるとブログにも書いた。震災後1ヶ月が経過し、私もそうであるが多くの人が、コトの本質、コトの顛末について語り始めた。
その象徴的な言葉に代表されるのが、政府も、東電も、そして防災や原子力発電の専門家が異口同音に「想定外」であったという。同じ言葉を使うのならば、生活者においても、消費も、想定外の消費へと向かったということだ。3.11後1種間は、そうした消費、後にパニックであったといわれるかもしれないが、買いだめはあったと思う。しかし、2週間を経た頃には買いだめを既に終えて、日常の消費に戻っていた。ちょうどその頃、公共放送が買いだめをしないようにと遅れて放送された。想定外という言葉は想像力の無さの別名であり、それは消費生活の場合は1週間で終え、想像力を取り戻したということである。

つまり、震災直後の消費は想像力を働かす余裕はなかったということである。私が消費氷河期に入ったと指摘をしたが、同じような意味合いの発言があのミュージシャン坂本龍一からあった。東日本大震災の慈善コンサートへの参加を前に、坂本龍一さんが8日、時事通信のインタビューに応えたものであるが、自身の支援活動については「ミュージシャンのスキルを生かして募金ができるなら、どんどんやるべきだ」として、積極的に関与する考えを強調。「被災地が落ち着いて、音楽でも聴いてみようかなという余裕が出てきた頃に、仲間と一緒に音楽を届けに行ければいい」、今は歌うことができないと語った。私もそう思う。歌は聴く人が聴きたいと思って初めて、歌は音楽は成り立つのだ。だから、今は歌えないと坂本龍一は答えていた。聴く人達が想像力を働かせることが出来る頃、坂本龍一も音楽という想像力で答えてくれると思う。

消費も同じでパニックを終え、喪も明けて日常へと戻ったが、3.11以前の日常とは違う日常へと向かう。新しい生活をデザインするということである。そのデザインへの一歩は既に始まっている計画節電に見られるような「省」をキーワードとしたライフスタイルである。一昨年のヒット商品であった照明電球のLEDや濯ぎが1回ですむ節水型洗剤アタックネオのような商品を積極的に生活へと取り込む新しい合理主義的生活へと向かう。このライフスタイルは衣食住から遊休知美といった不要不急型商品やサービスにも及ぶ。これらの省マネー型商品やサービスに共通しているのが「セルフスタイル」である。そして、自己抑制から自己防衛へとシフトしてくる。それは福島原発事故が収束するにはかなりの時間を必要とすることが、原子力発電の素人である私たちにも分かるからである。
喪が開け普通の日常生活に戻り、外側から見ると、消費氷河期のように見える。ただ、レトルト食品や缶詰、ラーメン、ガスコンロといった地震や停電時といった耐乏生活に必要とする商品は既にストックされている。また、景気はかなり落ち込むと誰でもが感じているが、こうした寒さを防ぎ心も身体も温める工夫ある生活が始まる。3.11が教えてくれたのはこうした日常の大切さ、普通の大切さであった。そして、大切にしたい日常、普通であることを想像力を働かせ、一工夫、楽しむ工夫へと向かっている。歌謡曲と同じように、定型や様式から解放され、消費もよう、人もようへと向かったということだ。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:22│Comments(0)新市場創造
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